第61話 カカとナナの戦い

「今、茜の叫び声がしなかったか?」

レレがケケに言った。

「確かに叫び声は聞こえたけど、茜だとは限らないのである」

「いや、きっと……おそらく……十中八九……絶対に茜だ!

では私は叫び声がした方に向かうから、ここで去らば!」

レレは狼に姿を変え、どこかへいってしまった。

僕も早くココを見つけなければ……!

焦りだけが、募っていく。

他のみんなは、無事?

心配なのである……。

ケケは天井を見上げた。

どこかで水滴が、ポツリと落ちた。


「あー、もう!

図体が大きい割りに、すばしっこい!」

ナナはストレスと共に腕を横に振り抜いた。

ロロはかすりもせずに避ける。

ロロが避けて移動をした場所に、カカが待ち構えていた。

足元を狙う。

ロロは慌てて跳び、カカの攻撃を避けた。

ロロは姿を消す。

ナナとカカはそれぞれ、別の動物に姿を変えた。

なぜさっきから次々と色々な動物に姿を変えている?

ロロは首を捻った。

この子達……。急速に連携が上手くなってきている。

厄介だな。

ロロはナナに視線を移す。

一人潰しておくか。

ロロはナナの背後に姿を現した。

カカが気づいて、咄嗟にナナの手を引っ張るが、遅い。

ナナの背中は、爪で引っ掻いた形に血が流れている。

「おい、平気か?」

「ええ、なんとか」

ナナはそう答えたが、あまり余裕は無さそうだ。

ロロは口角をあげる。

次で仕留めよう。

ロロはサイになり、近づくと、ナナの腹部を狙って、下から角を突き上げた。

手応えがない。

天井には、一匹のコウモリがフラフラしながら飛んでいた。

コウモリは哺乳類とはいえ、姿を変えるのに随分とエネルギーを使う。落とせば勝ちだ。

ロロはサイからゴリラに姿を変えると、止めをさしに行こうと壁に手をかけた。

直後、ダチョウの蹴りが腹に直撃した。

骨の折れる音がする。

ロロは顔をしかめた。

ロロは転がって距離をとると、サイに姿を変えた。

カカはダチョウに姿を変えている。

「おい、おっさん!」

カカが話しかける。

「なんだ?」

ロロは少し驚いた様子で返事をした。

「なんでいつもサイに変わるんだ?

表情も、ずっとにこにこして気持ち悪いし」

それはとても純粋な口調だった。

単純に知りたがっているようだ。

「一番動きやすいからだよ。

僕たちは何にでもなれるが、人によって合う動物と、そうでない動物がある。

僕の場合はサイが一番姿を変えやすく、動きやすい。

顔の表情は自我を保つためだ」

「自我を保つ?」

カカは怪訝な顔をした。

「そう。

君は、様々な動物に姿を変えるにつれ、脳の疲労が異常な速度で蓄積されていくのを感じたことはないかい?

例えば今、君はダチョウになっているけれど、本来、ダチョウの脳の大きさでは、こういう風に会話はできない。

今の君の脳は、その脳の限界を超えている。

だから、ヒトに戻ったときに脳は改めて、己が何者なのかを再認識して、情報を整理する。

加えて人の表情は自身のアイデンティティに大きな影響を与えている。

表情を一定にしておくのは、自分を再認識するときの助けになるからだ」

カカは頭をかいた。

「長々と語ってもらったが、よく分かんなかった」

カカは欠伸をする。息を吐き出すタイミングで表情を急変させ、蹴りを放った。

それをロロは受け止めた。

「何だと!?」

カカは驚いて叫んだ。

「サイは人間よりも大きいが、姿を変えたときには、従来のものよりも、少しタフになるみたいだねえ」

ロロは角をカカの懐に入れる。

角が腹に刺さる前に、カカは体を傾けて防いだ。

だが、バランスが取れず、数歩よろめいた。

「随分と、足の細い生き物にしたねえ。大丈夫なのかい?」

「うるせえ!これで十分なんだよ!」

カカは頭上を見た。

ナナは天井付近で旋回している。

ここが踏ん張りどころだ。

カカは足を踏みしめた。

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