第59話 ココの戦い

南の塔で、ココは螺旋階段をひたすらに走っていた。

「おいおい!結局、逃げてるじゃねえか!」

セセはココを笑った。

気にせず、ココは階段を上る。

セセは立ち止まった。

目の前にいたはずのココが消えたからだ。

「どこ行きやがった!」

セセはイライラして、近くにあるものを手当たり次第に破壊した。

それがいけなかった。

セセは突如足に痛みを感じた。

一匹のビーバーが足の腱を噛みきっていた。

そのビーバーの毛は、僅かに紫がかっている。

俺が壊した瓦礫の影に隠れて近づいたのか。

セセはもう片方の足でココを思いっきり蹴った。

短い悲鳴をあげてココは飛ばされたが、体を丸めて、致命的なダメージは受けなかった。

「このガキ!」

セセは、ビーバーからヒトに戻ったココに向かって、腕で攻撃したが、片足が不自由なのもあり、軽々と避けられてしまった。


良かった、成功して。

ココは内心ほっとしていた。実際、セセとココの実力には大差がついている。

だからこそ、相手の不意をつく戦い方でないと勝てない。

セセの片足を傷つけることは、ココにとって大きな賭けであった。

その賭けが成功したことにより、状況はココに有利になってきた。


ココは再びビーバーに姿を変え、こっそりとセセに近づいた。

セセまであと数メートルというときに、急にセセが話し始めた。

「なるほどなあ。確かにビーバーの物を噛みきる力は強い。お前が最初に言っていた、俺が動物のことを知らないと言っていた意味、少し分かったよ。

でもなぁ!」

セセはココがいる方を振り返った。

その動きには迷いがない。

まさかこの位置がばれた!?

ココは焦る。

何かあったときに対処できるよう、ヒトの姿に戻った。

ココが現れても、セセは大して驚いた様子がない。やはり、居場所がばれていた。

どうして?

ココは原因を探る。

「俺は今、虎に変化している。虎は体重が重たいがために、体のバランスをとるのが難しい。

だからこそ、お前も足を狙ったんだろう?」

セセは下半身だけを、チーターに変える。

「ほら、チーターなら胴体が細いから、バランスが虎よりもとりやすい」

「うそ……。どうして……」

ココは驚きが隠せなかった。

セセはチーターに姿を変えているが、その顔は、虎のままなのだ。

「一度に二種類の動物にはなれないはず」

「これが俺の、研究成果だ。

王様の側近はな、自分の好きなテーマを研究することができるんだが、テテというやつがいてよぉ」

「試練の指示をしている人?」

セセは頷く。

「そうだ。

そいつも一度に複数の動物になる研究を進めていた。誰にでも出来るような方法を導き出すために、不治の病のやつを使って、影響を確かめていたが、俺から言わせれば生ぬるい。

俺は種類を二種類に絞った!

他のやつらもできる方法なんてものは調べない。俺さえ変われればいい!

そうしてできたのがこの体」

セセは跳躍した。先ほどとは比べ物にならない速さ。

ココは避けきれずに肩を爪で抉られた。

「お前はさっき、自分の居場所がばれて焦ったな?

それはお前の位置を特定するときだけ、鼻を牛に変えていたからだ」

「そうか。牛は嗅覚が鋭いから……」

セセの攻撃をココはギリギリでかわす。

足のハンデを感じさせない戦いぶりに、ココは愕然とする。

ココとセセの実力差は歴然だ。

でも、それでも……。

「私は……!」

セセが目の前に現れる。

ココは打撃を打とうとしたが、ビバ―の時に蹴られた腰に痛みが走り、攻撃を止めてしまった。

その隙を、セセが見逃すはずがなかった。

みぞおちにセセの蹴りが入った。

「あっ……かっ……!」

床にうずくまる。

ココはろくに呼吸ができなくなった。

見上げると、にやりと笑う、セセと目が合った。

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