この世界の人々が、もし皆悪口を言わない人だったなら。

 ああ、やっぱりそろそろお迎えがきそう。

 なんて、お年寄りみたいな事書いたけど、別に体中が痛いとかそういう訳じゃない。やっぱり余命越えてるからさ、いつ死んでもおかしくないんだよ、きっと。


 ……この世界の人々が、もし皆悪口を言わない人だったなら。どうなっていたのかな。

 もしそうなら、君へのいじめがなかったのかな。君と私が出会う事もなく、私はただただ病院で息絶えてたのかな。それとも、私か君かがよくクラスメイトを確認していたら、やっぱりこの関係になれたのかな?

 でも出会わなかったら、担当医さんにごね続けて学校に通う事も文化祭の準備もする事なく、寝たきり生活だったのかな。


 悪口がない方が絶対良い世界なのに、なんか複雑な気持ちになってきたや。

 君と私が出会えたのは悪口があったからだから。

 君はさ、どう思う? やっぱり悪口を言わない人ばかりの世界の方が好きかな。



 ____君が死んだと知ってから、もう丸三日も経った。

 やっぱりトイレや廊下、教室で君の悪口が聞こえる。なんでこんなに長いこと同じ話できるんだろ、と不思議に思うのは私だけだろうか。


 もう置かれた花も枯れている君の机を見ながら自分の席につく。通学鞄から一冊の文庫本を取り出し、しおりを挟んでいるページをゆっくりと開いた。

 ……まず読んだのは会話文だ。この印刷された言葉を発しているのは、過去の出来事にも負けず、勇敢に立ち向かっている主人公。

 対して、私はどうだろうか。いつも過去が足枷になっていると言い訳して、結局何もしないだけ。ただただそこになんとなく存在していて、それが邪魔だと感じる人もいるのだろう。そんな理由で、私は暴力を振るわれていたのか?


 ____一度深く考え出したら止まらなくなりそうだ。気を紛らわそうと、薄い紙にプリントされている黒色をまじまじと見つめた。

 この物語は上下巻で、今読み進めているのは上巻。主人公達はまだまだ様々な事を体験し、笑ったり涙したりするだろう。

 だが、君からの手紙でまだ読んでいない便箋は一枚だけだ。


 つまり明日、メッセージの全てが完結する。

 いつもより真剣に読もうと心に決めた。

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