ネットで見つけたストーカー【カクヨム甲子園バージョン】
無月兄
第1話
今の世の中、ネットを通じて誰でも気軽に情報を発信できるようになった。動画投稿なんて、一度大きく当たれば素人でもいきなり有名人の仲間入りだ。
そう言う俺は、趣味でツイッターをやっている。と言っても特に注目されている訳じゃなくて、完全に一般人のそれ。投稿する内容も、新商品のカップ麺がどうとか、旅行先で撮った写真とかくらいだから、こんなので世間が食いつくなんて思っちゃいない。
とはいえ、それをそこまで気にしたことはない。何気ない日常の一コマを送って、それで普段より多く反応があったら嬉しい。そんな、ささやかな楽しみだ。
そんな俺だが、自分のだけでなく他の人のツイッターだって色々見て回っている。
多いのは、やはり芸能人やスポーツ選手のような有名な人のだけど、俺と同じような、ごく普通の一般人のものだって侮れない。
クオリティがメチャクチャな中で、たまに笑える投稿を見つけた時は楽しくなるし、動物は好きでも飼うことのできない俺には、飼い猫の写真なんかは一時の癒しを与えてくれる。
今開いているブログも、接点もなければ名前も知らないどこぞのOLの書いたものだが、読んでみるとなかなか面白かった。
投稿している内容は、俺とそう変わらない、日常の一コマみたいなもの。まあ、俺がカップ麺を投稿するならこの人はクリーミーラテと言ったように、向こうの方が若干オシャレっぽくはあるけどな。
あと、旅行や買い物に出た先で撮った写真も時々あげている。これもやってることは俺と大して変わらないはずなのに、向こうの方がいいように見えるのはセンスの差なのだろうか?
だが読み進めているうちに、俺はあることに気づいた。
「ん?」
その時俺が見ていたのは文章でなく、それに貼り付けられていた写真だった。
さっきも書いたように、買い物に行った先で撮ったものだろう。ある街中で自撮りしているもので、それ自体には特におかしなところは何もない。だが、その背景に写っている男がどうも気になった。
それは、赤いシャツに赤いズボンを履いた、全身赤い色をした男だった。もし道を歩いている途中でこんなのを見かけたら、間違いなく二度見するに違いない。
だから最初は、その派手さのせいで目についたのかと思った。だがどうも引っ掛かるものがある。
「こいつ、さっき他の写真にも写ってなかったか?」
このツイッターの人は、割と頻繁に外で撮った写真をアップしていたが、確かその中の一つに、同じように真っ赤な格好をした男が写っていたような気がする。
画面をスクロールさせ、いくつか前に挙げられた写真を確認すると、やはりそいつはいた。
「同じやつだよな?」
隅っこに小さく入っていただけだったので、最初見た時はさほど気にしなかったが、さっきの写真と同じように、全身赤コーデの男が写っている。
まさかと思い、さらに他の写真を見てみる。何枚もの写真を見ながら、背景写り込んだ人をくまなく確認して回る。
するとどうだろう。
「ここにもいる。ここにも……」
その赤の男が初めて姿を見せたのは数ヶ月前。それから何度も、場所や時間に関係なく、いくつもの写真に写り込んでいた。
もちろん、こんなにも多くの写真に偶然同じ人物が写り込むなんてあり得ない。もしあるとするなら――
「ストーカーか」
恐ろしい話だが、やろうと思えばツイッターに挙げられた内容から、その人物の住まいを特定する事は可能だと言う。
もしこの赤い男が、ネットで見かけた女性の住所を調べてつけ回しているとしたら。
そう思った俺は、すぐにこのツイッターをやっている人物に危険を知らせてやろうと思った。だが、いざ書き込もうとして躊躇した。
もし勘違いだったらどうする?
掲載されている写真の背景に写り込んでいる人物の顔は、いずれもモザイクがかかっていて見ることができなかった。肖像権に対する配慮だ。
当然赤の男も、その顔を見ることは叶わず、本当に同一人物かは分からない。
だいいち、こんな目立つ奴が何度も写り込んでいたら、このツイッターの人だってとっくに気づいているんじゃないか。なのに何も対策をしている様子が無いのを見ると、やはりこれは別人なのではと思ってしまう。
だが、それでもやはり気になるものは気になる。知らせるべきか、放っておくべきか。
迷った俺は、結局知らせる事にした。気づいてないはずが無いと思うが、万が一と言う事もある。
『たびたび写真に写っている赤い服の人は知り合いですか?』
ストーカーと言う言葉を使うのには抵抗いがあったので、そんな一文だけをコメント欄に送り、後は受け取った側の判断に任せる事にした。
これで注意はできるし、勘違いだったらそれはそれでいい。そう思っていた。
だが次の瞬間、コメント欄に新たな一文が追加された。最初はツイッターの人のものかと思ったが、どうもそうでは無いようだ。
そして追加された一文というのが、これだ。
『ばれたか』
以上でこの話は終わりだ。えっ、それからどうなったのかって? だからこれで終わりって言ってるだろ。だってあれ以降、ツイッターの更新がピタッと止まったんだから。
だから俺は、ツイッターの彼女がその後どうなったかは分からない。もちろんあの赤い服の男についてもだ。そりゃ、ツイッターの情報から身元を調べることはできるかもしれないけどさ、それをやったら今度は俺がストーカーになるよ。
彼女に何かあったんじゃないかとは、深くは考えないようにしている。
だってそうだろ。もし本当に何かあったとしたら、俺が指摘したのがそのきっかけだったのだから。
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