第2話 誕生 Aパート
気が付くと、さっきまでいた次元の狭間とは違うところに立っていた。
「ここが転生先ってことかな?」
周りを見ると、中央の通路を挟むように左右一列ずつベンチが置かれており、振り向くと僕をこの世界に送り出した女神様によく似た像が安置された祭壇があった。
建物としては教会の礼拝堂に似た作りのようだ。
何はともあれ、現状を知るためにも外に出ようと一歩踏み出すと、グニっとした何かを踏んだ。
「クッションか何か踏んだかな?ってセラムさん!」
「うう、ぐすっ!あのクソ女神めーー!うわーん!」
まだこの人、というか天使様は床で駄々をこねる子供みたいに大の字で顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにして泣いてたのか。
「セラムさん、いつまでも泣いていても仕方がないですよ、元気出してください」
「うるさい!貴様に分かるのか!自分の聖域を失った引きこもりの気持ちが!」
厄介払いされた原因が段々と分かってきた気がする。セラムさんはまだ泣いてるし、とりあえずこれからどうすれば良いんだろうか?
まずは外に出てこの世界のガイド役を探すのが得策なのだろうか。
「あのー、すいません。教会にご用の方でしょうか?」
入り口の方から木製のドアが少しきしむ音と一緒に声がした。振り返ると修道服を着た僕よりも背の高い女性がが立っていた。ベールの下からは艶やかな金髪が覗き、少し困ったようにこちらを見つめている。
「いや、用というか、気がついたらここにいたというか」
言ってから思ったがいくら何でも怪しすぎる返答ではないだろうか。無難に礼拝に来たと言った方がよかった気がする。
「お二人共この辺りの方じゃ無いですよね?もしかしてシルフィーア様が仰られていた使いの方ですか?」
不審者扱いも覚悟していたのにあまりの話の速さに面を食らう。
「えっと、多分そうです。シルフィーア様にこの世界に転生させてもらったので」
「実は先日、ここに女神様が降臨されて言われたのです!」
女神様が降臨した時のことを興奮して話す彼女の話はこの後さらに女神様を褒めちぎりながら10分以上続いたので要約すると、女神様はかつてこの世界に封印された邪悪な存在であるゾア帝国が蘇るので、再び封印するための戦士をそちらに送る。
だからその世話役をするよう言われたらしい。だが、いつ、どこから来るのかを言わなかったらしく、困っていたそうだ。
「あのクソ女神、相変わらず雑な仕事してますなー」
いつのまにか泣き止んだセラムさんが鼻をすすりながら隣に立っていた。
「大方自分の威厳をアピールするのに必死で肝心なこと言い忘れたんでしょ」
厄介払いされたせいで自分の上司であるはずの女神様に対する気遣いや尊敬といったものは完全に消え去ってしまったようだ。
「あのその羽のあるお姿はもしかして天使様ですか?」
修道服の女性に話しかけれた瞬間、瞬間移動でもしたのかと思うほどの速さでセラムさんが僕の背中に隠れた。
「しょ!そうですよ!我が名はセラム!天使ですよ!偉いんだから急に話しかけないでください!」
初対面の反応から気づいてはいたが、とんでもない人見知りなんだなこの天使様。この先人に会うたびにこれでは先が思いやられる。
「それは失礼しました!すみません!すみません!」
修道服の女性は物凄い勢いで頭を上げ下げしている、彼女の脳がシェイクになる前に止めなくては。
「この天使様、物凄い人見知りなだけなんで気にしないでいいですよ」
「え?そうなんですか?天使様にも色々あるんですねー」
色々とういか色物というか、とりあえず現地ガイドのような人っていうのはこの人のことのようだ。
「すみません、私ったら自己紹介がまだでしたね、私の名前はアリア、この教会でシスターをしています」
「僕は勇気です、六代勇気」
「よろしくお願いします、ユウキさん。シルフィーア様からユウキさん達のこの世界での生活のお世話をするように仰せ使っています」
「色々お世話になります」
「まずはユウキさんの服と靴からですね。」
言われて気が付いたが、僕の服は病院に入院していた時のパジャマな上に、裸足だった。
気のせいか少しパジャマが縮んでいる。洗濯じゃあるまいし、転生で服は縮むものなのだろうか。
「今持ってきますから少し待っていて下さい」
シスターが教会から出ていくとようやく僕の背中にぴったりと張り付いていたセラムさんが出てきた。
「いくらなんでも人見知り過ぎません?というか僕には慣れたんですね」
「もう君には色々恥ずかしいところ見られたからね。」
恥ずかしいところ見られてるっていう自覚はあったんだ。
「お待たせしましたー、お古で申し訳ないんですがこれをどうぞ」
アリアさんが持ってきてくれたのはカソックだった。教会だからそれもそうなのか。
お古、という割にはきれいに洗濯されており、状態も良い。
「着替えている間、向こう向いてますね」
「ありがとうございます」
アリアさんが背中を向いてくれたのだが、何となく自分も背中を向ける。
着替えていると視線を感じるが、アリアさんは背中を向けてくれているので犯人は一人しかいない。
「セラムさん、人の着替えをガン見しないでもらえませんか」
「いや〜、自分なかなかええ体しとるやんけ〜」
セラムさんが腹筋を撫で回してくる。セクハラ親父かこの天使様は。
でも確かに言われてみると生前に比べて体に筋肉がついてるし少し背も伸びているような気がする。パジャマが縮んだのではなく、僕の体が成長していたようだ。
「転生させた時にあのクソ女神が肉体を弄ったんでしょ、さすがにヒョロヒョロのままで戦わせられないと思って」
「あのままじゃ戦うどころか少し走っただけで倒れますからね」
まだ触られてむず痒い感じが残る薄らと割れた腹筋を見ると、なんだか少し嬉しい。
「着替え終わりましたか?」
「はい、大丈夫です。サイズもちょうど良いです」
「それは良かったです。ずっと立ち話もなんですし、宿舎の方ににいらしてください。この礼拝堂の隣ですから」
「分かりました」
僕たちが移動しようとしたとき、礼拝堂の扉が勢いよく開けられた。
「お姉ちゃん!大変!助けて!」
そう叫びながら3人の子供が転がり込むように飛び込んできた。
「一体何があったの?」
「砂浜で牛の怪物が暴れてるんだ!」
「セラムさん!それってもしかして!」
「もしかしなくてもゾア帝国の奴らだよ!」
「アリアさん砂浜ってどこですか?」
「この教会の近くです。ご案内します!みんなは礼拝堂に隠れてなさい」
「うん」
「お外には出たくないけど、勇気くん僕がついていかないとプレアーブレードの使い方わかんないだろうから今回だけはついていってあげる!」
僕たちは礼拝堂を飛び出し、砂浜に向かった。
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