第11話 火事

トトに過去を話した夜、あまりにも暑くて目が覚めた。

目を開けると、辺りは火に覆われていて、煙で前がよく見えなかった。

これ……火事……?

どうすればいいんだっけ?

火事なんて自分には無縁なものだと思ってた。

熱気がひしひしと伝わってきて、煙が体に入ってきているのに、この状況を受け入れられない自分がいる。

逃げなくてはいけないのに、どこにいけばいいか分からない。私の部屋は二階にある。外に出るには階段を降りなければならないが、床はどこもかしこも燃えていて逃げ場なんてないように感じた。

なんとかしないと……!

必死に頭を使う。どうにかして脱出しないと。


その時気がついた。

私は生きたいと思っている。

死にたいと思ってここに来たのに。

そうか。

私はあの環境が嫌なだけだったんだ。

本当は生きたかったんだ。

死のうと思う前に、逃げてしまえば良かったんだ。学校から、家庭から。


後悔がこみ上げてくる。

まだ死にたくない!


「茜!」

ドアが勢いよく開く。

トトだ。

「茜、大丈夫?

家の中は火に覆われていて、もうまともに移動できないの。」

「じゃあ、どうすれば……」

トトは窓を指さした。

「窓から脱出する。」

「どうやって……、そうか」

トトは頷いた。

「鳥になるんだよ、茜

茜はまだ、全身を変えたことがないけど……

それでもやらなくちゃいけない」

経験がない。不安しかない。

でも、今、やらなくてはいけない。

「分かった」

覚悟を決める。自分を信じるしかない。

私達は窓に足をかける。


「せーのっ!」

足に力をこめる。体はほとんど外に出ている。

怖い。

「ためらわないで! 鳥だけをイメージして。」

気がつくとトトは既に鳥に変わっていた。


鳥の姿だけを考える。

だが、集中しようとすると逆に気が散ってしまう。

命がかかってるんだ。甘えたことは言ってられない。

……。

だめだ。

火がすぐ後ろまで迫っている。

落ち着かないと。さらに集中できなくなってしまう。

……………。

もっと集中しろ、私!

……………………。

できた!まだ完全には鳥になれていない。

けれど、両手を翼にすることはできた。

窓の縁から足を離す。

必死に両手を振った。


飛べている! ふらふらだけれど。


なんとか着地して家から距離をとる。

鳥の姿からはすぐヒトに戻った。


目の前に湖がある。水の中に入れば安全だ。

私は湖に駆け寄った。


「湖に入ってはダメ!

ヒトの姿のまま入ると、体が溶けてしまう!」

トトが慌てて叫んだ。声のする方を見れば、トトは両親と一緒に100メートルくらい離れた場所にいる。

私は走ってトトがいる方に向かった。


「メメさん、消防士はどうやって呼べばいいの?早く呼ばないと…!」

トトのお母さんは泣き続けていて、私の声に反応しない。

「メメさん!早くしないと全部燃えちゃう!」

私は大声を出したが、メメさんは私の声が聞こえていないかのように泣き続けている。

仕方がない。トトのお父さんに言おう。

そう判断し、トトのお父さんの元へ行こうとすると、それに気がついたトトが説明をしてくれた。




トトの家は燃え続けている。

消防士のような役割を持つ仕事は、カラ国にはないらしい。

だから火が燃え尽きるまで放っておく。

隣に家がある場合は火が移らないように家を取り壊すが、トトの家の周りには他の家がないため、家が燃え尽きるのを待つしかない。

姿を変えることといい、この国の人達は自分に関係することにあまり固執しないようだ。


トトのお父さんは険しい顔をして、燃えていく自分の家を見ている。

トトのお母さんは悲しんで、涙を流し続けている。


やっぱり自分の家が失くなるのはつらいよね。


でも、何か引っかかる。

迷子の男の子といた時にも感じた違和感だ。

なんて言い表せばいいんだろう?

感情がない、と言えばいいのか。

いや、皆、嬉しそうだったり、悲しそうだったりする表情をしている。

トトのお母さんに至っては涙まで流している。

けど、何だろう?

その反応に相当する、感情がこもってない気がする。


つまり、模範的過ぎるんだ。


こういう出来事が起こったら、こういう顔をする、と定められているかのように。

外見だけがころころ変わって、みんな人間味がない。


カラ国の住民は、みんな中身が空っぽだったのだ。









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