第78話 怒り絶頂
トトは話し続ける。
「私の唯一の懸念は、突然過去を思い出す人達だった。誰も前世を思い出す人がいるなんて思わないでしょ?
だから、キキに研究をするように仕向けて、『不治の病』を作り出した。
過去を思い出す人達は、悪夢に悩まされ、反抗する体力が残らないようにした」
「よくも……そんなひどいこと……!」
「国を治めるには、合理的に考えなければならないの。甘えは捨てる。そうしなければ上手くいかない」
私はトトの発言の中で、一つ気になることを見つけた。
「前世を思い出すって、転生者?
そんなに沢山いるの?」
「あー……。たくさんっていうか、この国の人は皆転生者だよ。
自覚する人が稀なだけで、皆同じ」
私は驚いて、体が硬直した。
「それって、カラ国は死後の世界……?」
「まあ……言い方を変えればそうなるね。皆が日本語を話していたり、日本の常識が通じるのは、全員が日本から転生してきているからだよ。
私は、ここを理想郷にしたかった」
「……トト、私からすればここは地獄だよ。理想郷に見せかけた地獄だ」
トトは少し低い声で言った。
「なんて?」
「トト、理想郷だなんて、誰からの評価を気にしているの?
神様はそんなに偉いの?」
「もちろん。私は神様に任されたんだから」
私は否定する。
「国は人によって自然にできるものだよ。
強制的に作った理想郷なんて、ただの監獄だ」
場をピリピリとした空気がはりつめた。
「ふうん。そういうこと言うんだ。
別にいいよ」
トトから殺気が放たれる。
「そろそろ殺すから」
トトは再び大蛇になった。
私は手足を虎に変える。
「私は死なない。まだやりたいことがある!」
私は自分を元気づけるために大声で叫んだ。
トトが首を伸ばして、噛もうとしてきた。
見極めろ。
隙間を見極めろ。
トトの牙がせまる。
ここだ!
私はトトの首と胴体とのわずかな隙間に滑り込んで間合いをつめた。私はトトの体を引っ掻いた。
手応えがない。というか固い。
「体の一部分を亀の甲羅に変化させた。肌の硬質化なんて簡単。
そして……」
トトは体をひねって私を硬質化した皮膚で殴打した。
私は飛ばされて、木に背中をうった。
「がはっ!」
息が止まった。
私は四つん這いになり、息を整える。
姿を変えたとき、変わった動物が持つ能力が体格に比例して向上する。でもトトは体格に関係なく強くなれるみたいだ。あの化け物といい、この国の生き物の力は強すぎる。
「多少強くなったとしてもやっぱり弱いね、茜。試練でもあのレレさんって人に助けてもらってやっと生き残ったんでしょ」
「トト……レレさんが私の味方だって……」
「分かってたよ。知ってた。殺した時は知らないふりをしただけ。
あの男は知りすぎていた。だから殺したけど……殺す価値もなかったかも。ふふっ。あんなに弱いなんて。私に離反する前に殺す必要はなかったな。不治の病の発作が出た瞬間にあんなに苦しむなんて、心が弱い、くだらない人間だったんでしょう」
私は目を見開いた。
「……レレさんが……なんだって?」
私の怒りは頂点を越えた。目の前が赤くなり、顔の血圧が上がった気がした。首に変に力が入る。拳を強く握り、腕が細かく震えた。息がうまく吸えない。
「何度でも言ってあげる。レレという男は殺す価値もない、屑だった」
「トトォオオオオ!」
なんてことを言うんだ!
私は突進した。トトはにやりとして首を横からぐるりと回し、私の脇腹に噛みついた。
激しい痛みが腹を襲う。だが、痛みより怒りの方が勝った。
私は蛇の首もとに、思いっきり爪を刺した。できる限り、爪の長さを長くする。
亀ほどの硬さにするための時間を与えなかったとはいえ、トトの皮膚は簡単には傷つかなかった。私は爪をトトの皮膚に刺し続ける。
もっと気合いをいれろ、私!
「あああああああああ!」
ズプリと、少しだけ爪がトトに食い込んだ。
血が垂れる。トトは焦ったようで首を大きく振り回して私を離すと、大蛇より小さいヒトに戻って間合いをとった。
トトは血が出ている首筋をさすった。
手についた血を舌で舐める。
「やるね。でも怒りだけで勝てるほど、世の中甘くないよ。
呼吸が荒くなってきたね。
……そろそろかな?」
トトの言う通り、私の呼吸は異常に荒くなっていった。目眩もする。
「私の牙には毒があるの。茜はお腹から腐って死ぬよ」
私は腹を見る。皮膚が変色していた。平衡感覚がなくなり、両膝をついた。
「皆私の手のひらで踊っていることに気がつかない。本当に馬鹿!」
笑っていたトトの表情が、驚きに満ちた。
トトはゆっくりと自分の腕を見る。左腕から、ボタボタと血が流れていた。
「え?」
トトは何が起きたのか理解できないようだった。前を見ると、一匹のライオンがトトの手をくわえていた。その毛は、微かに金色がかっている。
ライオンがヒトの姿に戻る。
「あなたは全て国民のためだと言った。だがそれは間違いだったようだ」
「ヲヲ……!」
「私は愛しい国民のためを思ってあなたに従っていた。それは間違いだったようだ。
……あなたは恐ろしい。だが、国民のためならば、私はあなたに離反する」
「愛国心も与えすぎれば凶と出るのね」
トトは歯ぎしりした。
「どいつもこいつも……!
操り
トトは叫んだ。
トトの髪が、じわりと黒くなっていく。
その目は赤く染まる。口には牙が生え、黒いワンピースに変わった。
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