第77話 方法
「この国の名前は神様がつけてくれたらしい。
私は転生して、この国に来たの」
「え?トトも!?」
私は眉をひそめた。
「ああ。私以外にもいるっておっしゃられたな。茜は転生者じゃないよね」
「……トト、ずっと気になっていたんだけど。
私って死んでるの?生きてるの?」
「生きてるよ。死んだら、赤ちゃんからのスタートだから」
トトは地面にぺたんと、座った。
「私は転生するときに、神様に言われたの。
『特別な力を与えるから、国を治めなさい』と。
私は神様のおっしゃる通りにこの国を治めた」
トトは懐かしそうに話した。
「『天使』は代々受け継がれてきたそうなの。
先代が死んだから、次に転生してくる私が選ばれた。
あとは王であるヲヲを軸として、国を整えていっただけ」
私は座って、トトの目線に合わせて聞いた。
「それだけじゃないよね?
王に伝えてないことあるでしょ。
私は知りたいだけ。教えて」
「ヲヲに伝えていなかったこと……。いっぱいありすぎて、分からないや」
「王を軸とするっていっている割には、知らせてないことが多いんだね」
トトはくすっと笑った。
「当たり前でしょ?なんで操り人形に真実を全部教えなきゃいけないの?
ほんと滑稽だよね。あの人達、自分ではこの国の上位に属していると思ってるけど、私から見たら皆同じ。役割が違うだけなのに」
トトはクスクスと声を出して笑った。
いとも楽しそうに、トトは肩を震わせた後、ふうっと息をはいた。
「国を治めるってね、実はとても大変なの。
予期しないことは沢山起こるし、揉め事も日常的に起こるし。私疲れちゃって。だから、先代からあったシステムを強化することにしたの」
「先代からあったシステム……?」
「システムは2つ。1つ目は姿を変えられること。もう一つは、お城と、私の家から発されていた特殊な音波」
音波……。レレさんが何か言っていたな。具体的にはキキが言っていたんだけど。
「トトの家からも……?」
「そう。神様に国を任された人は、今私が住んでいる場所に暮らすことになっている。
この湖は世界を繋ぐものらしくてね。その管理も任されているから」
だからトトは、私が湖に落ちたのをすぐに見つけたのか。
「元々発されていた音波は、人が姿を変えたときの副作用である、脳の混乱を緩和するためのものだった。
私はそれに、人の性格や思考を含めた、人間の全てが変わりやすくなるものと、脳を凍結状態にし、命令を上書きするものを重ねた。
そうしたらね、皆良い子になってくれたんだ。国を治めるのも簡単になって。
便利に動かすために、お城の中に発されている電波を弱めて、ヲヲと側近達をある程度自由に思考できるようにしてあげたけど、全員私の駒だった。
よく働いてくれたよ」
「なんでその二つの音波で、人を操ることができるの?」
「人は一度全身を別の動物に変えると、今までにない疲労を脳が感じて、他人が付け入る隙が生まれる。その状態で、脳を凍結させ、命令を送る。
姿を変えやすくする音波は、誰でも全身を変えられるようにして、確実に全員を支配できるようにする保険だね。上手くいったよ。
それなのに茜は全身を変えないから困ったよ。火事さえ起こしたのに」
「あの火事はトトが……?」
「そうだよ。無駄にだったけどね。
非日常的なことが起こるとバグが生じて、住民の感情のコントロールが上手くいかなくなるリスクがあるの。その危険をおかしてやったのに」
トトはため息をついた。
私は一つ納得をした。
迷子、火事、試練。全部イレギュラーなことだ。
だからその人たちは様子がおかしかったんだ。特に日常からかけ離れた試練の時は、皆だんだんと支配から解放されて、感情を取り戻していった。
「心は傷まなかったの?」
「心……?」
トトは胸に手を置いた。
「……。
さあ?別に」
私は顔をしかめた。
「批判はあると思うよ。でも、国を治める苦悩は、同じ経験をした人にしか分からない。
元から茜の同意を得ようとなんて考えていない」
「裏切られることを考えなかったの?例えば、王とかに」
「国民は完全支配しているから安心していたよ。側近達には、研究をやらせて、今許してある思考の範囲で、どの程度まで考えられるのかをちゃんと確かめていた。ヲヲには、過度な愛国心を植えつけておいた。私に反抗するようなことがあれば、国は乱れ、国民に不安を与える。国を思うなら、裏切ることはしないでしょ?」
私は人権を無視した行為を、淡々と説明するトトが、なんだか恐ろしかった。
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