第8話 追走 Aパート

「さあて勇気、洗いざらい吐いてもらおうか。」


ヴァルドさんが机越しに髄っと顔を近づけてくる。


「あ、あのー、なんか僕が悪いことしたみたいな感じになってるんですけど。」


「だっはっはっはっは、悪い悪い、ついいつもの癖でな。」


ここは憲兵隊の駐屯所。この世界には警察というものがなく、代わりに憲兵隊が各地の治安維持活動等を行っている。今日は先日の行方不明事件の話を聞きたいとヴァルドさんに呼び出されたのだった。


「んじゃまあ、早速本題に入るんだがお前さんはゾア帝国の怪人を見たんだよなあ。」


「ええまあ、確かに見ましたけど。」


「で、その怪人はどうなったんだ?俺たちがアリアちゃんに案内されて駆け付けた時にはへたり込んでるお前さんと変な焦げ跡しかなかったんだが。」


「それはそのう、急にどこからか鎧を着た騎士みたいな人が現れて倒していったんですよ。」


正体がバレないようにあくまで他人事のように話さないと。


「なんだか嘘みてえな話だがまあ実際お前さんは無傷で助かってるし、怪人がその騎士様に脅されて話したっていう場所に行方不明だった奴らもいた訳だし信じるしかないわなあ。」


ヴァルドさんが僕の話を聞いて頭を掻きながらうなっていると、扉がノックされる、


「分隊長、少しいいですか?」


「ああ、いいぞ。勇気、ちょっと席を外させてもらうな。」


「はい、どうぞ。」


ヴァルドさんが部屋の外に出ていき、手持ち無沙汰になってしまった僕はつい漏れてくる声に耳を傾けてしまう。


「また馬車が襲われたのか。一体これで何件目だよ。」


「10件目です。今回も目撃情報によると襲ってきたのはオオカミ男だそうですよ。」


「前ならオオカミの面でも被ったやつだろうと笑い飛ばしただろうがゾア帝国の怪人が復活したってのが本当の可能性が出てきた今なら信じるしかなさそうだな。とりあえず巡回増やして対応するしかないな。」


「わかりました。すぐに手配してきます。」


「頼むな。」


扉が開きヴァルドさんが戻ってきた。


「待たせたな、とりあえず今日はありがとな、帰ってもらっていいぞ。」


「また何か事件があったんですか?」


「まあなあ、今度は街道で荷馬車やら旅人やらがオオカミ男に襲われてるってんだよ。」


「オオカミ男?それってまたゾア帝国の怪人じゃないんですか。」


「たぶんなあ、とはいえ俺たちが駆け付ける前に襲撃は終わっちまってていつも逃げられちまうんだ。なんでも全速力で走る馬車に追いつくくらい足が速いらしいんだ。」


「そんなに早いんですか、そんなの捕まえようがないですね。」


「ほんとだよ、なんとか捕まえる方法を考えねえと。」


「頑張ってください、じゃあ僕はこの辺で失礼しますね。」


「おう、またな。」


駐屯所をでた僕は街に行くならついでにとアリアさんに頼まれた買い物を済ませて教会へと帰った。


「ただいま戻りました。」


「おかえり、勇気君。どうだったかねヴァルドの事情聴取は、うまくごまかせたかい?」


「まあなんとか僕の正体には気づかれてないと思います。」


「それはなにより。」


「勇気さんおかえりなさい。」


「ただいまです。これ、頼まれてたものです。」


「ありがとうございます。もうすぐお昼ができるんでちょっと待っててくださいね。」


昼食後、僕はラボへと向かった。


「セラムさん、またドローンでの監視をおねがいしたいんですどー、セラムさーん、いないんですかー。」


「こっちこっちー。」


ブレードを整備したりする工作室から声が聞こえてくる。


「今度は何を作ってるんですか。」


「ヒーローに必要なもの。まだ未完成だけど特別公開!」


工作室に入るとそこにはまだ明らかに未完成だが、特撮ヒーローに憧れた者なら誰もが一度は乗りたいと思うであろう乗り物、バイクがあった。


「この子の名前はナイトチェイサー、この世界じゃガソリンなんて手に入らないから私特製のモーターを搭載したバイクなんだ。今までいちいち現場まで徒歩移動だったでしょ、それじゃあ怪人に逃げられる可能性があるからねえ。」


「あのー、完成はいつごろですか?」


「おやおやー、乗りたくて乗りたくて仕方ない感じかなあ、この欲しがり屋さんめー。」


そんなに物欲しそうな顔してたのか。でも確かに乗りたくて仕方がない。だって子供のころから憧れていた物が目の前にあるんだもの。


「まあまだこれが完成するまでもうちょっとかかるかなあ、モーターもまだ試作段階だから出力も安定しないし、まあ楽しみに待っといて。で、なんか用があったの?」


「今度は街道でゾア帝国の怪人が出たみたいなんです。」


「それでまたドローンの出番ってわけね、りょーかい。他になんか情報ある?」


「怪人はオオカミ男みたいな外見で、馬車や旅人を襲ってるらしいです。」


「オッケー。じゃあ飛ばしとくよ。」


「お願いします。」


ラボを後にした僕はようやく腰の痛みが治まり、動けるようになった先生に日課の稽古をつけもらい、夕食後眠りについた。

翌朝、街道での怪人の目撃情報が気になった僕はアリアさんに頼んで街道まで案内してもらい、何か怪人の痕跡がないか捜索を始めた。しかし町から少し離れた所を少し調べたくらいでは何も見つけられず、今日はもう教会に戻ろうかという話をしていると前方から猛スピードで馬車が走ってきた。


「ど、どいてくれーーーーー!」


馬車はこちらに気づいたようだが減速するする様子はなく、慌てて僕たちは馬車の動線上から避ける。


「あんなに慌ててどうしたんだろ。」


疑問の答えは馬車が通り過ぎた後にすぎにまた猛スピードで通り過ぎた灰色の風が教えてくれた。


「オオカミ男!今の見ましたアリアさん。」


「え、ええ。間違いなくオオカミ男でした。って、勇気さん早く追いかけないと。」


驚いて固まっていた僕はアリアさんに急かされて慌てて変身して追いかける。


「ま、待てええええ!」


全速力で走るが全くオオカミ男との距離は縮まらず、むしろ引き離されて行く。オオカミ男はこちらに気づいて馬車を追うのを止め煽ってくる。


「おいおいノロマな騎士さんよお、お前が最近俺らの仲間を封印してるっていうヤローだな。でもその程度の足で俺を封印できると思うなら追いかけてきな!」


今度は馬車とは反対の方向、つまり僕が走ってきた方に走り出した。すれ違いざまに攻撃しようとするが躱されてしまったのでまた必死に追いかける。途中僕を追いかけてきたアリアさんとすれ違ったが事情を説明する暇もなかったためそのまま追跡を続行した。オオカミ男は馬車を追っている時よりもスピードが出ていてあっという間に見えなくなってしまった。


「はあはあ、早すぎる。人型なのに本物のオオカミより早くないかあれ。」


「勇気さーん。どうでしたか?」


置いてきぼりにしてしまったアリアさんが追い付いてきた。


「ダメですね、速すぎてとてもじゃないけど追いつけないですよ。」


「私馬より速い生き物速い生き物初めてみました。」


「僕の足じゃ追いつけない。こんなに早く使うことになるとは思わなかったけどアレの出番かな。」


「勇気さん、怪人が出たのになに嬉しそうにしてるんですか。」


「そ、そんなこないですよ。そもそも変身解いてないから顔見えてないからわからないでしょ。」


「声でわかりますよ。」


声に出るほど喜んでたのか。非常事態なんだから自重しないと。その後辺りをしばらく捜索したがオオカミ男は見つからず、一旦教会に戻ることにした。

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