第62話 協力
カカを目の前にして、ロロは思考を展開していく。
ダチョウの蹴りは強烈だ。そして体力のある生き物でもある。
だが、疲れてきている。我々側近が参加者と比べて持っている利点は、疲れていないことだ。
休憩の時間を与えてはいけない。
息をつく間もなく、殺すことが最適な答えだ。
ロロはカメレオンに姿を変え、ダチョウの脇に狙いを定める。
サイの基本的な攻撃方法は、角を使って相手を持ち上げるのが最も有力だ。
あちらに僕の姿は見えていない。
一気に近づけば、ダチョウの体なんて、ひっくり返すことは容易い。
ロロはカカに近づいていく。
二人の距離は、一メートルを切った。
「そこか」
突然、カカが振り向く。
ロロはぎょっとして身構えたが、遅かった。
カカはくちばしで、ロロの右目をつく。
体のバランスがとれなくなり、ロロは片ひざを着いた。
「なぜ……」
「簡単だ。ナナが教えてくれた」
ヒトの姿に戻ったカカは、天井を指差した。
ロロもヒトの姿に戻り、カカの指差す方を見た。
天井にはコウモリがぶらさがっている。
「どうして……さっきまではいなかったのに……」
ロロは呆然と呟く。ナナの姿が見えず、脅威がないと判断したからこそ、ロロはカカを先に片付けようと思ったのだ。
「いなかったんじゃねえ。お前は見えてなかったんだ」
「そうか。僕の視力を利用して……」
「その通りだ」
カカは頷く。
「サイの力は強い。角を使って持ち上げられたり、突進されたらひとたまりもない。
でも目が悪いよな?
ナナはあんたの死角に入りながら旋回していた」
「なるほど。僕がコウモリを見えなかった理由は分かった。
……だがなぜ僕の居場所が分かった?」
「生き物の体からは常に音が出ている。
歩けば足音がするし、呼吸をすれば息の音がする。それを利用しようと思ったんだ。
だが、お前はその点、全然音がしなかった。研究と言ったか?見事なもんだ。
実際、お前の姿を見つけるのは困難だった。何十年も研究しているやつに勝てるわけがない。
だから、ナナと協力した。
コウモリは人間の何倍も耳がいい。
あんたは移動の際に発生する音は消せるようだが、心臓の音までは消せなかった。
ナナはコウモリに姿を変え、わずかに聞こえるあんたの心臓の音を聞き取った」
「君たちがコロコロと違う動物に変わっていたのは、どの種類のものが、どんな特化した能力を持っているのかを調べるためだな?
なぜ、ナナという女は戦わなかった?」
「あんた、心臓の音が他の人間よりもずっと小さい。
あと、数年すれば、体から発する音を完璧に消せるようになっただろうな。
コウモリになったって、音を拾うことに集中しなければ、あんたの心臓の音は聞き取れなかった。
ナナは戦えない。だから俺があんたの相手をした。
俺たちは二人で話し合った。
その結果、俺は視力の良いダチョウに姿を変えることになった。
ナナが起こす、ごく小さなアクションを、一瞬で判断してお前を見つける。
難しかったが、なんとか成功したようで良かったよ」
カカは自慢気に話した。
ロロは歯ぎしりをする。
その後、にやりと笑うと、瞬く間にサイに姿を変えた。
カカの体を持ち上げる。
「まだそんな体力が……!」
「長々と語ってくれてありがとう。
お陰で大分回復した。
君を殺せるくらいにはね」
ロロは壁に向かって走った。
体を持ち上げられ、ろくに抵抗のできないカカを壁に押しつける。
カカの内臓は圧迫され、口から血が流れ出した。
「僕はねえ、不器用なんだよ。他のみんなと違って、一つのことしかできないんだ。
サイの姿が一番楽だと分かってから、何度もサイの利点を勉強した。もちろん不利な点についてもだ。
僕は、今の状況がサイに不利だと分かっていても、この姿を選ぶ。
僕は僕の研究成果を誇りに思っている!
君たちなんかに破られるものか!」
カカは壁に押しつけられ、まともに動くことができない。
命の危険が迫る中、カカは天井を見つめていた。
ヒトの姿のナナが、天井の装飾を手に、ロロめがけて飛び降りた。
装飾の鋭利な部分が、ロロの胴体に深々と突き刺さる。
「ぐっ……!」
ロロはヒトの姿に戻る。
仰向けに倒れると、そのまま起きあがってはこなかった。
ナナはカカに駆け寄る。
「大丈夫!?」
カカは笑って見せる。
「へーき、へーき。
こんなの余裕だ……ごほぉっ!ごっはぁ!」
「ダメじゃない!」
「ふん。今のは冗談だ。こんなのに騙されるとはお前もダメだな!」
「口から血が出てるけど」
沈黙が場を支配した。
二人は、ふっと笑い合うと、互いの拳をぶつけて、グータッチをした。
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