第4話 鉄甲 Aパート
僕とセラムさんが教会を拠点に活動するようになってから2日程がたった。
最初はアリアさんには客人としてくつろいでいてほしいと言われたのだけど、それでは居心地が悪いので家事を手伝わせてもらっている。
「アリアさーん、洗濯物干し終わりました」
「お疲れさまでした、ユウキさん。少し休んだ後でいいので水汲みをお願いしますね」
「分かりました」
洗濯を終え一息ついていると、宿舎の玄関の方から扉をノックする音が聞こえる。
「アリアーー、私だ、今帰ったよ。荷物が多いから取りに来てくれないかー」
「はーい」
アリアさんが玄関の方に駆け出した。
「僕も手伝います」
慌ててアリアさんに付いていく。玄関には奇麗なロマンスグレーの神をオールバック整え、白い口ひげを蓄えた初老の大柄なカソックを来た男性が立っていた。
「いやー、ちょうど市場が開いていたので少し買いすぎてしまったよ。ん?彼は誰だい?」
「それが遂にシルフィーア様からの使いの方がいらっしゃったんです!」
「初めまして。勇気、六代勇気といいます。」
「これはどうも、私はエレンドル。この教会の神父を務めている者です」
「神父様、実は天使様も降臨されたのです!」
「なんと!再び天使様をこの目で見ることができるとは!」
正直そんなに驚くほどの天使じゃない気がするんだよなー。というか、再びってことは過去にも天使を見たことがあるってことなんじゃ!
「今、再びって仰られましたけど、過去にも天使を見たことがあるってことですか?」
「ええ、あれは30年程前の話になるのですが.....」
「神父様、その話はいつも長くなるんですから玄関で立ち話もなんですし、先に荷物を運んでから居間の方へどうぞ、私お茶いれますから。」
「おっとこれはすまん、そうするよ」
荷物を運び終えた後、アリアさんが淹れてくれたお茶を飲みながらエレンドル神父の話を聞くことになった。
「では改めて、あれは30年程前、まだ私がこの国の軍の前線に立っていた頃の話です。」
「エレンドルさん軍人だったんですか?」
「神父様すごいんですよ。この国で5本の指に入る剣の使い手で何度も陛下から表彰されてるんですよ」
「すごいですね!」
「ホッホッホ、アリア、年寄りをそんなに持ち上げるものじゃあないよ」
どおりでエレンドルさん、高齢に見えるが良い体している訳だ。
「さて、話を戻すとしましょうか。30年前、
このラグナの町に化物が現るという事件がありました。」
それってもしかしなくてもゾア帝国の怪人たちなのだろう。
「奴らはゾア帝国と名乗り、破壊の限りを尽くしました。我々軍が出動し、戦いましたが全く歯が立ちませんでした。」
確かに天使ですら苦戦する相手にただの人間じゃ歯が立つ訳がない。
「いよいよ終わりか、そう思ったとき、奇跡は起きたのです。空から女神様が遣わされた天使様の軍が現れたのです」
天使の軍勢、シルフィーア様が送ったっていうヴァルキリーズのことか。
「ゾア帝国と天使様達の戦いは熾烈を極め、私達はただ見ていることしか出来ませんでした。」
「そんなにすごい戦いだったんですね。」
「ええ、天使様達が傷ついていくのをただ見ているしかないというのはとても辛く、己の無力さを恨みました。しかし天使様達は傷つきながらも最後の力を振り絞り、この街の近海にある無人島に奴らを封印してくださったのです」
これが30年前にあったヴァルキリーズとゾア帝国の戦いの詳細なのか。実際に見た人の話を聞けたのは良かった。
「戦いのことを詳しくシルフィーア様から聞いていなかったので、お話を聞けてよかったです、ありがとうございます。」
「ホッホッホ、こちらこそ年寄りの長話に付き合ってもらって感謝しますぞ」
「神父様ったら初めて会った人には必ずこの話をするんですよ。私はもう暗唱できるくらい聞きましたよ」
お茶のお代わりを注いででくれたアリアさんの顔は少しあきれた表情をしだった。
「年寄りの楽しみなんて昔話をする位なんだから許しておくれ、アリア。しかし君達が無事でよかったよ。あの恐ろしい化け物たちが復活するとは夢にも思っていなかったからね。ユウキ君、アリアを助けてくれ本当にありがとう」
「いえ、そんな。僕はそのためにこの世界に転生したんですから」
「私からも改めてお礼を言わせてください、ありがとうございました。そうだ!これからセラム様に神父様を紹介しに行きませんか、ユウキさん」
「そうですね、行きましょう」
「生きているうちに再び天使様に会えるとは、なんという幸運だろう」
そんなにありがたがる程の天使様ではないと思うのだが。今は天使のアイデンティティーも仕舞っているから見た目はただの子供だし。
「だ、誰ですかーーーー!このナイスミドルはーーーー!」
またセラムさんが僕の後ろに隠れて絶叫している。やっぱりこうなったか。服の裾をぎゅっと握って引っ張るのは服が伸びそうなのでやめてほしいのだが。
「初めましてセラム様、私はこの教会の神父を務めております、エレンドルといいます。」
礼拝堂のエレベーターやこの地下のラボを見てもあまり驚かないとは凄い人だ。
「しかしセラム様は30年前に見た天使様たちとは雰囲気いささか違いますな。」
「あんな脳筋達と一緒にするなーーー!」
まあそれはそうだろう、戦闘担当と開発担当じゃ体育会系と理系くらい全然違うだろうし。
「あ!脳筋で思い出した!ユウキくん、はいこれ」
セラムさんがロザリオを渡してきた。横の棒が腕の形のロザリオで、上向きに矢印が何本か彫られている。
「それはパワーロザリオ、こないだ牛野郎を封印したロザリオを浄化して純粋なエネルギーに変換したんだけど、怪人の特性の一部が残っちゃったみたいだったから、せっかくなんでユウキくんのパワーアップアイテムにしちゃった」
「え!すごいですよセラムさん!本当にサポートの仕事してくれたんですね」
「あのクソ女神に無理やりサポート役にされたとはいえ、やることはきっちりやりますよーだ」
戦闘スキルの無い僕にはアイテムのサポートがあるのはだいぶ助かる。
「そのロザリオはブランクロザリオをセットするほうで使って。一時的に腕力が上がるはずだから」
「わかりました」
新しいロザリオの説明を受けていると、ラボの中にけたたましくアラーム音が鳴る。
「セラムさん、この音って何ですか?」
セラムさんが慌ててパソコンを操作する。
「警戒用に飛ばしていたドローンがゾア帝国のヤツらを見つけたんだよ。場所はこないだの牛野郎が暴れた砂浜!」
いつのまにそんなものを。思った以上に仕事をしてくれていたようだ。
「行ってきます!」
「アリア、私達も行こう。誰か襲われているのなら避難くらいは手伝えるはずだ」
「はい!」
エレベーターの上昇速度をもどかしく思いながら、ブレードを握りしめ気合を入れる。
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