第53話 別れと一時の休息

「おい! おっさん!」

カカが叫んだ。

レレは振り向く。

「あんた1人で請け負い過ぎだ!

俺がもう一本相手する!」

「いや、君もギリギリじゃないか!

人数が減っているんだ。これくらいは受け持つさ」

今、レレは1人で15本を相手にしている。

小さいやつが2人来たが、幼いからか、2人で5本を相手するので精一杯だ。

このままでは……

カカは焦りを顕にする。


突然、化け物の腕から力が抜けた。

「やったのか……?あいつら……」

カカは本体の方を見た。



赤くて、生暖かいものが、体にかかった。

手の先が、ぐちゅりと嫌な感触になる。

化け物の体が一度大きく震えた。

その後、化け物の力は一気に抜ける。

「勝ったの……?」

呆然と呟く。

「勝ったんだわ!」

ナナが歓喜の声をあげた。

「良かった……」

ララが笑った。

ララから力が抜ける。

何事かと、ララを見ると、馬の足が胸に刺さっている。

ララは前に倒れた。馬の足が、体から抜ける。

傷口から、大量の血が流れた。

その体を、ナナが受け止めた。

「ララ! 勝ったのよ!」

ナナが声をかけた。

「うん……」

ララがか弱い声で返事をした。

「6人は無事よ!」

「うん……」

「あなたがいなければ……みんな死んでたわ」

ナナの目から涙が出ている。

「……う…ん……」

「あなたのおかげよ」

「……」

ララは何も答えなかった。その顔はとても穏やかだ。

ナナは無言でララを抱きしめた。

その傍らで、私は何もできずに立っていた。

目の前の状況が上手く飲み込めない。

ララが……本当に……?

夢ではなくて……?

涙だけが、勝手に流れてきた。


「お前ら無事かー?」

声のする方を見ると、カカやレレさん達が走ってきていた。

「終わった」

ココが言った。

「うん……やっと」

私は答えた。

たくさんの死体がある部屋で、私たち6人は立っていた。


参加者は最初、町の人々と同じように、感情がないようだった。人が死んでも、一回反応をして終わり。その後は別にどうでもよさそうだった。

でも、今は違う。声に抑揚が、感情がある。

この場にいる人たちは、自分の意思を持っているように思えた。


私はレレさんの方を見た。

「そういえば、なんでレレさんはここにいるの?」

「ん?ああ、それは僕も参加しているからだよ」

レレさんは私の顔を見ると、焦ったようにつけ足した。

「大丈夫だから!命を無駄にしているわけじゃないから!

いやー、君を送り出した後にね、やっぱり心配になってきちゃって。

当日にも参加受け付けをしているって聞いたから、参加することにしてね。

少し遅れての参加だったから、皆が入った後にお城に入って。

お城の前に、人がたくさん亡くなっていたから、驚いたよ。

まさかここまで危険な試練だとは……。

それから、僕がまだ大広間に入ってないのに、扉が閉められちゃってさ。

仕方がないから、壁をはって、窓ガラスから覗いて君を探していたら、見つけたときに君が死にかけていたから、とっさに窓を破って助けに行ったんだよ」

「……1つ目の試練は?」

「普通にお姉さんを見つけた」

「……2つ目は?もしかして、毒が回って来なかったの?」

もしそうだとしたら、素晴らしい幸運だ。

「いや、毒は食べてしまったんだけど」

食べたんかい!思わず心のなかで叫ぶ。

「僕は以前に外で生活していただろう?

その時に、食べ物はそこら辺に生えているキノコとかを食べていてね。

たまに毒キノコを食べてしまうときがあったんだよ。

その度に死にかけていたのだけど、そのおかげでほら!毒の耐性がついたんだ!」

「な、なるほど……」

私は苦笑いをした。


そんな私たちの会話を、離れた場所からじーっと見ている人物がいた。

ナナである。

私たちの会話が終わると、私にすすすっと近づいてきた。

「ねえ。あのおじさまの名前はなんと言うの?」

「え!?おじさま!?」

「あの方、あなたを助けるためにわざわざ参加したのでしょう?少し会話が聞こえたわ。

とっても強いし……。

なんて素敵な方なんでしょう!」

ナナは興奮しているようで、声を弾ませながら言った。

「ナナ、あの人はナナが思ってるような立派な人じゃない気がするんだけど……。

日常生活が……ほら、あの……」

正直に言っていいものだろうか。

「どんな日常生活でもかまわないわ。

だって、私が先ほど言ったあの方の行動は、事実なのですし」

確かに、一理ある。

まあ、レレさんのそういうところに惹かれたのなら、応援するけど……。

「それで、名前は?」

「レレだよ」

私のものではない、低い声が答えた。

いつの間にかレレさんが近くに来ていたのだ。

「君たち、声が大きすぎるよ。

こっちまで聞こえてきていた」

「え……じゃあ私の話も……?」

ナナは顔を赤らめる。

レレさんは気まずそうに頷いた。

「それで、僕はね、本当に君が思うように素敵な人じゃないんだ。

だから僕のことは、村人Aくらいの認識でいてくれ」

レレさんは少し困ったように笑うと、私たちから離れていった。

ナナは「あの人は謙虚なのね」だとかなんとか呟いて、レレさんはカカにすねを蹴られて「いったい!」と悲鳴をあげていた。

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