第8話 追走 Bパート

教会に戻った僕は早速セラムさんのラボに向かった。


「セラムさん、ナイトチェイサーを使わせて下さい!」


「無理」


 一言でけんもほろろに断られてしまった。だが奴に対抗できそうな手段がこれしか思いつかないのでここで諦めるわけにはいかない。


「お願いします!今度の敵を倒すためにはどうしても必要なんです」


「無理なものは無理。昨日も言ったでしょ、まだ未完成だって」


「でもそこは天才のセラムさんならどうにか.....」


「なりません。ぼくは未完成の物を出すのは大っ嫌いなの。他になんか方法考えてよ」


「そんなこと言われても。とにかく聞いてください」


 おだて作戦は失敗してしまったので、正攻法での説得に切り替える。セラムさんを説得するため怪人の特徴を説明し、どれだけナイトチェイサーが必要かということを僕は力説した。別にただ乗りたいだけとかではない。


「事情は分かったけどまだ完成には程遠い代物だよ。まあでもそこまで言うなら仕方ない。とりあえず一日時間を頂戴、なんとか最低限使えるようにしてみる。」


「ありがとうございます!」

 かなりいやそうな顔をされたが渋々セラムさんは作業を始めてくれた。

 それから一日が過ぎ、僕は隅々に鎧風の意匠がされたスポーツタイプのバイクにまたがって夕陽を背に街道にいた。タイミング良く街道はあまりにもオオカミ男による被害が出たため一時的に封鎖されているので誰かに見られる危険がないのですでに変身済みだ。


「ユウキくん、ナイトチェイサーは完成とは程遠い状態なんだ。ほとんどの機能はオミットしてあるからね。あんまり無理させて壊さないでよ」


 バイクに走る以外に何の機能を搭載する気だったのかものすごく気になる。


「了解です。無理を言ってすいませんでした」


「次こんな無茶言ったらブチ切れるからね」


 通信越しでも分かるほどセラムさんのご機嫌はかなり斜めだ。後で何とか機嫌を取る方法を考えないと。

 ちなみにブレードは運転の邪魔になるので背中に装備してある。磁石でくっつけた様に背中に装備できるようセラムさんが調整してくれたのだ。


「よう騎士様、イイモン乗ってんじゃねーか。自分の足じゃ勝てねえからってそんなもんに頼るなんて情けねえ」


 突然の声に驚きながら声の主を探すと街道から少し外れた所からオオカミ男がゆっくりと歩きながら近づいてきた。


「別に僕はお前みたいに自分の足に自信があるわけじゃないしね。でもコイツは速いよ」


「そいつはいい、今日はスピードを競う相手がいなくて退屈してたんだ。楽しませてもらおうか、このファストルフをなあ!」


 そう言うと同時にファストルフが走り出し、あっという間に加速していく。


「まさかバイクに乗って追いかけっこをする日が来るとはね!」


 入院生活では考えもしなかったことを体験している。ゆるむ頬を引き締め、ナイトチェイサーのアクセルを捻りファストルフを追跡する。

 今回は引き離されることは無く、少しずつだがオオカミ男との距離が縮まっていく。


「ギャハハハ、やるじゃねえか。だがまだ遅え!」


 ファストルフが体勢を低くするとスピードがギアが一つあがったように一段と速くなり、あと少しで追いつけるところだったのにまた少しずつ引き離され始める。アクセルを全開にするがそれでもまだ引き離される。


「ユウキくん、いつまで遊んでんの!モーターに負荷が掛かり過ぎてる、このままじゃオーバーヒートしちゃうよ。さっさとアレ使って作戦開始!」


「耳元で怒鳴らないで下さいよ!分かってますって」


 背中に手をまわして装備したブレードのトリガーを引き、予めセットしておいたロザリオを発動させる。


「ヴァインロザリオ、ロード、サモン、ガントレット」


 先日倒したキヴァインの瘴気を浄化して作られた新たなロザリオの力により左手の籠手が変形し、手の甲の部分に発射口が現れる。


「さあ、お縄についてもらうよ!」


 発射口から蔓が発射されファストルフの足に絡みつく。そのまま急ブレーキをかけ、全力で蔦を引っ張る。


「な、なんだこりゃーーーー、ギャイン!」


 ファストルフはかなりのスピードで走っていたせいもあり盛大にずっこけた。それも顔面からいってしまったので、かなり痛そうだ。

 さて、ここまでは作戦通りだったのだが問題が発生した。そもそも自転車にすら乗ったことがない僕だ。街道まで来るのに乗ってきて多少練習できたとはいえ、急ブレーキをかけたバイクの制御方法など当然分からずバランスを崩した。

 なんとかバイクから飛び降り受け身を取ってすぐに立ち上がる。後ろでナイトチェイサーが盛大にこけた音と耳元でセラムさんの絶叫が響いているが今は気にしないでおこう。


「て、てめえ!卑怯じゃねえか、いくら俺に敵わないからってこんなことしやげて。ガルルルル、ぶっ殺してやる」


「別に僕はお前とスピード勝負がしたかったんじゃないんだ、封印するために追いかけてたんだよ」


 怪人は鋭い牙と爪で襲い掛かってくる。どうやらスピード自慢なのは足だけではないらしく激しい攻撃のラッシュで攻めてくる。


「スピードだけの攻撃なんか効くか!」


 一撃一撃に対した威力は無く、多少のダメージを覚悟で耐えることに専念する。

 耐え続けていると流石に疲労したのか、一瞬攻撃が緩んだ。その隙を見逃さずに反撃に転じるが、大きく後ろに跳躍され躱される。こちらの狙い通りに。


「今だ!」


 再び発射口から蔓を発射して空中にいるファストルフを絡めとりそのまま地面に叩きつける。


「ギャワン!」


 再び地面にキスしたファストルフは悲しい鳴き声を上げた。立ち上がる前にロザリをファイアロザリオに交換してトリガーを2回引く。


「ファイアロザリオ、ロード、エンチャント、ブレイド、チャージ、ファイアファイナルブレイク」


 立ち上がり、爪で切り裂こうと突撃してくるファストルフを炎の長剣が切り裂き吹き飛ばす。


「ギャワーーーン!もっと、もっと走りたかったーーーーー!」


 全身が燃え上がったファストルフは断末魔共に爆発し、爆発した後には瘴気の塊が残っていた。ファイアロザリオをブランクロザリオに交換して封印する。


「ブランクロザリオ、ロード、アブソープション」


 封印が終わり教会に帰るためにこけたナイトチェイサーを起こしてまたがる。だが、アクセルを捻るが全然反応しない。


「セラムさーん、ナイトチェイサー、動かなくなっちゃったんですけどどうしたらいいですか?」


「押してくればいいんじゃない。」


「え、教会まで結構距離があるんですけど。なんとか動かす方法とかって....」


「ない。君がモーターにかなり負担かけてくれた上に乗り捨てた時に完全にモーターが逝っちゃったからねー、どうしようもないよ。あーあ、折角徹夜で仕上げたのに壊してくれちゃってまあ。ありがとね」


「セラムさん、もしかしなくてもめちゃくちゃ怒ってます?というか絶対怒ってますよね。」


「オコッテナイヨー、ゼーンゼンオコッテナイヨー。ガンバッテカエッテキテネー」


 嘘だ、絶対に嘘だ。めちゃくちゃ怒っている。

 そこから教会までは長い長い道のりだった。人に見られるわけにもいかないので迂回に迂回を重ねて帰ったので教会にたどり着いた時にはナイトチェイサーを押しているのか、それとももたれかかっているのかよくわからない状態になっていた。


「ユウキさん大丈夫ですか!フラフラじゃないですか」


「ア、アリアさん、水、水下さい」


 砂漠で遭難して救助された人間のようにアリアさんにもらった水を一気飲みした後、恐る恐るラボにナイトチェイサーを運び込むとニコニコとしたセラムさんが待っていた。


「オカエリー、オツカレサマダッタネ」


「そのう、なんというか本当にすいませんでした」


「アヤマラナクテイインダヨー、ゼンゼンオコッテナイカラ。ハヤクナイトチェイサーオイテデテイケコノヤロー」


「やっぱりめっちゃ怒ってるじゃないですかー!」


 ファストルフを倒すことには成功したがセラムさんの怒りを買ってしまった僕はしばらくの間ご機嫌取りに奔走することになったのだった。

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