第10話 偵察
今日は朝一番にセラムさんに呼び出されたので礼拝堂の地下のラボに向かった。
「おはようございます、セラムさん。」
「おはよ、勇気くん。朝早くから呼び出してごめんね。」
今日はいつものゆるーい雰囲気から一転、珍しくセラムさんが真面目な顔をしていた。
「今日呼び出した理由なんだけどこれからゾア帝国を封印した島を偵察しようと思うんだ。勇気くんにも見ておいてもらおうと思ってね。」
「僕も一度見てみたかったんでちょうどよかったです。でもどうやって偵察するんですか?」
「そりゃあもちろんドローンに決まってるでしょ。今回は長距離飛行ができるのと海中から潜行して近づけるのも用意してすでに向かってるよ。」
「仕事が早いですね。」
「まあね、僕天才だからね。」
さっきまでの真面目な顔はどこえやら、すっかりいつものセラムさんに戻ってる。
「そろそろ島が見えてくるはずなんだけど、あれ見て。」
「あれ、あんなところにモニターなんかありましたっけ?」
ラボの奥の壁にモニターが設置されていた。かなり大きなモニターで、しょっちゅう出入りしている僕が気づかないはずは無いんだけどな。
「今回の為に用意したんだよ。映画でも見たいんなら相応の対価を用意するっていうなら用意したげるよ。」
つまり映画が見たければお菓子を用意しろってことか。今度特撮の映画見せてもらおう。
「さてさて本題、今映像出すからね。」
モニターに映像が映し出された。上空にはどんよりとした雲、周囲は霧で覆われ全景を見渡すことができない島が映し出されていた。うっすらと見える中央にある小さな山はかつては緑豊かであったろうに木々が枯れ果てた禿山になっていた。
「これがゾア帝国が封印されている島。街の人が死の島って呼んでた島なのか。」
「これからもっと近づいてみるよ。」
セラムさんがパソコンを操作すると映像が動き出して島に近づいていく。
「これで今どれくらいの怪人が復活してるか確認できるといいんだけど。」
さらにドローンが島に近づこうとしたとき突然ドローンの映像に衝撃が走り、乱れて途絶えてしまった。
「セラムさん、映像が!」
「わかってるって、通信が途絶しちゃったんだ。電波障害が起こったわけでもないのに一体何で…」
必死にパソコンを操作して原因を突き止めようとしているセラムさんを見ながら映像が途絶える瞬間をもう一度思い返してみる。映像は突然消えたのではなく、衝撃が走った後映像が乱れて消えた。
「衝撃、もしかして!セラムさん、映像が途絶える瞬間のところをスローで再生できませんか?」
「できるよ、ちょっと待って。」
モニターに映像がスロー再生される。
「ほらあれ!島の方から弾みたいなのが飛んできてませんか。」
「そうか!ゾア帝国の怪人の攻撃だよあれ、データベースに何体か遠距離攻撃ができるやつが記録されてるからそいつらの内の一体が復活してて撃墜したってことだよ。」
「復活したってことは、遠距離攻撃ができる怪人はみんな強力な怪人ってことですか?」
「そゆこと。徹夜で作ったドローン壊されちゃたまったもんじゃない。潜行させてるやつ壊される前に呼び戻すね。」
「帰りながらでいいんで映像見せてくださいよ。」
「別にいいけどなんで?」
「折角島の近くまで行ってるんだし何か少しでも情報がゲットできたほうがいいじゃないですか。」
「それもそだね。今モニターに出すね。」
海中の映像が映し出されるが魚の姿はなく海中は濁っていた。
「これも瘴気の影響なんですか?」
「多分ね、怪人が瘴気を吸収するから島の周りは瘴気が集まりすいみたいだね。瘴気は世界にとっては毒だからほとんど公害みたいなもんだね。」
それからしばらく映像を見ていると何か細長い人工物が映る。
「セラムさん、あそこに何かあるみたいなんですけど近寄れますか。」
「ん、なになにー、お宝でも見つけたの?」
ドローンがその物体に近づくと映像がアップになり物体の詳細が分かった。フジツボや貝殻なんかの体積部で覆われてはいるが槍のようなものに見える。
「なーんか見たことあるような形してるなー。回収して調べてみよっか。」
ドローンのマニピュレーターが槍状の物体をつかみ再び帰還のため動き出す。
「戻すのにしばらくかかるから今日はもう解散だね。」
「じゃあ僕稽古もあるし失礼しますね。」
「がんばってねー。」
少しは強くなったはずなのに相変わらず先生にぼこぼこにされて少し落ち込んでいると端末にセラムさんからメッセージが入った。
「シキュウラボコイ。」
「メッセージっていうか電報みたいだなこれ。」
とりあえず慌ててラボに行くとちょうど作業室からセラムさんが出てきたところだった。
「どうしたんですか急に呼び出すなんて。まさかゾア帝国の怪人が出たんですか!」
「違う違う、ドローンが回収してきた槍みたいなの、大発見だったんだよ。」
「まさかほんとにお宝だったんですか?」
「お宝じゃないんだけどすごいもんだったんだよ。とりあえずこっち来て。」
作業室に入ると作業台の上には堆積物が落とされて奇麗になった槍が置かれていた。
「この槍、僕のブレードと同じでなんかメカニカルですね。この世界の物っぽく無いですよね。」
「その通り、これはヴァルスピア。ヴァルキリーズの隊長が使ってた武器なんだ。」
「じゃあ30年前の戦いの時の遺物ってことですか。」
「実はね、あの戦いでヴァルキリーズ全員が何十年も回復に時間がかかるほどのダメージを受けたって話はしたよね。でもみんな帰還はしたんだ、ただ一人を除いては。」
「それってその隊長さんってことですか。」
「そう、他の天使が封印の準備をしている間一人でゾア帝国を食い止めていて、そのまま行方不明になってしまったんだ。」
「じゃあこれはその隊長さんの遺品なんですね。」
「ちょいちょいちょい、勝手に殺すな。確かにずっと行方不明で生死が分からなかったけどこれで生きているってことが分かったんだ。」
「なんで槍が見つかったら生きてることになるんですか?」
「基本的に神が自分が管理している世界に干渉することは禁じられてるって話、覚えてる?」
「はい、シルフィーア様が言ってましたね。ゾア帝国の件は特例でヴァルキリーズを送ったって。」
「そそ、基本はダメだけどなんにでも特例ってのはある。で、特例でヴァルキリーズが派遣された時にその任務にあたっている天使に何かがあって死んだり緊急帰還して装備がその世界に置き去りになった場合自壊するようになってんの。」
「なんでまたそんな機能を?あとから回収すればいいじゃないですか。」
「甘いなー、僕らの技術はどの世界からしてもめちゃくちゃオーバーテクノロジーなんだよ。もしそれが現地の知性体に先に回収されて調べられでもしたらその世界の技術や文化に大きな影響を与えてしまう可能性があるからね。だからそれを防ぐための自壊機能って訳。」
「なるほど、じゃあその槍が自壊してないってことはまだ隊長さんは死んでないってことの証明なんですね。」
「そゆこと。」
「でも生きてるならなんで帰還しないんですかね?」
「それはわかんないけど生きてるんなら探し出さないと。30年もどこで何してるんだか。生きてるんならさっさと帰って来いっての。」
「お知り合いだったんですか?」
「まあね、知り合いっていうか、一方的に迷惑かけられてたっていうか。」
「セラムさんがかけてたじゃなくて?」
「ナンカイッタカナー、ヨクキコエナカッタナー。」
「何も言ってません。どんな方だったんですか?」
「戦うことが大好きでザ脳筋って感じで....」
「セラム様ー、焼き立てのクッキーをお持ちしたんですけどいかがですか?」
「そういやどことなくデカ胸に似てたな。」
「え、なんの話ですか?」
「まあこんなにのほほんとした雰囲気漂わしてなかったけどね。」
「もう、なんだか馬鹿にされてる気分です。」
「気にしなくていいよデカ胸。クッキーあんがとね。」
「まあそういうことなら気にしないでおきますけど。」
「じゃあ勇気くん、また何かわかったら連絡するから君も何か噂でも聞いたら教えてね。」
「わかりました。アリアさんと先生にも教えていいですか?」
「まあその二人ならいいかな。」
「さっきのお話のことですか?」」
「夕食のときに話すんで宿舎に戻りましょうよ。」
ずっと頭に疑問符が浮かんでいるアリアさんを連れてラボを後にした。夕食の時間になり、三人でテーブルを囲みながら行方不明の天使の話になった。
「ふむ、私もあの戦いにはいたが最後は天使様達に人間では被害が出るだけなので街の守りを固めるように言われて死の島には誰も行っていないからその隊長と呼ばれる方がどうなったか分からんなあ。」
「そうですか。何か噂とかもないですよね。」
「聞いたことはないなあ、私もこの教会に来たのが5年ほど前でそれまでは街にいなかったしな。そうだ、ヴァルドに聞いてみるといい。彼は生まれも育ちもこの街で憲兵隊で働いているから色々と情報が入りやすいだろうしね。」
「じゃあ明日会いに行ってきます。」
「じゃあまた買い物をお願いしますね。」
「わかりました。」
翌朝、買い物かごを持ったお使いスタイルで街に向かった。
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