第9話 迷子

泣き声は市場の側にある噴水広場から聞こえていた。

6歳くらいだろうか?

男の子が大泣きをしている。

男の子は緑色の服を着ていて、可愛らしい顔をしている。


「どうしたの?」

「パパとママがいないの」

迷子か……。

周りを見る。この子を探している両親らしき人はいない。

こういう時、どうしたらいいのだろうか?

日本では交番に届けるけど……。

カラ国のルールが分からない。

遠巻きにこちらを見ている大人達は、『心配だね~』『大丈夫かしら』などと言うばかりで協力してくれない。

私は『交番』と書かれた看板を探しつつ、男の子をなだめていた。


しばらくして、男の子のお父さんだと思われる人が近づいてきた。

ついさっきまでなに食わぬ顔で歩いていたのに、男の子を見つけた途端、

「やっと見つけた!」

と言って駆け寄って来たのはぎょっとした。

(表情が顔に出づらい人なのかな?)

いや、そうならば、男の子を見つけた時にここまでの反応は出来ないはずだ。

感情にメリハリがつきすぎているような……。




この男の人だけじゃない。

カラ国にいる人は何かおかしいような……。

なんだろう?この違和感は……。




「茜ー! 茜ー!」

誰かに呼ばれている。

これはトトの声だ。

私は辺りを見回してトトを見つけると、大きく手をふった。

トトは私を見ると走ってきた。

「帰りが遅いから心配したよ。

もしかして迷っちゃってるんじゃないかと思って探しにきたの。

早く帰ろう?皆待ってる」

トトはにっこり笑った。


私はトトに心配させてしまったことを謝った後、町を出た。

先ほど感じた違和感は、もうほとんど消えていた。

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