第9話 悪戯 Aパート

「セラムさん、いい加減機嫌を直してくださいよ。」


「直すも何も機嫌悪くなんかないですよー。」


ファストルフとの戦いから一週間、その時にナイトチェイサーを壊してしまって以来、ずっとセラムさんのご機嫌は斜めだ。まあ無理をしてもらって使えるレベルにまで仕上げてもらったナイトチェイサーを壊したんだから無理もないんだけど、そろそろ機嫌を直してもらいたい。


「ほらこれ、アリアさんがクッキー焼いてくれたんで持ってきたんですけどどうですか?」


「そんなもので僕をつろうなんてなんと浅はかもぐ考えもぐもぐ。」


さっきまでこちらを見ずにパソコンを使っていたセラムさんがすごいスピードでこっちに来てクッキーを頬張っている。


「あのデカ胸やはり料理だけでなくお菓子作りの腕も良かったかもぐ。」


皿の上にあった結構な量のクッキーをあっという間に平らげてしまった。


「まあ今回はこのクッキーに免じて許し進ぜよう。」


「ありがたき幸せにございます。」


「あー、そうだ。はいこれ、こないだのオオカミ男を封印したロザリオの浄化が終わったから渡しとく。スピードロザリオ、攻撃用というより身体強化用だね。使うと足がめっちゃ速くなる。」


「相変わらず名前通りの効果ですよね。」


「逆逆、効果を解析してそれから名付けてるんだよ。」


「結構見た目もわかりやすいですよね、それぞれ特徴があって。」


ロザリオにはそれぞれ特徴があって、それぞれ効果を表した意匠が施されている。


「とっさに使うときそのほうが分かりやすくていいでしょ。それとこれもあげる。」


「何ですかこのケース?」


「ロザリオの本数も増えてきたからいつまでもポケットに入れとくわけにもいかないでしょ。だから専用のホルダー作ったげたんだよ、ベルトにつけれるようにしてあるし変身後も腰のとっさに取りやすい位置に来るようにしてあるから。」


「かなり便利になりますね、ありがとうございます。」


「またクッキー焼くようにデカ胸に行っといてね。」


「わかりました。というかいい加減デカ胸じゃなくてちゃんと名前で呼んであげて下さいよ。」


「でかいやつはみんな敵!」


話は終わったとばかりにパソコンに向かい作業を始めた。


「まったくもう。」


今日は先生は用事で街に行っていて遅くなるらしいので言われた自主トレが終わり、教会の手伝いも終わってしまっているのでやることがない。その辺でも散歩しようかと思いながら礼拝堂を出るとちょうど子供たちがやってきた。


「にいちゃーーん!」


こちらに気づいた子供たちがかけよってくる。


「ジャン君ケン君ポンちゃん、今日はどうしたの?」


「ケンのとうちゃんがいい魚捕れたから神父様のとこに持っていけっていうから来たんだ。」


ケン君が持っている籠には立派な魚が入っていた。


「ありがとう三人とも。でもごめんね、今先生は街に行ってるんだよ。」


「なんだよー、入れ違いかー。」


「仕方ないよジャン。」


「そうだみんな、アリアさんが焼いてくれたクッキーがあるから食べる?」


「うん!食べる食べる!」


「ねーちゃんのお菓子うまいもんな。」


「そうだね。僕も頂きます。」


「それじゃあ宿舎に行こうか。」


宿舎に戻るとちょうどアリアさんが洗濯物を干し終えて戻ってきたところだった。


「ねえちゃんこんちわー。」


「あら三人ともいらっしゃい。」


「ケン君のお父さんのお使いで先生に魚を持ってきてくれたんです。せっかく来てくれたのに入れ違いなんでおやつでもと思って。」


「そうだったの、みんなお疲れ様。今クッキーとお茶を用意するからちょっと待っててね。」


この三人と初めて出会ったのはこの世界に来てすぐのこと。僕が初めてゾア帝国の怪人と戦った事件、その時に教会に駆け込んできた子たちがこの三人組だった。いつも三人セットで行動していて性格はバラバラだが馬が合うらしい。おやつを一緒に食べていると話題は街の噂話になった。


「そういやにいちゃん知ってる、ネズミ人間の話。」


「ネズミ人間?聞いたことないけど。」


オオカミ男の次はネズミ人間ときたか。


「最近街で話題になってるんです。夜になると街でいろいろと悪戯をするらしいんです。」


「物を盗んだり家に落書きしたりやりたい放題してるんだって。パパも夜の巡回が増えて大変そう。」


「ポンちゃんのお父さんって憲兵さんなんだ。」


「あれ、勇気さん知らなかったんですか、ポンちゃんのお父様はヴァルドさんですよ。」


「そうだったんですか。」


ポンちゃん、きっとお母さんに似たんだな。話していると宿舎の玄関の扉が開き先生が帰ってきた。


「ただいま。おや、三人とも来てたのかい。」


「父さんががいい魚が捕れたから神父様にって言うので持ってきたんです。」


「おお、それはありがとう。お父さんによろしく言っておいてくれるかい。」


「はい。」


「さて、三人ともそろそろ帰りなさい。日が傾き始めていたからね。」


「もうそんな時間かよー、もっとしゃべってたいのに。」


「仕方がないよ。ごちそうさまでしたアリアさん。」


「ごちそうさまー。」


「僕、三人を送ってきますよ。」


「頼むよ勇気君。そうそう、ちゃんと今日の自主稽古は済ませたのかい?」


「ちゃんとやりましたよ。じゃあ三人とも行こうか。」


三人を街まで送る途中もずっとしゃべりながらゆっくり歩いたのに加えて一番最後に家についたポンちゃんのお父さん、ヴァルドさんに捕まってしまい長話をしたせいで教会への帰路につくころにはすっかり夜になってしまった。


「すっかり遅くなっちゃったなあ、早く帰らないと。」


その時ビチャ、ビチャ、と近くの路地から液体が壁か何かに当たる音が聞こえてきた。路地の方に行ってみると、月明かりがなく暗くてよくわからないが子供くらいの背丈の何かが壁に落書きをしていた。


「おい、そこで何してるんだ!」


「チュ!見つかったか、おいゾアッパ共やっちまえ!」


「ゾアッパーー!」


もしかして街で噂のネズミ人間ってこいつだったのか。ちゃんとブレードをもっていて良かった。鞘からブレードを抜きゾアッパ兵の攻撃を捌きながらチェンジロザリオをブレードにセットしてトリガーを引く。


「変身!」


だいぶ戦いに慣れてきたおかげでいまさらゾアッパ兵程度には後れを取らない。


「こいつ俺らを最近封印して回ってるっていう奴か!ここはひとまず撤退撤退ー。あーばよー。」


「あ、待て。逃げるなー!」


器用に建物の壁を登って屋根を伝って逃げる。追おうとするがゾアッパ兵に阻まれた上にゴブリンがすばしっこいせいであっという間に見えなくなり、逃げられてしまった。


「とりあえずまずはこいつらを倒すしかないか。」


まだ3体程いたゾアッパ兵を倒し、あたりを捜索するがに見つけられず、一旦教会に帰ることにした。

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