魔法少女よ、巨乳であれ。

遠坂 遥

第1話 プロローグ① 少女たちの出会い

 その日、私、結崎ゆいざきかすみの心はものの見事に撃ち抜かれた。

 私の視線の先、教室の黒板の前には、これまで私が見た中で最も可愛らしいと思われる少女の姿があった。その人は、金髪のツーサイドアップが特徴的な超絶美少女で、名前を高坂こうさかみずきという。私にとって、当然のことながら彼女のあらゆるパーツが素晴らしかったのだが、その中でも特に気になった部分がある。それは、彼女の髪と同じ金色をした大きな目だ。彼女の目は大きいだけでなく、意外にも鋭く、可愛らしさの中にカッコよさも感じ取れ、私は彼女の瞳に吸い込まれそうなほど彼女の目を凝視してしまったものだった。


 ちなみに今は五月のGW明けのとある日であり、私は今まさに五月病の真っ最中であった。こんな中途半端な時期に、みずきちゃんは突如都内の別の高校から新宿にあるこの百合ヶ丘学園に転校してきたのである。


「それじゃ高坂さん、自己紹介お願いね」


 担任教師に促され、みずきちゃんが自己紹介する。


「高坂みずきといいます。ちょっと事情があってこんな時期に転校してきました。仲良くしてくれるとうれしいです」


 そう言って微笑むみずきちゃん。顔も思いっきりタイプだが、容姿と同じく若干幼いその声もまた私の耳を幸せにする音色を奏でていた。


「可愛い!」「お人形みたい」「綺麗な金髪ねえ。ハーフかしら?」


 みずきちゃんに対する感想があちらこちらで聞かれる。恐らく多くの子が彼女の可愛らしさの虜になっているのだろう。


「それじゃ、席は結崎さんの後ろが空いているから、そこに座ってね」

「はい」


 先生が私の後ろの席を指し示す。それと同時に、こちらを向いたみずきちゃんと私の目が合ったのだ。

 目が合ったみずきちゃんは、なんと私に軽く会釈してくれた。私は興奮がばれないよう、必死に自身を律しながら会釈を返した。


 はっきり言ってしまおう。私は彼女に惚れていた。できることならすぐにでもお近づきになって、デートして、恋人になりたい。私はその時はっきりそう思ったのだ。


「よろしくね」


 気づくと、みずきちゃんが目の前にいた。私は一瞬反応が遅れたが、すぐに「う、うん! よろしくね!」と鼻息荒く返した。


 休み時間になり、案の定私の後ろの席には人だかりができていた。これは私の勘だが、私と同じように彼女に触手を伸ばそうと考えている人がこの中にまぎれているのは容易に想像がつく。

 この学校は比較的優秀な進学校だ。真面目な子が多く校風は穏やかだが、こと恋愛の分野に関しては肉食系の子が目立つ。実際、私はこの学校に入って一年経つが、既に学年問わず五人くらいの子に告白された。結局私はどの子とも付き合うことはなかったが、それぐらい皆恋愛に対してはアグレッシブなのである。

 だから、呑気にしていたら、後ろの席の想い人はあっという間に可愛い顔したライオンたちに狩りつくされてしまうことだろう。それだけは絶対に許せない! 何があっても彼女とは私が恋人になる! 私は一人固く決意し、なんと果敢にもライオンの軍勢の中に突っ込んでいったのだ。


「みずきちゃん!」

「え?」


 他の生徒と話していたのに突然私が話しかけてきたことに驚くみずきちゃん。困惑するライオンたちを無視し、私は強引に話を進める。


「みずきちゃん、今日が初日だからまだ学校のこと分かんないよね? 私が案内するから行こう!」

「え、でも今みんなと話して……」

「いいからいいから」

「ちょっとかすみ!?」


 不満たらたらな友人たちを押しのけ、私はみずきちゃんの手を取る。彼女は困惑しているが、一応席を立ってくれる。


「ささ行こう!」

「えっと……」


 私は躊躇いを見せる彼女の背中を押す。無論、背中を押されれば彼女は歩かざるを得ない。そしてこのまま教室の外に連れ出そうというのが私の算段だ。しかし、そう思ったまさにその時、あまりにも重大なハプニングが起こってしまったのだ。


「おっ、と!?」


 不意に、私は足元に落ちていた何かに足を取られる。そしてそのままみずきちゃん目掛けて倒れこんだのだ。倒れる途中、私は何かを掴んだような気がしたが、その時はそれが何かは分からなかった。


「ぐえっ!? イタタタ……」


 床に倒れる私。幸い私の胸はそれなりに大きかったので、胸がクッションになり、私が怪我をすることはなかった。するとその瞬間、突如周りの子たちが騒ぎ始めたのだ。何が起こったのか分からず私が混乱していると、今度はみずきちゃんが絶叫を上げたのだ。


「きゃああああああ!? あんた何やってんのよ!?」

「へ?」


 彼女の怒りは明らかに私に向けられていた。私はゆっくりその手に持っているものへと目をやる。それはなんと……


「スカート!? あとこれは……パンツ!?」


 そう、それはなんと、愛しの転校生、高坂みずきの大事な部分を今まさに覆っていたものたちだった。私は急いで顔を上げる。するとそこには……


「変態!? こっち見んな!?」


 大事な部分が完全に露になり、顔を真っ赤にさせ激怒しているみずきちゃんの姿があった。そして彼女はちょうど私に対し全力の蹴りをお見舞いする瞬間だったのだ。


「ぶふぇええ!?」


 蹴りはまともに私の顔面にヒットする。私は一瞬にして意識を失い、なんと放課後まで意識が戻ることはなかったのであった。



 放課後、目覚めた私は保険医から事情を聞き、ベッドの枕を涙で濡らしていた。そんな私の元に、幼馴染コンビ、武内ひまりと真壁・シャロット・グレンフェルの二人がお見舞いにやってきた。ポニーテールがトレードマークのひまりは、私の頭をわしゃわしゃと撫で、半笑いでこう問う。


「かすみぃ、大丈夫?」

「……これが大丈夫なように見える?」

「かすみ泣いてるの? そんなに蹴られたの痛かったんだぁ。せっかくぼくとおんなじでおっぱい大きいんだから、おっぱいでカードすれば良かったのにぃ」


 一方、そう言って笑顔満点なのは、銀髪ツインテールとロリ巨乳のインパクトがあまりに強い幼馴染その二のシャロであった。


「あんな一瞬でガードできる訳ないよぉ……って、ひまりさっきからずっと笑ってるし……」

「いや、笑うなって言われても、いきなり転校生のアソコ全員に晒して思いっきり蹴り飛ばされるなんて衝撃的な事件、笑うなって方が無理で……ぷぷぷ」

「ひまりぃ!?」


 私は笑い続けるひまりをポカポカと叩く。私が保健室に運ばれた後の話だが、みずきちゃんは転校初日からやらかしてしまったと思ったのか、その後は終始沈んだ様子で、他の子が話しかけてもほとんど反応できないくらい動揺してしまっていたらしかった。


「……そうだったんだ。私、謝らないと……」

「その方がいいね。彼女ならまだそう遠くまでは行っていないと思うよ。電車通学らしいから、駅まで走れば間に合うはずよ」

「そうなんだ! じゃあすぐ追いかけるよ」

「うん。カバンは置いていきなさい。後で家まで持ってってあげるから」

「ありがとう! ひま!」


 私は幼馴染に頭を下げると、全速力でみずきちゃんを追いかけたのであった。

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