第79話 血を血で洗う

ヲヲはトトに噛みつこうとした。トトは避け、湖の中に背中から飛び込んだ。

ヲヲは私に近寄って、小瓶を渡した。

「解毒剤だ。飲むといい」

一気に飲み干す。……苦い。

「ありがとう。でもどうして味方に?」

「ぼろぼろになりながら戦う君の純粋な姿に心打たれた。

そんな君が王座の間で僕に訴えている様子を見て、それで思ったんだ。

『私は見てみぬふりをしていていいのか』と。

うすうす、あの方が私に隠していることがあると分かっていた。

君のお陰で僕は、一歩を踏み出すことができたんだよ」

私は、王のことを軽蔑していた。試練の時は憎んでさえいた。

でも王の、ヲヲの本音を聞いて、考えが変わった。

一つの情報で、こんなにも見え方が変わることに驚いた。


湖からトトが飛び出し、ヲヲに向かって拳を振り落とす。

私は目を疑った。

トトの左腕があるのだ。

ヲヲ驚いているようで、その声は震えていた。

「なぜ左腕が……」

「湖に入る直前に、ある動物に姿を変えた。

メキシコサラマンダーって知ってる?」

トトは左腕をさすった。

「メキシコサラマンダーは自身のあらゆる部分を再生する能力を持つ。左腕なんて、すぐに再生できた」

トトはにっこりと笑った。

優しさが溢れだすような笑み。

けれどそれは、人に向ける笑みではない。

まるで瀕死の小動物に笑っているような顔……。

私は背筋が凍る思いがした。こんなに歪んだ笑みを私は見たことがなかった。

パキパキと音を立てて、トトの手首や首の一部が黒い鱗で覆われていく。


瞬間、トトが消えた。速すぎて視認できない。

ヲヲと私は身構える。突如ヲヲの腕が抉られた。傷口から肉が覗く。

トトはヲヲの腕を持っていた。

「お返しだよ」

私は愕然とした。こんな一瞬で……!

トトが木の幹を、手の側面で叩いた。木はゆっくりと倒れる。

潰されないように、ヲヲと私は左右に走って避けた。

「なんてパワーだ……!」

「うふふ。ヲヲの驚いている顔は新鮮で良いね。

私の今の状態は、あらゆる動物の有利な部分を取り入れているの。

腕力も瞬発力も、私を超えるものは誰もいない」

再びトトは消えた。

目がトトの速さに慣れない。いつ攻撃されるか分からず、私は体を緊張させる。

不意に後ろに気配を感じた。

まずい!

振り向いた瞬間、私の目の前は赤く染まった。右肩が熱い。大量に血が吹き出している。

私は力が一気に抜け、地面に倒れた。


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