第15話 覚醒  Bパート

「天衣解放!アームドオン!」


 咆哮と共に修道服が弾け飛び、ウリエルさんの体が光に包まる。光はそのまま純白のボディスーツと白銀の手、足、体の装甲に変わる。そして最後の締めと言わんばかりにバイザーが付いたヘッドギアが装着される。


「装着完了!我が名はウリエル!これより神の代行として実力を行使する!」


 名乗りと共に装甲の背中についている小型バックパックから光の翼が展開され、頭上には光の輪が現れた。純白の戦装束に身を包んだその姿にはさっきまでのスケ番の面影は無く、まさしく天使だった。


「あれこそがヴァルキリーズの天使たちの戦装束、その名もホーリーギア!」


 僕の初変身の時のようにセラムさんがまた説明口調で解説してくれた。そのうち特撮番組みたいな感じで戦闘中の映像を編集するためにナレーションを入れてるんじゃないかと疑いたくなる。


 「こいつを着るのも随分と久しぶりだな。楽しくなってきやがったぜ!」


 装備の具合を確かめるようにストレッチをし始めるウリエルさんに向かって、周囲を取り囲んでいたゾアッパ兵達が一斉に襲い掛かった。

 四方八方どころか飛び上がり、そのまま重力に任せるままに落下し、覆い被さる者までいた。


 「ウリエルさん!」


 群がったゾアッパ兵達でウリエルさんがいた場所は黒い塊と化してしまい、姿が完全に見えなくなってしまった。

 だが、それも一瞬の事だった。

 黒い塊から一体、また一体とゾアッパ兵が天高く打ち上げられ始め、空中で黒い霧に戻り霧散した。

 黒い塊だったものに徐々に穴が開き始め、鼻歌交じりにゾアッパ兵を打ち上げる姿を確認することができた。


「肩慣らしもこれで終わりだ。雑魚共にこれ以上用は無え!失せろ!」


 残り三体のところで面倒になったのか、ヴァルスピアをフルスイングして纏めて場外ホームランにしてしまった。

 それを見ていたアラクネードの顔が、絶望に染まっていた。自分達の天敵であるウリエルさんを、わずかでも倒せるかもという希望を見事に砕かれたのだから仕方がない。

 なまじ、下手な希望は人を、この場合は怪人だが、より強く絶望に落とすらしい。

 こんなことを悪人でも悪魔でもなく、ましてや怪人でもなく、天使に教わるとは思ってもみなかった。


「雑魚共はこれで打ち止めみたいだな。次はテメエだ、アラクネード!」


「騎士のボウヤをいたぶって殺すだけの簡単な仕事のはずだったのに何でこうなるのよ!」


 槍を向けられたアラクネードは一瞬たじろいだが、覚悟を決めたらしく、戦闘態勢に入る。


「下手打って俺を目覚めさせたからだよ!それについては礼を言うぜ!」


 アラクネードは真正面から槍を構えたまま突撃してくるウリエルさんの足を止めよう必死に糸を発射するものの、全てヴァルスピアで弾かれてしまう。


「まずはそのウザってえ足からだ!」


 ウリエルさんは糸を全て捌ききり、アラクネードに肉薄するとヴァルスピアで一本ずつ足を切り飛ばし始め、あっという間に4本切ってしまった。


「ああああああ!止めなさい!この!」


 アラクネードは口から毒霧を発射し、ウリエルさんが一瞬ひるんだ瞬間に残った2本の背中の足で後ろに飛び、距離を取った。


「しょうもねえ手ェ使いやがって、さっさと残りの足も寄越しやがれ。」


「相変わらず天使とは思えないしゃべり方と戦い方。流石はゴールデンオーガね」


「フン、懐かしい名前だな。勝手に変な名前つけやがってボケ共が」


 ウリエルさんには悪いけど、ヘッドギアから飛び出している金色の髪を振り乱して苛烈に戦うその姿についた異名ならばぴったりの名前だと思う。

 言ったら絶対怒られそうなので口にはしないけど。


「無駄話はここまでだ。そろそろテメエをぶっ倒す」


「フフフ、ただではやられないわ!ボウヤも道連れよ!」


 残った2本の足から僕を狙って糸を発射してきたが、素早く僕の前に移動したウリエルさんにあっさりと弾かれた。


「読めてたぜ、テメエのすることなんざなあ。さあ、こいつで決めてやるぜ!」


 ウリエルさんの背中のバックパックから再び光の翼が展開され、ヴァルスピアが黄金の輝きを放つ。


「シャイニンググングニル!」


 必殺の咆哮と共に放たれたヴァルスピアはアラクネードに一直線に飛んでいき、胴体を貫いた。

 

「こ、今回は、私の負けね。でも覚えておきなさい、ゾアカーン様が復活された暁には、人間も天使も関係なく、きっと絶望に全てを染め上げて下さるわあ!」


 アラクネードは恍惚とした表情でそう言い残し、瘴気へと還った。


「ユウキ、封印だ!俺が体を支えてやる!テメエはブレード握ってるだけでいい!」


 ヴァルスピアを手元に呼び戻したウリエルさんがこちらに駆け寄ってくる。


「それは困る、彼女は大事なゾア帝国の幹部なのだから」


 声の方を見ると、身長2メートルはあるであろう屈強な体躯の鎧兜に日本刀を携えた獅子の獣人が立っていた。


「チィ、テメエも復活してやがったのか!シシオーガ!」


 アラクネードだった瘴気の塊を守るように移動した声の主は、ウリエルさんと顔馴染みらしい。


「久しいな、ゴールデンオーガよ。対戦の時の借りをここで返したいところだが、今回はアラクネードの回収だけで我慢するとしよう」


「アアアン!そう簡単に逃がすわけねえだろがボケェ!」


「無理をするな、お主も限界であろう。拙者に見抜けないと思うてか。お主との決着は互いに万全の状態でつけたいのだ」


「俺をなめんじゃねえ!テメエも瘴気に還してやる!」


 ウリエルさんがシシオーガに突っ込みもうした瞬間、シシオーガが腰に携えた刀を抜刀し、地面に斬撃を放った。

 強力な斬撃により地面がえぐれ、辺り一面が土埃に包まれて何も見えなくなってしまった。


「ではさらばだ、ゴールデンオーガと未熟な騎士よ!次は刃を交えようぞ」


 土埃が晴れるころにはシシオーガもアラクネードの瘴気もいなくなっていた。


「チッ、逃がしたか。次あったら二人纏めてボコってやる」


 物騒な決意を固めているウリエルさんに少し引いていると、後ろからラボ以外では通信やスピーカー越しでしか聞くことないがと思っていた声が聞こえて来た。


「姐さん!あーねーさーん!」


 その時、僕は一つの奇跡を見た。あのセラムさんが自らの意思でラボから外に出てきている!

 運動不足で息を切らしながら、走ることに慣れていないから何度も転びそうになりながら、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら走ってきたのだ。

 そのままウリエルさんに抱き着こうとした瞬間、転びそうになったのを変身を解除しながらウリエルさんが受け止める。


「姐さん!ずっとずっと会いだがっだよおおおぉ!」


「だあもう、泣き過ぎだバカ。服に鼻水着けんじゃねえ」


 普段アリアさんに抱きしめられると胸を攻撃し始めるのに今回は素直をに胸に顔をうずめて泣いている。


「でも、でもーーーー!」


「しょうがねえ奴だな全く。まあでも、色々心配かけたみたいだな。悪かったよ」


 ウリエルさんとセラムさんの関係はよくわからないけど、目の前の感動の再開にこっちの涙腺も緩んでくる。先生に至ってはとなりで目元をハンカチで抑えているが号泣している。


「セラム、いい加減泣き止めよ。後、俺、もうげ、んかい、だから、あと、たのむ」


 セラムさんを宥めていたウリエルさんが糸が切れた人形のように倒れ、今度はセラムさんが受け止めようとしたが、体格差もあり、一緒に倒れこんでしまった。


「姐さん!どうしたの!まさかさっきの戦いでどこか怪我を!」


 僕も慌てて二人に駆け寄り、ウリエルさんの体を調べようとすると、


「グオーー、むにゃむにゃ、はら、へった!グオー!」


 豪快な寝息と自分の欲望を的確に伝える寝言が聞こえて来た。ついでにお腹の方の虫もすごく鳴いている。


「ユウキくん、エレンドル、悪いんだけど姐さんラボまで運んで」

 

 さっきまでの感動はどこかに行ってしまった僕と先生は無言でうなづき、二人でウリエルさんを運び始める。

 本当ならいつかのお返しにお姫様抱っこをしたいところだが、体にまだ力が入らないし、後、女性にこんなことを言っては失礼かもしれないが、少々重たいのだ。

 アリアさんが行方不明のヴァルキリーズの隊長だった、という事実はあまりにも衝撃的すぎた。ウリエルさんが目覚め次第色々と話し合わないといけないだろう。

 でも、僕が一番気になっていることはアリアさんという人格が、一人の人間の女性がどうなってしまったかということだ。

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