第52話 混戦

「大丈夫?」

私はAチームに声をかけた。

「顔が戻っていっちゃう!」

ララが叫んだ。自分の状態なんかに構っていられないようだった。

ララは化け物に向かって駆け出した。ナナもその後に続く。

残りの1人は、なかなか攻撃できるまでは回復しないようで、Bチームに入ることになった。


化け物の腕がさらに増えた。

誰がどんな状況なのかは分からない。

場は混沌と化していた。

ただ分かるのは、現在のAチームが2人、Bチームが6人、Cチームが私を含めた3人ということだけだ。

Bチームの人数が圧倒的に多いが、化け物の腕は30本前後。

1人で約5本を相手にしなければならない。

カカやレレさんは他の人が対応できない分も相手にしているから、相当きついだろう。

そんな私たちはというと、Bチームの本当に危ない人を助けたり、Aチームが死なないように援護したりして、大広間を駆け回っていた。


「おい!ララ!」

Bチームのルルが呼びかけた。

「なに!?」

「お前が言ってた、アレを実行する!」

「え……! でも……」

「仕方ないだろ! このままだと冗談抜きでみんな死ぬ!」

「分かった」

ララが頷く。それを見て、ルルは叫ぶ。

「Cチーム!」

「はい!」

私たちは大広間中から集めた、大きな壁の一部や巨大なガラスの破片をBチームに渡した。

その数は30個以上。

Cチームの真の役割はこれだった。


Bチームは手当たり次第に破片を掴むと、腕にある口に、次々と詰めていった。

常に動いている30個の腕を止める、または弱らせるためだ。


Aチームの2人は天井に登っていた。

口の奥に戻りかけている顔に向かって、天井の装飾を投げつけていく。

その成果があって、顔が再び、表に出てきた。


悲鳴が響いた。

化け物の口に破片を詰め込むのが間に合わず、Bチームの人が食われている。

その数は1人ではない。

1…2…3……4人も食われている。

その中にはルルもいた。

動いている化け物の腕は、あと数本だというのに……!

レレさんが食われている人を助けようとした。

「いいから!私のことは!」

食われている人が血を吐きながら訴えた。

「どうせ……助からない……!

私の、私たちの命を、無駄にしないで!

誰かは生き残ってくれないと報われないじゃない!

私が食われている間に、早く化け物を……」

その人は力尽きた。


レレさんは顔を歪めた後、一礼をすると、残りの3本を止めにいった。

だんだんと、止まっていた腕が回復してくる。

破片を用意していたケケとココが助けにいった。

「Aチームはまだなのか!」

カカが叫んだ。


Aチームは顔に肉薄していた。

ナナが近くにいる足を折ったり、ねじり切ったりしている。

ララが本体に止めをさそうと手を振りかぶる。

その動きが不意に止まった。

ララの口から、ごぷりと血が垂れてくる。

背後に生えた馬の足が、ララの胸を貫通していた。

ララの目が一瞬虚ろになる。

だが、次の瞬間、覚悟したように目を見開くと、近くに生えている足2本を両腕で掴み、動きを止めた。

「ナナ……後を……」

だが、ナナは迫る足を相手するのに、精一杯だった。

一瞬でも背を向ければ、複数の足が体に刺さるだろう。

誰か……誰か……!

すがるように辺りを見回した。

1人だけ、こちらに来れそうな人を見つけた。

その子は姿を変えることが、十分にできるような子ではない。

だからこそ、死なせたくなくてCチームに入れた。

でも……

「ネネ――――――!」



怖かった。立っているのが奇跡のようなものだ。本当は近づきたくない。

だが、強く願う声に呼ばれたら、足が動くのが人間だ。


「うああああああああああああ!!」

恐怖を声で打ち消して、私は跳躍した。

足を何の動物に変えたかなんて、覚えちゃいない。

重力に任せて、私は化け物の顔に、腕をおもいっきり振り落とした。



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