第3話 拠点
「う、うーん。ここは?」
目を覚ますと、知らない天井が見えた。どうやらベッドに寝かされているようだ。
体を起こそうとすると全身が痛む。この感じは筋肉痛と体中をどこかにぶつけた感じだ。服をめくってみると体中に青紫色の痣ができていた。
痛みに呻きながら体を起こそうとすると、トントンと扉をノックする音がする。
「目を覚まされたんですね、お加減はいかがですか」
「全身が痛みますけど、大丈夫です」
「体中ひどい打ち身だらけでしたからね。」
「怪人を倒して封印した後どうなったんですか?」
「ユウキさんが急に倒れられたので驚きましたよ。慌てて教会まで運んで手当てをしたんです」
手当をされた僕は教会の宿舎の使われていなかったこの部屋に担ぎ込まれてベッドに寝かされ、丸一日眠っていたらしい。
「そういえばセラムさんはどこですか?」
「それが、礼拝堂にこもられて出てこられないんですよ。聖域をつくるとか仰られて、絶対誰もいれないように言われたのですが、いったい何をされているのか…」
何だかとても嫌な予感がする。礼拝堂を自分がひきこもる為の部屋にする気なんじゃ。
「今何かお食事をお持ちしますね」
「それよりも先にセラムさんに会いたいので、礼拝堂に行きます。」
「でもセラム様には誰も入れてはいけないと」
「僕なら多分いいはずです」
「分かりました、着替えをすぐに持ってきますね」
また僕はパジャマだったのか。着替えを済ませた僕は痛む体にムチを打ってアリアさんと礼拝堂に向かった。
「セラム様ー、ユウキさんが目を覚まされたのでお連れしましたよー」
アリアさんが、扉をノックしながら声をかける。
「はいはーい、ちょうど良かった、入ってきてー」
扉を開けて中に入ったが、セラムさんの姿が見当たらない。礼拝堂の中も特に改装された様子は無い。
「セラムさーん、どこですかー?」
「祭壇のところの机の後ろに回ってみて。机の裏にスイッチがあるからそれをポチッっとして。」
セラムさんの声に何か違和感を感じる。違和感の正体について考え、すぐに気づいた。この声は生の声ではなくラジオやスピーカー越しに誰かの声を聴いているみたいに機械を通した声だ。
違和感の正体が分かってスッキリとしたので言われた通りに二人で祭壇の後ろに回ってスイッチをポチッとする。
「エレベーターが起動します、足元にお気をつけください」
ガイダンス音声と共に突然足元が揺れ始め、祭壇の後ろの床板が下に向かって動き始める。
「キャ!あ、足元が!」
アリアさんが驚いて腕に抱きついてきた。修道服の上からでは少し分かりづらかった豊満な感触にドギマギしていると、エレベーターが下がり出す。
「アリアさん、これは下の階にいくための階段みたいなものですから大丈夫ですよ」
「そ、そうなんですか?でもうちの礼拝堂に地下室なんかありませんよ」
「え!もしかしてセラムさんまさか...」
そうこうしている内に、足元から光が漏れてきて、エレベーターが止まる頃には目の前に空間が広がっていた。
中央にはパソコンが置かれた机あり、その近くには瘴気を封印したロザリオがセットされた装置。されにいくつかのドアがあるが、どうやら使用目的は二部屋しか決まっていないらしく、研究室と開発室と書かれたネームプレートが付いている。なぜか隅には炬燵があり、テレビと冷蔵庫、ゲーム機まで置いてある。
「ようこそ、我が聖域であるラボへ。」
「いや!ようこそじゃなくて、これどうなってるんですか!」
「どうもこうも、封印したロザリオの浄化にブレードの整備、ラボが無いとどうにもならないんで作った」
「作ったって、いったいどうやったら1日で地下室すら無かった礼拝堂にラボができるんですか!」
「僕の超技術があればこれくらい朝飯前。それにこれがあったんで資材とか転送できたし」
ゴソゴソと白衣のポケットからスマートフォンの様なもの取り出す。
「ボクたちを転生させたとき、シルフィーアが仕込んでたみたいでさ。これさえあれば必要な物を何でも取り寄せられるんだよ」
「それはすごいですけど、勝手に作っちゃダメですよ、アリアさんあまりのことに固まっちゃってますよ!」
目の前に何が起こっているのか理解できないようで、ぽかんとした顔で固まってしまっている。目の前で手を振ってみるが反応がない。
一分ほどしてようやく落ち着いたのか反応が返ってきた。
「すみません、もう大丈夫です。正直何が起こってるのかさっぱりわかりませんが、必要なことだったということですよね?」
「ナイス理解力デカ胸。」
「私の名前はアリアです。そういえばセラム様、光輝いていた羽と頭の輪はどうされたんですか?」
よくみるとセラムさんから天使のアイデンティティーが消失している。これでは汚れた白衣を着た子供にしか見えない。
「羽は寝るのに邪魔だし輪は頭の上にあんな眩しいの光ってたら鬱陶しいから引っ込めただけ」
「そ、そうですか」
アリアさんが苦笑いしている。信仰対象の女神様の部下がこれでは信仰心が揺らいでしまうのではと心配になる。
「僕はこのラボを新たな聖域としてここに引きこもるので以後よろしくってことで。」
「は、はあ、そうですか。アリアさんはそれで大丈夫何ですか?」
「ま、まあ天使様がなされることですから、私からは何も言うことはありません」
半ばあきらめが入っている気がする答えが返ってきた。顔がかなり引きつっているが見なかったことにしよう。
「ユウキくんは住むところどうするの?ここはダメだからね」
「それならさっき休まれていた部屋を使ってください。元々シルフィーア様からお世話を仰せつかった時に、使っていない部屋を使えるように用意していたので。」
「ありがとうございます、アリアさん。お世話になります」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「うら若き男女がひとつ屋根の下、何も起こらないわけもなく...」
「起きませんよ!」
「もう、からかわないでください、セラム様!それに二人っきりじゃないですよ。今は別の町に用事で出掛けられていますが、神父様も一緒に住んでいますから」
「何だ、つまんないの。」
人をからかって遊ばないでほしい。まあ、正直少し残念な気がしたのは僕の胸の内に秘めておこう。
ぐううう、とラボ中に響く声で突然腹の虫が暴れだす。考えたら昨日から何も食べていない。
「ふふ、丸一日寝てらっしゃいましたものね、すぐに食べられるようにお食事の用意はしてあるので、宿舎に戻りましょうか。セラム様も昨日から何も食べてらっしゃいませんよね、ご一緒にいかがですか?」
「ボクの分は後でここに持ってきてくれれば良いんでお先にどうぞー」
ご飯くらい食べに出てくればいいのに。本気でここに引きこもるようだ。
「分かりました、後でお持ちしますね。それではユウキさん、行きましょうか。」
「はい」
こうして僕はこの世界での生活の拠点ができ、セラムさんは聖域という名の引きこもるためのラボを手に入れたのだった。
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