第15話 覚醒 Aパート

「アハハハハ、ホントに担がれてきたの。笑わせてくれるわねえ」


 現場に到着した僕たちを見たアラクネードは腹を抱えて笑い出した。


「笑ってないで神父様を返してください!」


「アリアさん、とりあえず降ろしてもらっていいですか。多分この状態を笑ってるんですよ」


 いつまでも敵にお尻を向けながらしゃべっていては色々と締まらない。


「すみません。つい気持ちがはやってしまって」


 ゆっくりと降ろしてもらい、ようやく地面に足を下した僕はブレードを抜き払いながら改めて怪人と対峙する。いつもならここで変身しているところだが、セラムさんに止められているので変身はしない。


「あら、ボウヤもしかして私の毒を解毒したの?」


「そうだ。言っておくが、二度も同じ手は食わないからな」


「ウフフ、強がっちゃって。毒は解毒できても体にはダメージが残ってるはず。ホントは立ってるのも辛いんじゃないの?だから剣を構えても変身はしない」


 アラクネードの言う通り、変身しないのは止められているからだけでなく、自分でも分かっているんだ、膝が笑い、ブレードを持っているだけで限界の腕、とてもじゃないが戦えないということを。


「それじゃあボウヤ、こっちに来なさい。そしたらこの人間を解放してあげる。もちろん剣はそこに置いてきてね。」


 アラクネードの前にいたゾアッパ兵達が道を開け、先生が脅されながらこちらに歩いてくる。僕も先生の歩くスピードに合わせて少しづつアラクネードに近づいていく。


「いらっしゃいボウヤ。これからあなたをどう料理しようか考え中なんだけど希望はある?私のお勧めは糸で逆さにつるして放置か、もう一度毒を注入されるかなんだけど、どっちがいいかしら?」


 人間離れした顔からでもわかる恍惚とした表情。逃げるなら目的の物を手に入れて油断しきっている今しかない。


「どっちもごめんだ!今です、セラムさん!」


 ポン!とドローンからグレネード弾が発射された瞬間、白い塊が弾を弾き返し、弾き返された弾はドローンに命中し、空中で派手な煙を撒き散らしながらドローンが墜落した。


「二度もそんな見え見えの手が通じると思ったの?さっさと来なさいボウヤ!」


 アラクネードは背中の6本の足から糸が飛んできて僕の体を捕らえて一気に自分の元へと引き寄せる。さっきグレネード弾を弾き返したのも糸をボール状にしたものだ。


「ウフフフフ、欲しいものが手に入るって気分良いわあ。さあ、どう料理されたい?」


 先ほどの提案、毒も吊るさるのもどちらもごめんだが作戦が失敗した今、もう打つ手はない。


「ユウキ君を返せ!」


「もうあなたはいらないの、引っ込んでて。」


 僕を助けようと振り返ってアラクネードに立ち向かおうとした先生だったが一瞬で簀巻きにされてしまい、地面に横たわった。


「神父様!うああああああああ!」


「アリアさん!ダメです!止まってください!」


 突貫するアリアをゾアッパ兵達が阻む。人間離れした怪力で2人程吹き飛ばしたものの、数の暴力には勝てず止められてしまい、胴上げのように持ち上げられてそのまま思い切り投げられてしまった。


「キャアーーーーー!グッ!」


 数メートル弧を描いて飛んだアリアは少し大きめの石に頭を打ち付けてしまい、額から血を流しがら動かなくなってしまった。


 「アリアさん!アリアさん!返事をしてください!」


 必死に拘束から抜け出そうとするが力の入らない体ではとてもじゃないが無理だった。


 「コラコラ、暴れないの。あなたもちゃんとあの子の後を追わせてあげるから」

 

 「オイコラ、ナニ人のことを勝手に死んだことにしてんだよ」


 声の方を見ると額から血が流れているのも気にも留めないように立ち上がったアリアさんが眼光鋭くこちらをにらみつけていた。


「アラァ、アナタ人間の割りに案外丈夫なのねえ」


「タリメェだボケ、俺は人間じゃねえ、天使だ!」


「え、アリアさん?何を言ってるんですか?」


「ナニもクソもねえよ、俺は天使さ。まあ今しがたまで記憶を失っていたがな。しかし頭も打ってみるもんだな、おかげで全部思い出せたよ」


 いつものおっとりとした雰囲気は完全に消え去り、乱れた髪をそのままに前髪をかきあげこちらを睨みつけてくるその姿にシスターとしての面影は無く、まるでスケ番のようだ。


「あ、姐さん!生きてたんですね!ずっと探してたんですよ!ってキャア!」


 天使と名乗るアリアさんは、近づいてきたドローンを鷲掴みにするとカメラに向かってガンを飛ばし始めた。


「あ゛あ゛ん!セラムテメエ、こっち来てからずっと俺のこと見てたくせになんで気づかねえんだよボケエ!」


「だってまさか記憶喪失になってるなんて思いもしなかったし、似てる気はしてたけど雰囲気が違いすぎるからー!」


 ドローンのカメラ越しでも相当怖いのか、今にも泣きそうな声がスピーカーを通して必死の言い訳をしている。


「ねえちょっと、ケンカならあの世でしてくれないかしら。いい加減待ちくたびれたんだけど、自称天使さん」


 あまりの事態に流石にあっけにとられていたアラクネードも正気取り戻したらしく、話を元に戻そうとする。


「チッ、まあいい、後で覚悟しとけよセラム。まずはこっちを片づけてからだ。俺の相棒の整備は終わってんだろな」


「終わってますけどちょっと待ってください!外に出しますから!」


「んなもん待ってられっか、来い!ヴァルスピア!」


 片手を天に向けながら叫ぶ姿にアラクネードとゾアッパ兵達は何が起こるのかと身構えるが、何も起こらない。


「ねえあなた。自分が天使だとか言い出したり、急に叫んだりして何がしたいの?頭打ったせいでおかしくなっちゃったんじゃない?」


「いいや、俺の頭はまともさ。ただ久しぶりだからな、ちょっとあいつが来るのに時間がいるってだけさ」


 その時、教会の方向から何かが飛んできた。自分めがけて高速で飛んでくるその物体を難なくアリアさんはキャッチした。その正体は以前海底から引き揚げたヴァルキリーズの行方不明になった隊長が使っていた武器、ヴァルスピアだった。


「久しぶりだな相棒。今から一緒に大暴れしようぜ!」


 長い年月を経て主の元へと帰ってきたヴァルスピア。その感触を確かめるようにアリアさんは慌てて襲いかかかるゾアッパ兵達を倒していく。

 久しぶりの戦闘が楽しいのか、戦っているというのに満面の笑みを浮かべている。ただ、口角の吊り上がった笑顔は天使というより鬼か悪魔を連想させる邪悪な笑顔だった。10人程いたはずのゾアッパ兵があっという間に倒されてしまった。


「そ、その天使とは思えない邪悪な笑った口元とその槍!あなたもしかしてラグエルなの!」


 先ほどのまでの妖艶な声はどこへやら、アリアさんのことをラグエルと呼んだアラクネードの声は聞いた方が可哀そうになるくらい震え、おびえた声だった。


「そうさ、俺はラグエル!ヴァルキリーズの隊長であり、テメエらの天敵だよ。」


「ボウヤ一人始末するだけの簡単な仕事はずだったのに、なんでこんなことになるのよ!よりにもよってラグエルだなんて。」


「勇気を解放して逃げるってんなら今なら見逃してやってもいいぞ。どうする?」


「それはできないわ。このボウヤが生きていれば必ずゾアカーン様復活の妨げになる」


「じゃあここで二度と復活したくないと思うほどにボコってやるよ。」


 槍の矛先をこちらに向けて構える様は素人でも分かる程隙が無く、直接自分に向いていないのに身震いするほどの殺気が込められていた。


「フン!さっきまで自分のことを忘れてたくせに偉そうね。見逃してくれるってのも本当は体が本調子じゃなくてさっきのゾアッパ兵を倒すのが精一杯だったからじゃないの?きっとそうだわ、間違いない、そうできゃ困る。ゾアッパ兵達、あいつを袋叩きにしてあげなさい!」


 アラクネードに呼応するようにあたりに黒い霧の塊が現れ、そこから無数のゾアッパ兵現れ、アリアさんを包囲してしまった。


「アリアさん、逃げてください!敵が多すぎます!」


「うっせえなボウズ。俺はアリアじゃねえ、ウリエルだ。それにこんな奴ら100人いようが1000人いようが俺が本気をだしたら関係ないんだよ。」


 自信満々の顔でヴァルスピアを地面に突き刺し、ウリエルさんが吼えた。


「天衣解放!アームドオン!」 

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