第54話 絆というもの

「なかなか扉が開かないのである……」

ケケが心配そうに言った。

確かに遅すぎる。どういうことなんだろう。

そもそも、これからたくさん試練がある予定なのに、この大広間でほとんどの人が亡くなってしまった。

あんな化け物を出したら、異常な数の人が死んでしまうのは、テテも分かっているはずなのに。

けれど、私にはそれよりも気になることができた。

「レレさん。あの化け物って、レレさんが以前に話していた、不治の病にかかっている人なんですよね?」

レレさんは深く頷いた。

「ああ。だが、前はちゃんと言葉を話せていたよ。置いていかないで、って。でも化け物の姿の時は、ろれつが回っていなかった」

「そういえば、ララが、一度に複数の動物に変わったから、あんな姿なんだと話してました。

一度に変わる動物は一種類だと決まって居るらしくて」

「なるほど……。

彼は無理やり複数の動物に変えられた可能性があるな」

「どういうこと?」

あ、敬語が抜けちゃった。まあいっか。

「複数の動物に変えられないという決まりがあって、わざわざ決まりを破る理由がないだろう?

それに、彼は不治の病を患っていた。

一日を過ごすだけでも、かなりのエネルギーを使うから、動物に姿を変える余力はないはずなんだ」

「じゃあ誰に!」

無理やり変えるだなんて。私は自分の怒りをはっきりと感じた。

「分からない。だが、この城にいる誰か、ということは間違いないだろう」

見つけ出して、ぶん殴ってやる。

「そうだ、茜」

「何ですか?レレさん」

「扉が一向に開く気配がないのだが、これは……」

「え?アカネ?」

ケケが反応した。

しまった!ばれないようにしていたのに、レレさんのバカ!

「ネネじゃないのであるか?」

……どうしよう。言い訳はしようと思えばできるだろう。

でも、この人たちには、もう、嘘をついていたくない。

「そうだよ。わたしの名前は茜。ネネじゃない」

「そうだったの!?そんな名前、聞いたことなかったから、分からなかったわ」

ナナが驚く。

何を話すか取捨選択するのなんて、めんどくさい。全て話してしまおう。


…………


「えっと、待って茜。つまり、あなたは異世界から来たのかしら?」

ナナが目をぱちくりさせながら言った。

「そうなるね」

「信じられないのである!

茜の妄想というわけではないのであるか?」

ケケがぽかんとしながら聞いてきた。

失礼な!妄想じゃないよ!落ちているときの感覚あったもん!

でも、当たり前の反応だよね。

「違うよ。ちゃんと実感あったし」

「どこから来たの?」

ココが少し興味深そうに聞いた。

「日本ってところ」

「ニホン?」

ココは少し首をかしげた。

ナナは目を閉じて少し考えた。

「分かったわ!これからは茜と呼びましょう!」

「賛成なのである」

「賛成」

みんな受け入れてくれた。

普通なら、冗談で済まされる話なのに……。

これは絆というものなのだろうか。

いじめられていた私が、絆を……。

仲間で死んで悲しくて、でも今嬉しくて、とても複雑な感情だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る