第7話 木蔦 Aパート

早朝、宿舎のドアをノックする音が聞こえる。


「ユウキさん、今手が離せないのででてくれませんかー」


「はーい。わかりました」


 厨房で朝食を作っていたアリアさんに頼まれたのでテーブルに食器を並べるのを中断して玄関に向かう。ドアを開けるとヴァルドさんが立っていた。


「おう、おはようユウキ。神父様はいるかい?」


「おはようございますヴァルドさん。先生なら中にいますよ。」


「私がどうかしたのかい?」


 玄関での話が聞こえたらしく、先生が出てきてくれた。


「おはようございます、神父様。実は炊き出しの道具とかもろもろ一式お借りしたいんですよ」


「それは構わないが、何かあったのかね?」


「実は昨日から山に入った木こりやら猟師やらが返ってこないんですわ。それも結構な人数が返ってこないもんで憲兵隊だけじゃなく山に詳しい街の人間にも手伝ってもらって大規模な捜索隊を出すんです。それで何ヵ所か森の近くに拠点を作るんですが駐屯所にあるだけじゃ足りないん一式お借りしに来たって訳なんです」


「ああ、もちろん構わないよ。君も忙しいだろう、後で届けるから場所だけ教えてくれるかい」


「助かります、場所はちょうど教会から山に向かって真っすぐ行ったところで設営をしてるんですぐわかると思います。じゃあ、お願いします」


「ああ、わかったよ」


「先生、うちに炊き出しの道具とかってあるんですか?」


「ああ、そうかユウキ君は知らなかったね。うちは町から離れているだろう。だから火事や地震で街から避難しなければいけない時に避難所代わりとして使えるように色々と用意してあるんだよ」


「へー、そうなんですね」


 確かにここは街から離れている上に高台だ。避難所としてはうってつけの場所なのだろう。


「朝食を食べたらみんなで手伝いに行くとしようか」


「はい、先生」


 朝食をとった後、早速倉庫で必要なものをまとめて運ぶ準備をした。


「先生、大鍋持つのを手伝いますよ」


「これがぐらい大丈夫だよ。よっこいハグオォ!」


 大鍋を持とうとした瞬間先生の腰からすごい音がした。


「せ、先生大丈夫ですが?」


「ほっほっほ、大丈夫と言いたいところだが一歩も動けんのだがどうしよう」


 それは僕に聞かれても困る。


「もう神父様、無理しちゃダメですよ。ユウキさん、私神父様をベッドまで運んで来ますから鍋、お願いしますね。」


「分かりました。先生を運ぶのを手伝いますよ」


「荷物の準備を急いだほうが良いですし私一人で大丈夫ですよ。」


そう言ってアリアさんは米俵を担ぐように先生を担いだ。


「ア、アリア!もっと優しく運んでくれ。」


「はいはい、年甲斐もなく無茶する人には良い薬ですよ。この前痛めた時に次からは気をつけるようお医者様にも言われたのになにやってるんですかもう。」


「いや、まああれぐらいならまだまだ行けるとだな」


 言い訳する先生を担ぎながらアリアさんは宿舎の方へと向かった。


「と、とりあえず準備の残りを片付けないと」


アリアさんが戻ってくる頃にはの作りを終えたので出発した。結構な量な荷物だったのだがアリアは軽々と持っていた。


「アリアさん、結構力持ちなんですね。」


「そんな自覚は無いんですけどね、皆さんによく言われます。別にユウキさんみたいに鍛えている訳でも無いんですよね。」


「生まれ持ってのってことですね。そういえばアリアさんの家族の話って聞いたことなかったですけどどんな方なんですか?」


「実は私もユウキさんと同じ、というとおかしいですけど記憶が無いんですよ」


「え!そうだったんですか。」


「自分のことが名前すら分からなくて、それどころか神父様に保護、というか教会に食べ物を盗みに入って捕まるまでどうやって生きてきたのかもよくわからないんです。保護されたばかりの頃はまるで野生の獣のようにだったらしくて言葉も話せなかったみたいなんです。」


なんだか今の物腰柔らかなアリアさんからは想像できないな。


「だから私の記憶ではっきり思い出せることは教会に来てしばらく経ってからのものしかないんです。」


「無神経なこと聞いてしまってすいません。」


「いえ、大丈夫です。ユウキさんとは同じ屋根の下に住んでいる家族みたいなものなんですから。折を見て話そうと思っていましたから」


「おーい、こっちだこっち!」


憲兵隊の制服を着た人達とヴァルドさんが

こちらに手を振っている。


「どうやら設営地についたようですね」


「アリアちゃん、ユウキ、お疲れさん。神父様はどうしたんだい?」


「大鍋を持ち上げようとしてまた腰を痛めてしまったんです」


「最近調子良さそうだったのに、何だか悪いことしちまったなあ」


「良いんですよ。自分の腰と歳を考えずに動く癖をいい加減直して貰わないと」


「ははは、ちげえねえや」


「とりあえず設営のお手伝いもしますね」


「いやあ、何から何まで助かるよ」


 設営が完了し、アリアさんが炊き出し用のシチューの調理が終わってから僕たちは教会への帰路へとついた。


「ユウキさんは明日はどうしますか?私はまた炊き出しのお手伝いに行こうかと思ってるんですが」


「僕も一緒に行きます。もしかしたらゾア帝国が関わってるかもしれないですし」



「確かに、初めてあの山に入った人ならともかく毎日行っている人達まで行方不明になっているのはおかしいですね」


「明日朝一番でセラムさんのところに行ってから行くので先に行っていてください」


「わかりました」


そうこうしているうちに教会に着くと宿舎の入り口で杖を突いた先生が待っていた。


「どうだった二人とも、行方不明の人達は見つかったかい?」


「ダメでした。明日もアリアさんと僕は手伝いに行こうと思うんですけど良いですか?」


「もちろん構わんよ。それならこれを持っていくといい、実は今朝渡そうと思っていたんだがね」


そういって先生は剣の鞘を渡してくれた。


「今朝道具を探すのに倉庫を少し片づけたろう、その時に私が昔使っていた物が出てきたんだよ。いつまでも布で覆って持ち歩くのも不便だろう。」


 普段僕は目立ちすぎるプレアーブレードを布で覆って持ち運んでいた。でも正直それはそれで目立つし、持ち運びづらい。


「ありがとうございます、先生。」


「ほっほっほ、構わんさ。さあ今日は特別に稽古は無しで良い、ゆっくりと休みなさい」


「特別に無し、じゃなくてできないんでしょう神父様。今立っているのもやっとなんでしょう本当は。さあ早くベッドに戻りますよ」


「い、いやあもうそんなに痛みは無いんだよ」


「はいはい、無理をしちゃだめですよ」


 アリアさんにまた米俵のように先生が運ばれていった。


 翌日、アリアさんは朝早くに出発し、僕はセラムさんのラボに向かった。


「おはようございます、セラムさん」


「ふご!ああ、勇気くんかあ、おはよ」


「またパソコンで作業しながら寝落ちしてたんですか?体に悪いですよ」


 朝ラボを訪ねると高確率でパソコンのキーボードに顔を突っ伏したまま寝ているセラムさんを見つける。それだけ仕事をしてくれていると感謝したいところだが、たまにゲームがモニターに映っていることがあるので、なんとも言えない。


「これぐらい平気平気。で、どうしたの?」


「それが山で原因不明の行方不明が起こっているんです。もしかしたらゾア帝国の仕業かもしれないのでまたドローンでの捜索をお願いしたいんです」


「オッケー、前より数がそろってるからすぐに向かわせとく」


「お願いします。あと何か捜索に使えそうなものありませんか?」


「そんな急に言われても困るんだけど。とりあえず前に渡した通信用の端末貸して。」


懐から端末を取り出してセラムさんに渡すとパソコンに接続してキーボードを叩き出した。


「とりあえずドローン使って収集した情報で山をマッピングしたのをこれで見れるようにしとくから」


「ありがとうございます」


「ほい、終了っと。後これ、今回は忘れないうちに渡しとくね。」


 端末と一緒に新しいロザリオを渡された。


「それはファイアロザリオ、ざっくり言うと火属性の攻撃ができるようになるから。」


「いやいや、ざっくりしすぎですよ。もっと具体的に教えてくださいよ」


「そんなこと言われてもそのまんまなんだもん。ブレードの刀身に火が宿って焼き切れるとかそんな感じなんだもん」


「本当にそのまんまなんですね」


「でしょ。はい、じゃあ説明終了。行った行った」


セラムさんに追い立てられるようにラボから追い出された僕はアリアさんの後追って捜索拠点に向かった。

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