第6話 町へ
町は賑わっていた。
トトの言った通り、皆が笑っている。
商品を大声で宣伝している人。椅子に座って眠っている人。友達と話している人。
色んな人達がいた。
「失礼。荷物が通るよ」
後ろなら野太い声が聞こえた。
「すみません、気がつきませんでした。」
そう言って振り向くと、大きなサイが立っていた。
「いや、そんなに気を使わなくていいよ。こっちこそ道の邪魔になっちゃってごめんね。体が大きいから、なかなか道が通りづらくて。
サイはたくさん物が運べるから便利だけど、道が通りづらいのが困るよねえ。」
そういうと、のしのしと歩いていった。
本当に人が動物になっている…。
町を歩いてみると、ヒトとその他の動物の数は同じくらいに思えた。
「お嬢ちゃん、このリンゴパイはいかが?
熱々で美味しいよ!」
突然お店の人に声をかけられた。
甘い香りが漂ってくる。口にいれた時を想像すると、よだれが垂れてきた。
(お金さえあればなぁ……)
「だ、大丈夫です!すみません…」
なんとかそれだけ言うと、私は急いでその場を去った。
そういえばトトはどこだろう?
途中から姿が見えない。
まさか私は迷子になってしまったのでは…?
トトは白の服を着ていたはずだ。
それを目印にすれば見つけられるはず。
色に注目しながら探すと、トト以外の人も全身にほぼ同じ色を纏っていることに気がついた。
赤。青。緑。黒。白。
色んな色の人たちがいる。
さっき私に声をかけてきた店員さんは全身が黄色っぽかった。
「茜、どこに行ってたの?」
声をかけられて振り向くと、トトが立っていた。
「ごめん、周りのものに気をとられてた」
私は急いで謝った。トトは怒っているだろうか。
私の不安をよそに、トトは対して気分を害した様子ではなかった。
どうやら、トトにも同じ経験があったらしい。
「ここは楽しいものが沢山あるからね。
気を張ってないと、すぐ迷子になっちゃうんだよね。」
トトは懐かしそうに、そして少し恥ずかしそうに言った。
私はトトに、なんで全身同じ色に揃えているのか聞いてみた。
トトは返答に困っていた。
「うーん。理由っていっても、一言で上手く表せないんだよね。
強いて言えば『文化』かな。
私達ってね、自由に姿を変えられる反面、生まれた時の自分の姿をそっくりそのまま再現するのが難しいんだよ。
だから、自分の好きな色を全身に纏って、一種のアイデンティティみたいなものにしているんだ。
ちなみに、私は白が好きだから、全身白色にしてるの。
髪の色は、生まれたときは黒だった気がする。
でも、白がいいなーって思ったから、変えちゃったんだ。
放っておけば、おばあちゃんになったときに白くなるとは聞いたことがあったんだけど、それだと少し白に透明がかっちゃうから、止めたんだよね。
だから、私の髪の毛、不透明でしょ?」
トトは自分の髪に触った。
「生まれた時の姿を変えるのに、抵抗とかないの?
せっかくお母さんが生んでくれた体なのに」
トトは首をかしげて唸った。
「うーん……。嫌っていうか、当たり前のことだからなあ。
そっかあ。そんな考え方もあるんだね……。
でも、皆これが常識だと思ってるし、親も別に気にしてないよ。
茜も小さい頃からここに住んでいたら、疑問すら、抱かないはずだよ」
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