第9話 悪戯 Bパート

教会に帰る途中、暗闇であまりよく見えなかったが分かった限りの特徴を思い出し整理してみる。確か大きな耳に細長い尻尾が見えた気がする。そしてかなりすばしっこかった。


「特徴をまとめてみるとなんだかネズミっぽいな。でも怪人のくせにやってることが落書きなんて子供の悪戯レベルなことをしているなんて何が目的なんだろ。悪戯で人をイラつかせて瘴気を集めるって作戦かな。」


ブツブツと呟きながら考えをまとめていると教会に着いた。その足で礼拝堂の地下のラボに向かう。


「セラムさん、またドローンで怪人の捜索をお願いしたいんですけど。」


「もうやったけどダメだった」


「え、怪人が出てるの知ってたんですか?」


「違う違う、君が変身したらこっちでも分かるから近くを飛んでたドローンを急行させたんだよ。で、ちょうど怪人が逃げるところだったから追ったんだけど途中で見失っちゃった」


「上空からのドローンの追跡からも逃げきるなんて厄介ですね」


「建物とかの死角を利用して上手く逃げやがったんだよねえ。でも怪人の姿はバッチリ捉えた。」


パソコンのモニターには画像が表示されており、やはり僕の予想通りネズミに似た怪人が映っていた。


「こういう時に役立つと思って以前のヴァルキリーズとゾア帝国との戦いの時に収集したデータを元に怪人のデータベースを作ってみたんだけどそれで検索をかけたらヒットした。個体名ゴブラット、戦闘能力はゾアッパ兵程度しかないんだけどチョロチョロとこっちへの嫌がらせにかけては一級品だったみたいだね」


「じゃあとりあえず見つけて逃げられないように立ち回ればなんとかできそうですね。」


「多分ねー。まあ今日はもう休めば、さっきデカ胸がご飯持ってきたときが君が帰ってこなくて片付かないってぼやいてたよ」


「あーそういえばまだ帰ってきたのことアリアさんに言ってない、じゃあ捜索の方はお願いします」


「りょーかい」


 慌ただしく夕食を済ませた僕は変身の疲れもあって早くに就寝した。次の日もドローンによる捜索と僕自身も夜街を回ったが発見できず、新しい悪戯の痕跡しか見つけられなかった。そんないたちごっこが一週間続いてしまった。


「ただいま戻りました」


「ユウキさんお疲れ様です。今日はどうでした?」


「ダメでした。新しい落書きとか悪戯の跡は見つけられたんですけど怪人は見つけられませんでした」


「今回は力に訴えずに小賢しく立ち回っているようだね」


「そうなんですよ先生、なんとか早く見つけたいんですけど。とりあえずセラムさんのところに行ってきます。」


 ラボに行ってみるとセラムさんがかなり深刻そうな顔でモニターを見つめていた。


「セラムさん、何かあったんですか?」


「最近ゾア帝国の怪人が事件を頻発させてるでしょ、そのせいで結構な量の瘴気が街を中心に発生しちゃってるんだ。このままじゃ怪人がもっと復活する可能性があるんだよ。」


「それってかなりまずいですよね。というかそもそもなんで怪人たちは一部だけ復活したんですか?」


「あー、それ聞いちゃうかあ。ちょっとボクのプライドにも関わることだからあんまり言いたくなかったんだけどさあ」


 30年前のゾア帝国との決戦時、シルフィーア様は作戦方針を怪人達を倒すのではなく封印する方向へと切り替えたそうだ。そもそも倒しても瘴気がある限り無限に復活するゾア帝国の侵攻を止めるにそうするしか方法は見つからなかったのだろう。

 ただ、一体一体封印していてはあまりに時間と労力が掛かり過ぎるため、封印した怪人がまだ封印されていない怪人によって封印を解かれて復活する可能性が高かった。

 そこで考え出された作戦が、ゾアカーン及び一部の他の怪人に比べて強力な力を持つ怪人達は個別にタイミングを合わせて同時に封印し、その他の怪人達は無人島に強力な障壁を張ってその中に閉じ込めるというものだった。


「それじゃあ封印されなかった怪人が強力な怪人を復活させる可能性があったんじゃ」


「それができるやつは封印され安心のハズだったんだけどね、障壁の方に問題があったんだよ」


「問題?結構な深刻なことなんですか」


「割と致命的なことかな。外部から瘴気が入り放題なんだよ。ゾア帝国の怪人が活動を再開させたのはたぶん封印されながらも瘴気を吸収して自分で封印を破った強力な怪人がいたせいだと思う。封印を破れるだけの力を持つ怪人なら障壁に少数の怪人が出入りすくらいの穴をあけるなんて朝飯前だろうし」


 その障壁の技術をシルフィーア様に大慌てで開発させられたのがセラムさんらしい。大戦後、何度か障壁を改良しようとしたそうだが、ヴァルキリーズがダウンしてしまっていた為、叶わなかったそうだ。


「でも大軍で攻めてこないってことはまだ復活した怪人が少ないってことですよね。」


「そゆこと。復活した怪人がリーダー格にでもなって弱くて封印を免れた雑魚をまとめて瘴気を必死に集めさせてんだろうね、まだ封印を破れるほど瘴気を吸収して力を取り戻せていない奴らのために」


「じゃあ早くあいつの悪戯を止めないとまずいってことですよね」


 このまま瘴気を奴らの思う通りに吸収させていては鼠算式に怪人が復活することになる。


「やってることしょぼいくせに地味に効率よく瘴気集めてるんだよなあ、あのネズミ。まあでも見つけたとこでまた逃げられちゃ意味ないんだけどね」


「それなんですけど、一つ思いついたことがあるんです」


「なになにー、言っとくけどナイトチェイサーはまだ使えないからそれで追いかけるとか言い出さないでよ」


 そもそもあんなオーバーテクノロジーの塊、この世界の住人に絶対見られるわけにはいかないから街中では絶対に使用禁止と釘を刺される。


「わ、分かってますよ。ドローンを使っての作戦なんですけどこういう機能つけれます?」


 この後セラムさんとの作戦会議は深夜にまで及んだのだった。そして翌晩、街で捜索していると声が聞こえてきた。


「チュッチュッチュー、誰もオレっちの悪戯は止めらんねーぜ。気分はサイコーッチュ」


 こっちは連日の捜索で疲れて不機嫌だというのに元凶が上機嫌というのはかなり腹が立つ。


「君、油断大敵って言葉知ってる?」


「ゲ!騎士野郎じゃねーか、ゾアッパ共やっちまえ!」


 油断しきっていたゴブラット驚いて叫ぶと5体のゾアッパ兵が現れた。こちらもそれに瞬時に反応して変身する。


「今日こそは逃がさない!」


「だったら今日も逃げてやるッチュウの」


 僕の相手をゾアッパ兵に任せて再び逃げようとするがその前に人影が現れ進路を塞ぐ。


「チュチュ!な、なんで騎士野郎がもう一人いるんだ!」


 ゴブラットの進路を塞いだのはもう一人のシールセイバーだったのだ。


「さあて何でかな。でも言ったろ、今日は逃がさないって」


 ゾアッパ兵を片づけた僕も後ろから声をかける。


「チュ!こうなりゃやってやるーー!」


 こちらを振り返り破れかぶれになったゴブラットが襲い掛かってきた。


「スピードにはこっちもスピードかな」


腰のホルダーからスピードロザリオを取り出しスロットにセットして発動する。


「スピードロザリオ、ロード、エンチャント、レッグ」


 パワーロザリオを使ったときと同じように今度は足に力が沸き上がってくるのを感じる。

 ゴブラットが短い手で殴りかかってくるを避けて自分が思っていた以上の速さで後ろに回り込み攻撃する。


「痛いッチュ!何チュウ速さだ。やっぱり戦うなんて性に合わないッチュ。アーバヨー」


「逃がしてたまるか」


 これ以上の毎日のパトロールはごめんこうむりたいので、逃がす前に一撃で撃破る為ブレードのトリガーを引き必殺技を発動する。


「チャージ、スピードファイナルブレイク」


 足にさらに力が若き上がり、猛スピードでゴブラットを追い、すれ違いざまに一撃、すぐに振り返りまたすれ違いざまに一撃。それを一瞬の間に何度も繰り返す。その一瞬が終わった時、背後で断末魔と共にゴブラットが爆発した。


「もっともっと悪戯したかったッチューーー!」


「お疲れユウキくん。作戦上手くいったね」


セラムさんからの通信と同時に目の前にいたもう一人のシールセイバーの姿が乱れて消えた。


「ドローンに立体映像装置を搭載してホログラムでだますなんてナイスアイデアだったね」


「上手くいってよかったですよ。それもこれもセラムさんの技術のおかげですよ」


「ふっふっふー、そうでしょそうでしょ。もっと褒めてもいいんだよ。」


今回も徹夜仕事をさせてしまったので少し心配だったが、なんとかセラムさんのご機嫌を損ねずにすんだようで何よりだ。


「あ、ヤバい。憲兵隊が爆発音聞きつけてそっちに向かってる。さっさと封印して逃げて」


「何かいつも倒した後って急かされてる気がするんですけどー!」


あわててブランクロザリオに交換してトリガーを引く。


「ブランクロザリオ、ロード、アブソープション。」


 封印が完了して変身を解いてその場を後にしようとしたがヴァルドさんに見つかってしまった。


「おりょ、ユウキじゃねえか、こんなとこでなにしてんだ。今この辺で爆発がなかったか?」


「え、えーと、僕も先生のお使いの帰りに爆発音を聞いてここに来たんで何も見てないです」


 一瞬怪しむような顔になったが、すぐにいつもの気のいいおじさんの顔に戻ってくれた。


「そうか、引き留めて悪かったな。もう遅いから気を付けて帰んだぞ」


「はい、それじゃあ失礼します。」


 なんとかその場を乗り切った僕はそそくさと教会への帰路へとついたのだった。

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