第3話 異なる世界

「……ーし。……だいじょ……ですか?」


何だろう、声が聞こえる。


「……しもーし。大丈夫ですか?」


はっとして目を開けると誰かの目があった。

驚いて起き上がる。 


私を覗き込んでいたのは、白い服を着た少女だった。

年は同じくらいだろうか。

とても綺麗な顔立ちをしている。

大人っぽい印象だが、子供のようなあどけなさも残っているように感じられた。

そして白い服、白い髪、白い肌。

髪は白髪のように変化したのではなく、元から白いように見えた。

肌は透き通るようだった。

服はワンピースのような形をしている。

声も、とても綺麗だ。

純白。清廉。

そんな言葉がよく似合った。


「溺れてたよ。大丈夫?」

少女は首を少し傾けた。

「うん、大丈夫。助けてくれてありがとう」

私がそう言うと、「良かったぁ」と少女は胸をなでおろした。


少女の名前はトトというらしい。

変わった名前だと言うと、ここに住んでいる人たちは二文字続きの名前の人が多いと教えてくれた。

「ここはカラ国。一人の王様が治めて下さってるの。皆とてもいい人達よ。

…あっ!そういえばあなたの名前を聞いてない。あなたは誰?どこから来たの?」

少女の声はどこかふわふわしていて、優しい響きを含んでいた。

「私は茜っていいます。日本から来ました。

……ここはどこの大陸にある国ですか?私、流されて来たんですよね?」

ここが死後の世界ではないと仮定して、少しでも現実的に考えた結果の質問だった。

私の質問を聞いた少女はキョトンとしていた。

3秒くらい考え込んだ後「きっと記憶がまだ安定していないのね」と呟いた。

「えっと……まずあなたの言うタイリクというものがなんなのか分からないわ。

少なくとも、この国はタイリクには属してない。

聞いたことないから。

あと、あなたは流されて来たのではなくて落ちて来たのよ」

大陸を知らない?

地球に暮らしているなら、大陸を知らないはずはない。

そういえば、私はカラ国という国を聞いたことがない。

髪が白色というのも珍しい。

ここは本当にどこなんだろう。

まさか……異世界?

考えているうちに、ふと思い出すことがあった。

「私、意識を失う直前に蛇のようなものを見たんです。気のせいかも知れないけど。

あれは何だったんだろう」

「それ、私だよ」

「!?」

この少女は何を言っているんだろうか。人が蛇になれるはずがないのに。

「そこまで驚くなんて、あなた、本当に違う場所から来たのね。記憶が混濁しているのかと思ったけど、ハズレだったみたい。

……。そんな目しなくて大丈夫だよ。ふざけてる訳じゃないから」

次の瞬間、少女の体は少しずつ歪んできた。

だんだんと変形している……?

目の錯覚だと疑うほど、実に自然な形でトトの体は変化していく。

私の動揺を置いて、トトの体は大きく、細長くなっていった。

気がつくと、一匹の大蛇が目の前にいた。

その鱗は少女の人間の姿の時のように白く、目は赤い。

「怖がらなくていいんだよ。

この国に住んでいる人たちはね、どんな形にもなれるんだよ。

そして、コミュニケーションもとれる。

だから、ヒトじゃない姿の人達が話してることは当たり前だし、ヒトの姿をしている人が一人もいない日なんてのも、たまにある。

さっきは水のなかで、蛇の形は動きやすいからこの姿になっていたんだ」

トトはにっこり笑った。


私は今の状況を上手く把握することが出来なかった。

でも一つ分かったことがある。



私は、自分の世界とは異なる世界に来てしまったようだ。


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