第6話 火炎 Aパート
先生との稽古が始まってから早一週間。少しは体力がついたようで、今までは朝ベッドから起き上がり動こうとすると、激しい筋肉痛のせいで生まれたての小鹿状態だったのだがだ、少しはまともに動けるようになった。
幸いにもその間はゾア帝国が現れず、平穏な時間が過ぎていた。
「ユウキさん、買い出しを手伝ってくれませんか?今日は町の方で週に一度中央広場に市が立つんです。日用品や食料品を色々と買いだめたいので荷物が多くなってしまうのでお願いします。」
「荷物持ちですね、わかりました。せっかくだからセラムさんを誘いませんか?たまにはラボから外に連れ出さないと体に悪そうですし」
「そういえば礼拝堂に地下室ができて以来一度も外に出られたようがありませんね。ぜひそうしましょう」
ラボが完成して以来、何度か外に連れ出そうとしたことがるのだが、一度も外でたことがないのだ。
自分で言っておきながらあの天使様が緊急事態でもないのにラボから出ることはまずないと思うけどやるだけやってみよう。
「やだ!日光なんかに当たったら溶ける」
「雪じゃないんだから何言ってるんですか。たまには日光浴びないと体に悪いですよ」
「天使にそんなもんいらん」
天使が光を拒絶するのはおかしい気がする。最近この天使様は本当に天使なのか疑いを持ち始めている。
「セラム様、そう仰られずに...」
「うるさいデカ胸」
「はう!そんなに嫌わないで下さいよう」
瞳を潤ませるアリアさんをしり目にパソコンに目線を戻すセラムさん。何か作業しているのかと思ったのだが、モニターをよく見るとゲームをしてる。
「アリアさん、あきらめましょう。梃子でも動く気ないですよこの天使様」
「うぅ、わかりました。セラム様失礼します」
「おいしそうなお菓子あったらよろしくー」
ちゃっかりお菓子のお土産を要求されたがスルーする。
気を取り直して買い物に向かったのは教会立っている浜辺の丘から少し離れた街、ラグナ。アリアさんに教えてもらった話によるとこの街はサティエル王国という国の南部にある町で、古くから海路の交易の要所として栄えた街らしい。
ゾア帝国の襲来後、一時は人の流れがなくなり少しさびれてしまったそうだが、時がたち人々からゾア帝国の恐怖の記憶が薄れるのとともに天使が降臨した土地としてすっかり観光地としてかつての賑わいを取り戻したらしい。
交易も再開され、各地の様々な物資や商人が集まるため、週に一度中央広場で大きな市場が開かれるようになったそうだ。
「すごい賑わいですね」
「そうでしょう、食料品から日用品、交易で集まった各地の特産品なんかもあったりするので他の街なんかからも結構来られる方が多いんですよ」
市場にでている屋台では今日の朝水揚げされたばかりという海産物や、カラフルな野菜に瑞々しいフルーツが山盛りで売られている。衣類や雑貨、アクセサリーなんかを扱う店もあり、確かにここに来れば大体の物が揃えられそうだ。
「せっかくですから色々見て回りながら買い物しましょうか」
「え!いいんですか」
「ふふ、神父様にも稽古の息抜きをさせてあげなさいと言われてますし」
「先生がそんなことを。では遠慮なく羽を伸ばさせてもらいます」
先生はこういう飴と鞭の使い方が本当に上手いと思う。なので今日は思いっきり楽しんで、その後に来る地獄については考えないようにしよう。
「楽しみすぎて買い出しが目的だってこと忘れないでくださいね。」
浮かれすぎているのをみやぶられたか。少し落ち着こう。
一通り必要なものを買い終わり、買い物客の休憩用に設置されているベンチで休んでいると憲兵隊、この世界における警察組織のようなものの制服を着た男が話しかけてきた。
「ようアリアちゃん、今日は買い物かい?」
「こんにちはヴァルドさん、そうなんですよ」
「そいつはお疲れさんだな。ところで隣のあんちゃんはだれだい?」
「初めまして、勇気といいます。先日から神父見習いとしてエレンドル神父様の下で学ばせてもらっているんです」
「ほう、若いのに偉いな。出身はどこなんだ?」
「それが記憶喪失で名前以外何も思い出せないんです。それで困っていたところを神父様に拾われて神父見習いとして教会に置いてもらってるんです」
神父見習い、この世界での僕の身分だ。この世界で神父になるにはいくつかの方法があるらしい。その一つが神父見習いとして現役の神父の下で修業する方法だ。
先生に女神からの使命を帯びてこの世界に転生したなんて話をすると色々と厄介ごとに巻き込まれる可能性があるので絶対に他人にしないように言われた。
なので人に身分を聞かれた場合は、自分は記憶喪失で名前以外思い出せず困っていたところを先生に拾われて神父見習いとして教会で暮らしていると答えることになった。記憶喪失というこにしておけばこの世界の常識に疎いことにも多少のごまかしが効くだろうという訳だ。
「そいつは大変だったな。俺の名前はヴァルド、この街の憲兵をやってるもんだ。よろしくな」
「こちらこそよろしくお願いします」
「ヴァルドさんは見回り中ですか?」
「そうなんだよ。最近ゾア帝国がでたって話で見回りの数を増やしてんだよ。まあまだ実際憲兵隊の誰も見てねえから本当に出たのかは怪しんだけどな。おまけに街のあちこちで不審火が相次いでやがるから大変なんだよ」
毎日毎日残業や夜警で碌に家に帰ることが出来ず、愛娘の顔もロクに見れていないと愚痴が止まらない。
「そんな訳でもうてんてこまいさ。おっと、長話しちまったな、そろそろ見回りに戻らねーと。じゃあまたな」
足早に手を振りながらヴァルドさんが立ち去っていく。
「では私たちも教会に帰りましょうか」
「そうですね」
教会に着き、荷物を運び終えると僕は礼拝堂の地下のセラムさんのラボに向かった。
「セラムさん、ちょっとお願いしたいことがあるんですけど」
「ん、なにー?」
作業場でプレアーブレードの整備をしていたセラムさんが気の抜けた返事を返してきた。
「こないだタートスチールを見つけたドローンで街の方を監視出来ませんか?」
「それはちょっときついかなー。この世界じゃドローンなんてオーバーテクノロジーすぎるじゃん。だから誰かに見られたらめんどくさいことになりそうだからステルス機能搭載型を飛ばしてるんだけど、作るのにちょっと時間かかるからあんまりまだ数がないだよ。だから街全体をカバーできないよ。」
「結構すごいドローンなんですね」
「ボクが作ってるんだから当たり前でしょ。てか監視って一体何を探すの?」
僕はヴァルドさんから聞いた不審火について話した。不審火自体はたいして不思議な事件じゃないけど何か気になったのだ。
「まあ一応飛ばせるだけ飛ばしとくよ。」
「お願いします」
それから数日が経ち、日課の稽古をしているとセラムさんに持たされた携帯用の通信端末にに連絡が入った。
「ユウキくん、君の勘大当たりだよ!不審火事件はゾア帝国の仕業だった。火を着けた怪人は今街から離れて山の方へ向かってる。ドローンに先導させるから逃げられる前に早く!ゴーーー!」
「は、はい!」
慌てて近くに置いてあったブレードをひっつかんでドローンの後を追う。
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