第12話 百目 Bパート

「ユウキくん、諦めるのはまだ早いよ。こうなったらBプランだ」


「そんなの聞いてないですけど」


「そりゃ言ってないからね、今思いついたんだもん。全機一斉発射用意、撃てえ!」


 ポン、と乾いた破裂音と共にドローンから何かが発射される。あれは映画で見たことのある、たしかグレネード弾だ。


「そんな遅い弾が当たるわけないでしょう、なにがしたいんですか」


 そもそも当たるどころか怪人の手前に落ちてしまい、爆発も何も起きなかった。


「セラムさーん、当たってないうえに不発弾じゃないですか!」


「当たらなくてもいいんだよ、その弾の真価はここから」


 地面に落ちた弾から一斉に勢いよく赤い煙が噴き出し、ヒャクアイの体が見えなくなるほどの煙幕となった。


「煙ごときで私の目をくらませられるとでも思っているのか。ん、何だか目に染みるような。い、痛い!なんだこの煙は!目、目に染みて激痛が走る、涙が、涙が止まらん」


 赤い煙の中で苦しみ悶えるヒャクアイは体中にある目が赤く充血し、滝のように涙を流していた。


「セラムさん、あの煙ってなんなんですか?」


「ボク特製の超濃縮唐辛子催涙弾、目に入れば染みるどころの騒ぎじゃないよー」


「そういうのあるなら早く出してくださいよー!」


 色々用意してくれるのはありがたいがそういうものはピンチになる前に使って欲しいものだ。


「効くかどうかわかんないからイチかバチかの策だったの。そもそもユウキくんの正体がばれそうになった時に目くらましで使うように積んでた奴なの。全身目玉だからってこんなに効くとはねえ。とにかく今なら目を封じられてるんだから攻撃攻撃!」


 正体を隠すことは大切だとは思うけど、怪人が苦しむレベルの物、絶対に人間に使っちゃだめだと思う。今度、安全基準についてしっかりと話し合う必要性がありそうだ。


「分かりましたけど、帰ったら他にも色々作ってるんならちゃんと教えて下さいね。後人間用なら普通の煙で十分ですよ!」


 スピード重視の攻撃からダメージを与えるために一撃一撃が重いパワーロザリオに交換する。


「パワーロザリオ、ロード、エンチャント、アーム」


 赤い煙に包まれたヒャクアイに突っ込もうと思って走り出しかけてふと疑問が頭をよぎり慌てて足を止める。


「セラムさん、これ僕も目に染みるとか無いですよね」


「ちゃんと兜に防毒機能つけてるから大丈夫だよ」


 疑問は晴れたので今度こそ全力で突撃して攻撃する。今度スーツの機能をちゃんと教わろうと心に決めて。

 赤い煙の中にうっすらと見えるヒャクアイのシルエット目掛けて攻撃する。


「ぐわああ、見、見えない、どこから攻撃しているんだ!」


 当たった!催涙弾がかなり効いているらしい。ヒャクアイはなんとか煙から逃れようとするがすかさず進行方向に回り込んで攻撃し、煙の範囲内に閉じ込めるように立ち回る。


「ユウキくん、催涙弾の追加は無いから煙が晴れる前に決めちゃって!」


「次からは多めに用意お願いしますね」


 そんなにドローンに積めるわけないと怒られながらトリガーを引き、上段からの最後の一撃を放つ。


「チャージ、パワーファイナルブレイク」


 勢いで辺りの煙を吹きたばしながら襲い掛かる強力な一撃で吹っ飛び、ヒャクアイはようやく出たがっていた煙の外に出られた。


「フフフ、何でも見える私でも自分が敗れる未来までは見えなかったようだな」


 気取ったことを言いながらヒャクアイの体が爆ぜ、瘴気の塊だけが残った。


「今までの怪人とは格が違った。これまで戦った怪人たちでも十分強かったのに他にもこんなに強いやつがいるなんて。もっと強くならないと。」


 決意を新たにしてると、瘴気をさっさと封印しろ怒られてしまった。通信越しだから仕方ないとはいえ、毎度毎度耳元で怒鳴るのはやめてほしい。


「ブランクロザリオ、ロード、アブソープション」


「あれ、なんだかフラフラする。ちょっとは体力着いたと思ったけど今日はダメージ受けすぎたかなあ。あ、ヤバ…」


 変身による体力の消耗と戦いのダメージのせいでそのまま倒れてしまった。幸い下は砂浜なので倒れてけがはしなかった。


「ユウキくーん、そんなとこで寝たら風邪ひくよ。おーい、ユウキくーん。ありゃりゃ、完全に伸びちゃってるなこれは。しゃーない、デカ胸にでも迎えに行かせるか」


 どれくらい意識を失っていたのだろうか。僕は歩くような振動と、体に当たる柔らかい感触で僕は意識を取り戻した。


「う、うーん。あれ、僕ヒャクアイを倒して....」


「あ、ユウキさん気が付きましたか。セラム様にユウキさんが倒れたから迎えに行くように言われたので慌てて砂浜に行ったらまだ意識がなかったのでとりあえず教会に運ぼうと思って今その途中です」


「そうだったんですか。ん?運ぶ?」


 意識がしっかりと覚醒すると現状が飲み込めた。僕は今、アリアさんにお姫様抱っこをされて運ばれているのだ。さっきの柔らかい感触はアリアさんの豊満な胸だ!


「ア、アリアさん降ろしてください!もう大丈夫ですから!自分で歩けます。」


「あ、ちょっと暴れないで下さい、危ないですよ。無理しないでください、少し見ただけでも体中打ち身だらけで意識を失うほどに体力も消耗してたんですから少し休んでください。男の人一人くらいなんてことはないですし、もうすぐ教会ですからこのままベッドまで運びますよ」


 いや、何でもないって、確かにアリアさん軽々と僕を抱っこしているけど問題はそこではない。


「いやでも、本当に大丈夫ですから」


「ダメです、諦めて大人しくしててください」


 しばらく抵抗したが、抵抗空しく結局そのまま教会まで運ばれてしまった。


「おや、お帰り二人ともブフ!ユウキ君、大変みたいだったみたいだねクククク」


「先生、ものすごい笑ってませんか。」


「いやいや、笑ってなんかいなフフいよ。さあ早く傷の手当てをしてベッドに寝かせてあげなさい、アリア。ブフ!」


 先生、笑ってないと言いながら全く堪え切れてない。確かに我ながら情けない姿だが、いくら何でも酷いと思う。


「そんなに笑ったらユウキさんがかわいそうですよ。」


「すまんすまん、本来は逆だろうにと思うとおかしくておかしくて」


「まったくもう。じゃあベッドに行きますね」


 宿舎の自室のベッドにやさしく寝かされ、ようやく恥ずかしい現状おさらばできると思ったら、今度は服を脱がされ始めた。


「ちょちょっと、なにしてるんですか!」


 驚きのあまり大きな声を出しながらベッドの端に慌てて逃げる。


「なにってそのままじゃ寝にくいでしょう、だから着替えを」


「それくらい自分でできますから大丈夫ですってば」


「いやでも....」


「ほんと大丈夫ですから、とりあえず部屋から出てください。」


「そこまで言われるのなら分かりました。何か用があるときは呼んでくださいね。」


 アリアさん、僕が男だって忘れてないかな。まあ心配してくれての事なんだろうけど、なんかものすごい複雑な気分だな。別に異性として見てほしいとかそんなんじゃないけど。

 後日、セラムさんのラボに行くとお姫様抱っこされている映像がモニターにでかでかと映し出されていて、からかわれまくって僕の顔が真っ赤っかになったのは言うまでもない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る