第1章 強がり少女とホットココア

1 『open・heart』

「ここ、なのかな・・・?」


 噂を聞いてやってきたサツキは、その店の前で立ち止まった。そこには、『open・heart 心のひとりごと、お聞きいたします』と書かれた看板が出ていた。後ろにあるこじんまりした建物で、話を聞いてもらえるのだろう。

 意を決して、サツキは店のドアをノックした。



 椎野しいの 彩月さつきがその店の噂を聞いたのは、大学の授業後のことだった。いつものように友達の話に相槌をうっていると、気になる話が耳に飛び込んできたのだ。


「サツキ、魔女の店の噂知ってる?」

「知らない、かなぁ。どんなの?」

「なんかね、満月の日だけ開いてるらしいよ。話を聞いてくれて、しかも美味しい飲み物を出してくれるんだって!」

「話を、聞いてくれる――」

「そそ。なんかサツキみたいだよね~」

「そうかも、ね…」


 私みたい、か。サツキは美麗にバレないよう、こっそりとため息をついた。サツキは、元々こんな性格だったわけではない。本当は、明るい太陽みたいな活発な少女だったのだ。

 こうなってしまったのは――


「サツキ?」

「…あ、ごめん。ぼーっとしてた。そういえば美麗、昨日言ってた告白はどうなったの?」


 サツキの友達である水谷みずたに 美麗みれいは、近々告白するのだと自信満々に宣言していた。記憶が正しければ、昨日告白しに行ったはずだ。


「ふっふーん。もう結果は分かってるでしょ?当然、返事はOK。付き合うことになったよ!」

「わぁっ、すごーい!おめでとう!」

「えへへ、ありがとー。…あっ、今日一緒に帰る約束してたんだった!またね」

「う、うん。また明日ね」


 美麗は勢いよく言いきると、めでたく彼氏となった長谷君と帰って行ってしまった。ひとりポツンと残されたサツキは再びはぁ、とため息をつく。


(魔女の店、かぁ。どんなとこなんだろう…?)


 気になったサツキは、思いきって店に行ってみることにした。本当に話を聞いてくれるのなら、聞いてほしい話もあった。決めたら即行動。サツキは大学を飛び出した。

 道が分からないので大丈夫かな?と思ったけれど、この辺りでは有名な店らしい。聞くと、すぐに道が分かった。

 辿り着いた店は、普通の家のように見えた。けれど、看板が出ているので、ここで間違いないだろう。

 もう少しで日が落ちる。サツキは、メッセージアプリで母に『遅くなります』とだけ送信し、意を決して店のドアをノックした。

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