第12話 百目 Aパート
駐屯所に行くと、運良くちょうど出勤したばかりのヴァルドさんに鉢合わせした。
「おはようございます、ヴァルドさん。」
「おはようさん、今日はどした?先生のお使いかなんかか?」
「そうじゃなくて今日は僕の個人的なことで来たんです。今少しいいですか?」
「構わねーぜ。ああそうだ、ちょっと待てよ」
たまたま近くを通った部下に声をかける。
「今どっか部屋空いてるか?」
「取調室なら空いてますよ。昨日から捕まえたといえば暴れた酔っ払いくらいなもんですから」
「平和で何よりだな。ちょっと使わせてもらうぞ」
「了解です、分隊長。」
ヴァルドさんに連れられて入ったのは以前話を聞かれた取調室だった。
「そんでまあ、話ってなんだよ。」
「ヴァルドさん、天使様の噂とかって聞いたことありませんか?」
仕事の時間にお邪魔しているのだ、無駄話はせずに単刀直入に話を切り出す。
「天使様の噂ねえ。聞いたことはねえなあ、昔ゾア帝国との戦いがあった頃は俺も鼻たれのガキンチョだったから当時の事はあんま覚えてねえしな。」
「そうですか。どんな噂でもいいんで何かないですか?それっぽい人を見たとか、明らかに人間離れした人の話とか」
とにかく情報が欲しい今は信憑性がどうとかとぜいたくを言っていられない。このまま空振りで帰るよりはマシだろう。
「どんな噂でもって言われてもなあ。そういやこの街の憲兵隊でずっと語り継がれている伝説の食い物泥棒の話でよけりゃあするぞ」
どんなとは言ったが、いくら何でも関係が無さすぎる。とはいえ、ご厚意で話してくれているのだからとりあえず乗っかることにする。
「伝説の食い物泥棒って何か事件でもあったんですか?」
食べ物を盗まれた事件が語り継がれる程この街は平和なのか、よっぽどの量を盗んだのか気になる。
「俺も昔ここにいた先輩から聞いた話で直接見たことないんだがな。なんでもゾア帝国の戦いの後しばらくしてのことらしいんだが、身長が高い若い女が屋台の食い物を盗んだらしくて捕まえようとするとぼさぼさの金髪を振り乱して大暴れしたらしいんだよ。大の男が5人がかりでも取り押さえられなくて応援を呼びまくったそうだ。なんでも片手で石ころでも投げるみたいに軽く人をぶん投げるぐらいの怪力だったって話だ」
金髪で怪力と聞くとアリアさんの顔が思い浮かんだが、30年前に若い女性だったのなら今頃は中年だろうから本人とは関係は無いだろう。
いや、もしかしたら親族のという可能性はあるかもしれないな。
「その人ってその後どうなったんですか?捕まったんですか?」
「結局逃げられちまったんだと。その後もしばらく食い物を盗んでは憲兵に追い回されてたらしいが毎度逃げ切られてた。それでいつの間にかいなくなってたんで先輩は別の街にでも行ったんじゃないかと思って詳しく操作はしなかったって言ってたな」
「その人が天使様だったって可能性無いですかね?もしくはアリアさんの親戚とか?」
「なんで天使様が食い物泥棒すんだよ。本物だったら売るどころか皆喜んで献上するぞ」
国民的な宗教の神の使いなのだから、それもそうなのだろう。
「まあアリアの親族の可能性ってのはあるかもなあ。俺も何とかあの娘の家族は見つけてやりてえとは思ってるし、調べといてやるよ」
うっかり人の秘密を漏らしてしまったかと思ったが、ヴァルドさんは以前に先生からアリアさんについての調査を依頼されたことがあるのだそうだ。ただ、今のところアリアさんの過去に関する情報は何もつかめていないらしい。
「ていうかなんだよ急に天使様の話なんて。まさか何かあったのか?」
「いや、そういう訳じゃないですけどゾア帝国が復活したみたいだしもしかしたら天使様も来てるかなあと思って。気になったらとことん調べないと気が済まない性格でして」
行方不明のヴァルキリーズの隊長を探してるんですとも言えないのでとりあえずごまかす。
「そういうことか。まあなんか情報が入ったら教えてやるよ」
「よろしくお願いします。それじゃあ失礼します」
「おう、気を付けて帰れよ」
駐屯所を後にし、街に出るのならついでにと頼まれた買い物を済ませて帰ろうとしていると端末にセラムさんからメッセージが入った。通信用の端末なんて無い世界で通話していれば街の人達に不審に思われる可能性があるので、、街でいるときは端末のメッセージ機能でやり取りをしている。
「怪人発見、場所は地図機能に転送済みでルート案内させる」
慌てて案内通りに進むと、以前ミノオックスと戦った砂浜に着いた。そこにはゾアッパ兵を従えた全身が目玉だらけの怪人が待ち構えていた。
「ふむ、君かね?我らの同胞を封印しているという騎士は」
「そうだと言ったらどうする?」
「もちろん倒させてもらうよ。いくら封印されたのが雑魚共とはいえ共にゾアカーン様に使える大切な同胞たち。敵は売ってやらないとな。まずは腕試しと行こうか、行け!ゾアッパ」
「ゾア!ゾアゾアゾアー!」
ブレード抜き、襲い来るゾアッパ兵を切りながらブレードにチェンジロザリオをセットしてトリガーを引く。
「変身!」
変身が終わると同時に最後のゾアッパ兵を倒す。
「ふむ、思ったよりも強くはなさそうだな。」
「ユウキくん、そいつヤバいよ。データベースによるとそいつの名前はヒャクアイ。強力な封印の対象になってた奴だよ。」
「強いやつでもやるしかないですよ」
「フフフフ、誰と話しているかはわかりませんが密談は終わりましたか。ではかかってきなさい」
上から目線な奴だな。でもみたところ鋭い牙や爪もなければ武器も持っていない。全身目玉だらけなのが不気味だが。
武装の無さに違和感を覚えつつ、ブレードで切りかかるが最小限の動きで躱される。そこから何度も攻撃するが全て躱される。
「全部躱されるなんてなんで!」
「それは見えているからだよ、君の行動全てがね。だから君の攻撃を躱すぐらいなんてことはないのだよ」
全身目玉だらけは伊達じゃないってことか。全身の目がちゃんと見えているとすると、奴に死角は無いということになる。
「だったら目にも留まらぬ速さならどうだ」
腰のホルダーからスピードロザリオを取り出してセットする。
「スピードロザリオ、ロード、エンチャント、レッグ。」
攻撃の目的をダメージを与えることからとにかく当てることに変えてスピードに任せて攻撃を繰り出す。
「これならどうだ!」
「だから言っているでしょう、見えていると。たとえどんなに速くてもだ」
攻撃の躱し様にカウンターで思い切りみぞおちにパンチを食らう。鎧越しにでもダメージが入るなんてこいつ見た目以上にパワーがある。思わず膝から崩れ落ちる。
「おやおや、もうダウンですか。もう少し楽しませてくださいよっと」
首根っこを掴まれて思い切りぶん投げられる。
「ぐ!前もこの砂浜で投げられた気がするな」
投げられたおかげでなんとか距離はできたが高速の攻撃すら避けられてしまっては正直打つ手はない。何とかあいつの視界を奪って攻撃を当てる方法を考えないと。
「ユウキくん、前使ったあの作戦を使おうよ。」
「了解です。注意を引きます。」
「合図はこっちでするからね。」
もう一度スピードに任せて距離を詰めて攻撃する。
「だから言ったでしょう、いくら速くても私に攻撃が当たることは無いと。」
別に当たらなくても問題は無い。まあ出来たら当たって欲しいんだが。今はともかくセラムさんの作戦の準備のための時間を稼がなくては。
「段々と速度が落ちてきているじゃないか。そろそろ体力がなくなり始めているんじゃないかな。」
「早く、セラムさん、まだですか!」
「お待たせ、ドローン配置に着いたよ。作戦開始!」
セラムさんの合図とともにヒャクアイの周囲に配備された10機のドローンが一斉にホログラムのシールセイバーを出現させた。
「な、なにい急に増えただと!」
「混乱している今なら!」
ホログラムとタイミングを合わせて全方位から一斉に攻撃を仕掛ける。
「この程度の小細工で私をだませると思っているとは舐められたものですね、フン!」
11人のシールセイバーの中から一瞬で本物の僕を見抜き攻撃を当ててきた。
「な、そんな簡単に見破るなんて。」
「私の目をもってすれば簡単なことさ。そもそも透明にしているようだがドローンもしっかりと見えている。私に見えないものなんて無いのさ」
流石にもう打つ手がないのか。一体どうすればいいんだ。
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