第44話 おぞましきもの

ビーっとサイレン音が響き渡った。

一体何事かと顔をあげると、展開されていた銃がしまわれていくのが見えた。

そして部屋が揺れ始めた。

地震のように、立っているのが困難になる。

「これはどういうこと!?」

ナナが遠くで叫んでいた。

良かった。無事で。

階段で別れてから、大広間にたくさんの人がいたせいでナナ達を見失っていた私は、安心した。

依然として、床は揺れ続けている。安心している場合ではない。私は、はっと我に帰る。

激しい揺れのせいで、気持ち悪くなってきた。

やばい……。

幸い、私が吐く前に揺れは止まった。


壁が突如へこみ、上にずれた。壁には大きな穴ができる。

さっきの揺れは、この穴を作るための仕掛けを発動するものだったのだろう。

大広間にいる全員が、その穴に注目した。


また床が揺れ始めた。だが、先程とは違い、一定のリズムで揺れている。

ズシン、ズシンという音が段々と近づいてきた。


壁の穴から、大きな手が出てきた。

私の顔よりもはるかに大きいものだ。

その手は壁を掴むと、穴の奥にあると思われる体を前に引き寄せた。

手の持ち主の姿が見えた。

それは大広間の中に入ってくる。


なんだ……これ……。


それの体の大きさは天井に届くほど。目は円の形に見開かれており、目の位置は人間のように平行についていない。それぞれがバラバラの位置につけられている。そして大きい。目の大きさは私の上半身ほどある。

手足はたくさんあった。バラバラの大きさのものが、体からにょきにょきと生えている。

人間のものではないものもある。あれは馬の足だろうか?

一番記憶に残るのは、その全身。球体の形をしている。

肉の塊のようだ。それは常にうごめいていた。

色も様々で、斑点のように黒色があったり、赤や緑でカラフルなところもある。人みたいに肌色のところもあって、適当に塗りたくられているようだった。

全てがふざけた存在だった。まるで生まれたての赤ちゃんが、何も考えずに作り出したかのような……。

怖くておぞましい。

これは受け入れられない。

脳が拒絶反応を示した。


私たちは逃げた。人間が敵う相手ではない。

逃げ遅れた人の足を、長く伸びた手が捕まえた。

「うわあああああ!」

虚しい叫び声は、開かれた口の中に吸い込まれていった。

化け物の形がボコボコと変形する。丸い体から、ヒトの足がぴょこんと生えた。

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