第7話 病気

「そろそろ帰ろう?」

「あ、うん」

私はトトについて町を出た。

町から帰る途中でうめき声が聞こえた。

斜め前に頭を抱えた男がいた。

その体は痩せ細り、目の焦点はあってない。

声はかすれていて、髪はボサボサだ。

明らかに、正気ではない。


「見ちゃダメ。早く帰ろう」

トトは手短にそう言って私をせかし、急いでその場から離れようとした。


私達が離れきる前に、その人の様子が変わった。

急にうめき声を止めたのだ。

そして、泣き出した。泣き声はなく、涙だけがポタポタと地面に落ちる。

自分の意思とは関係なく、勝手に涙が出てきてしまうようだった。

その人の口が微かに動く。

『ごめんなさい』と呟いたように見えた。

するとその人は笑いだした。

何かを嘲けっているように。

笑い声はだんだんと大きくなる。

規則性がなく、壊れた笑い。



怖くなって、私達は足を早めた。随分と遠くに来ていた。

その男の姿はもう見えない。


笑い声だけが、まだ聞こえてくるような気がした。

それは悲しい響きを持っていた。



家に着くと、トトはさっき見た人は病気なのだと言った。

「あれに具体的な病名はないの。名付けようがなくて。

原因は分からないけど、急に発病するの。

病気になったら、もう終わり。

死ぬまで苦しみ続ける不治の病。

さっきの人は約10年間苦しみ続けているの」

トトは悲しそうに目を伏せる。

あんな病気は見たことがなかった。

あの人の苦しんでいる顔が頭から離れない。

しばらくは夢に出てきそうだ。




私達は今日の町の様子について話した。

会話はとても楽しかったけれど、時折あの人の顔がちらついて、

私達はいつもよりも早く寝ることにした。

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