第7話 木蔦 Bパート

 拠点に着くとヴァルドさん達が捜索に出発するところだった。


「おはようございますヴァルドさん。」


「おう、おはよう。今日も手伝いに来てくれたのかい。」


「はい、そうなんです。今日は僕も山の捜索に参加しても良いですか?」


「そいつは助かるがお前さんこの山のこと知らねえだろ、ちょいと危ないと思うんだが。」


 ヴァルドさんの言う通り、確かに山の素人がいきなり山に入るのは危険だ。下手をすれば捜索隊として山に入ったのに捜索される側になるかもしれない。


「だったら私がついて行きますよ。私だったら山菜を取ったりするのによく登ってますから大体のことはわりますから。」


「まあそれだったら良いか、ちょうど今日は二人一組で捜索範囲を広げる予定だったしな。」


「アリアさん、すみません巻き込んでしまって。」


「いえ、私も早く行方不明の方たちを見つけてあげたいですから。さすがにこの服では山に入れませんからヴァルドさん、服をお借りできませんか?」


 元々拠点での手伝いだけの予定だったので今日もアリアさんは修道服だった。


「おう、ちょっと待ってな。確か制服の予備がどっかにあったはずだ。」


 アリアさんが憲兵隊の制服に着替えるのを待って予定通り二人一組に分かれて捜索を開始した。


「でもおかしいですよね、昨日かなりの規模の捜索が行われたのに手掛かり一つ見つからないなんて。」


「ええ、それもかなりの人数が行方不明のままなんて。この山でこんなことが起きたのは初めてです。」


「長年山に入っている人まで行方不明ってことはやっぱりゾア帝国の仕業としか思えないですね。」


「誰かーー!助けてくれーーー!木が、木が襲ってくるーーーーー!」


「今悲鳴が聞こえましたよね!」


「ユウキさん、たぶんこっちです!」


 悲鳴の上がった方に駆け出すと、後ろからドローーンが飛んできた。


「ユウキくん、こっちで悲鳴の出所がわかったから端末に位置情報送っといた!」


 端末に連絡が入り、地図機能を起動すると悲鳴の出所までのルートが表示されていた。ルート通りに進むと、山の中腹の少し開けたところにでた。


「キッキッキッキッキ、さあわし達の為に来てもらおうか。」


 捜索隊に加わってくれていた二人の猟師が木の蔓でぐるぐる巻きにされて、抵抗するものの、じわじわと全身に蔦が巻き付いたような木の怪人に引き寄せられていた。


「今助けます!」


 腰に付けた鞘からブレードを抜き蔓を切断する。


「早く逃げてください!」


「お二人ともこちらです。」


 アリアさんが二人を避難誘導してくれた。これで回りを気にせず変身できる。


「折角の獲物を逃がしおって、貴様は何者だ!」


「お前たちを封印するものだ、変身!」


 スーツ、鎧が装着され戦うための姿に変わる。


「そうか、お前が最近わし達を封印しているとかいう騎士か。ちょうど良い、ゾア帝国の為お前を倒さしてもらおう。」


 言い終わるやいなや腕をこちらに向けて蔓を伸ばしてくる。体に絡みつこうとしてくる蔓を躱しながら蔓を切断するが切断した箇所からすぐに生えてくる。


「なんだこれ、切っても切っても伸びてくる!」


「ほれほれ、いくら切ろうが無駄じゃ。わしの蔓はいくらでも再生できる。さっさと簀巻きになってしまえ!」


 それぞれの腕から一本ずつ伸びていた蔓がさらに一本ずつ増える。


「無限に再生する上に本数が増えられたら捌き切れない!」


 なんとか再生を防ぐ方法を考えないと。切っても切っても再生するというのなら今朝セラムさんにもらったアレを使って切断面を焼いてしまえば…

 迫ってくる蔓を切断しながら後ろに飛び距離を空ける。再生しながら蔓が追いかけてくるがある程度のところでそれ以上伸びずに追いかけてこなかった。伸びる距離には限界があるようだ。この隙に右のスロットを開きファイアロザリオセットする。


「ファイアロザリオ、ロード、エンチャント、ブレイド。」


 ブレードの刀身の色が赤く変わり、高温の炎を帯びて燃え上がる。


「火、火だと!そんなものき、効くわけがないだろう!」


 強がっていてもめちゃくちゃ動揺している。やはり木がベースの怪人だから火が弱点という読みは当たっていそうだ。

 怪人が距離を詰めながら再び蔓を伸ばして攻撃してくる。再び蔓を炎を帯びたブレードで切断すると切断面が燃え上がり、再生する気配がない。


「わ、わしの蔓があああああああ!くそ、くそ、くそーーーーー!」


 蔓が再生できず動揺した怪人はを鞭のように振り回して攻撃してくる。


「さあて、キャンプファイヤーの始まりだ!」


 振り回してくる蔓を燃えるブレードで次々に輪切りにしていく。


「火が、火が、火がどんどん迫ってくるーーー、く、来るなーーーー!」


 完全に恐怖心に負けた怪人は後ろに後退り始める。だが、ここで逃がすわけにはいかない。一気に距離を詰めて怪人の腕から生える蔓を根元から断つ。


「ギ、ギエエエエ!やめろ、それ以上火を近づけるな!」

 

 すっかり怯えきり、腰を抜かしてしまった怪人に燃えるブレードを突きつける。


「だったら行方不明になっている人たちのことを教えろ、犯人はお前だろう。」


「そ、そうだ。わしが攫って山の中腹にある洞窟に監禁している。暗い所に閉じ込めておくだけで面白いように瘴気を吐き出してくれるからなあ。」


「大事な情報を簡単にしゃべってくれるお前はおもしろくないけどねぇ。」


 どこからか妖艶な声が響いてくる。あたりを見回すが声の主を発見することができない。


「そ、その声はアラムグゥ!」


 怪人の声を遮るようにどこからか飛んできた糸が怪人の口を塞ぐ。新手の敵の出現に驚いた僕は怪人から少し距離を取る。


「だからペラペラしゃべらないの。今日はキヴァイン、あんたの様子を見に来たのに負けそうになってるなんて情けない。」


「ムゴムゴ、ブハ、ち、違う、負けてないまだ負けてないんだ。」

 

 糸を慌てて外したキヴァインが言い訳を始める。


「そ、じゃあせいぜいがんばなさいな。」


「え、手伝ってはくれんのか。」


「なんでそんな面倒なことしないといけないの。言ったでしょうあんたの様子をみにきただけだって。だから私は見てるだけ。」


「そ、そんなあ、こ、こうなったらやってやるーーーーー!」


 淡い期待を打ち砕かれ、キヴァインが破れかぶれになってこちらに突進してくる。


「こっちもこれで決める!」


 トリガーを引き必殺技を発動させる。


「チャージ、ファイアファイナルブレイク。」


 ブレードの刀身に宿った炎がさらに激しく燃え上がり、刀身の長さが延長されたようにすら見え、正に炎の長剣だ。


「ウォオオオオオオオオオ!」


 炎の長剣がキヴァインを袈裟切りにし、切り傷が激しく燃え上がり、キヴァインの全身が炎につ包まれる。


「火、火がぜ、全身にーーー!ギョヘーーーー!」


 断末魔を叫びながらキヴァインの体が燃え尽き、残ったのは瘴気の塊だけだった。


「あららー、負けちゃったのね。強いのね騎士様。それじゃあ今日はここで失礼するわね、また会いましょうね。」


「待て!お前は何者なんだ!」


 叫んでみるが答えが返ってくることはなかった。


「逃げられちゃったか。それにしてもファイアロザリオ、ものすごい火力だな、気を付けて使わないと怪人以外も燃やしてしまうかもしれないから使いどころは考えないと。さてと、早く封印して攫われた人を助けに行かないと。」


 辺りでくすぶっている火はドローンが消火して回ってくれている。


「ユウキくん、ヤバいよ。デカ胸がそっちに捜索隊連れて戻ってる。さっさと封印して変身とかないと正体ばれちゃう。急いで!」


「わ、わかりました!」


 セラムさんに急かされ、わたわたとブランクロザリオをセットして瘴気の塊を封印する。


「ブランクロザリオ、ロード、アブソープション。」


「ユウキさん、大丈夫ですか!」


「だ、大丈夫です。それよりも攫われた人は山の中腹の洞窟に捕まってるらしいです。」


 ギリギリで変身を解き、ブレードを鞘に収めることに成功する。


「ユウキ、そいつは本当かい、てかなんで分かったんだ?」


「か、怪人が言ってたんですよ。」


「その怪人はどこ行ったんだ!」


「そ、そんなことより早く救助に行かないと。」


「それもそうだが、ええい仕方ない、話は後だ。これから救助に向かうぞ!」


 我ながらごまかし方が下手すぎるな。

 その後、行方不明の人たちは怪人の言った通りの場所に向かったヴァルドさん達捜索隊に無事保護され、行方不明事件は解決したのだった。


 時は少しさかのぼり、シールセイバーがキヴァインを封印した直後。


「フフフ、たかが人間に負けるなんてなっさけなーい。でもゾアッパ兵の言う通りあの剣はちょーっと厄介ねえ。まあいいわ、今日は様子見のつもりだったし帰るとしましょ。」


 木の上にいた黒影はそう呟きながら一陣の風と共に消え去った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る