第76話 強敵

トトは蛇の姿になった。

大蛇の皮膚は白く、頭の位置が私の背丈よりもさらに高いところにある。

「こんな大蛇、見たことない……」

「当たり前。だって、これは神に仕える天使の特権だもの!」

トトが私の肩を噛もうと攻撃してきた。

(速い!)

私は慌てて後ろに下がる。しかしトトの首は私を追いかけてきた。

何メートルも下がり、そこでやっとトトの攻撃は届かなくなった。

肩で息をしている私をよそに、トトは落ち着いて話している。

「天使はね、何にでもなれる。

大きい動物にも、哺乳類以外にもなれる。

もちろん、爬虫類の蛇にも。

一般人とは、格が違うの。

蛇は神聖な動物というだけじゃなく、強いんだよ?」

トトのいう通り、蛇は手強かった。

鋭い牙に、遠くまで伸びる首。そしてなりより動きが速い。

普通の蛇でないのは明らかだった。

「くそっ!」

口調が悪くなる。私はトトの攻撃を避けるので精一杯だった。トトとの距離は離れていき、自分から攻撃することが困難になってきた。

「王の側近達は、一度に複数の動物になる研究をしていたそうだけど、私にはそんな必要はない。

動きが遅いのなら、筋肉構造を別の動物のものに変えればいい」

「そんなことをして、脳は平気なの?」

「もちろん。私は神様から、この国を任されているの。だから圧倒的な力をもらった」

トトは休みなく、私に攻撃してきた。

「そんなにペラぺラと情報をしゃべって大丈夫?」

トトは不敵に笑った。

「問題ないよ。だって茜はここで死ぬから」

トトは私の頭を狙ってきた。横に移動しようとすると、蛇の尾で足を払われた。

私は地面を転がって避ける。


なんで?あんなに優しかったのに。

私を殺すことに迷いがない。

でも……私はトトを殺す気持ちになれない。

私の攻撃には迷いがあった。

ただでさえ実力が劣っているのに、本気で攻撃ができない。私に勝ち目はなかった。

私の頭には常に疑問符が浮かんでいた。

どうして?どうして?

「どうして?こんなことができるの!?

人を操るような行為をなんでできるの!?

なんでこんな簡単に人を殺そうと思えるの!?」

トトは人の姿に戻った。

「慣れだよ、慣れ」

「慣れ……?」

「そう。私はいつもこうしてきた。茜が初めてじゃないの。

今までにもいたんだ。頭がいいけど、賢くない人。気づいたのなら、黙っていればいいのに。そうすれば、私も手を汚さずに済んだのに」

トトはため息をついた。

「それでも……よく殺そうと思ったね。私には無理だよ。自分から仕掛けて、人を殺すなんて」

トトはまっすぐ私を見た。

「全ては神様がおっしゃられたことだから」

「その神様って、誰?」

トトは私をじっと見つめてから、さらに大きくため息をついた。

「いいよ……仕方ないから全部教えてあげる。

そうしたら、気持ちよく死ねるでしょ?」

トトは話し始めた。この国の真の姿について。

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