もしみんな____だったなら

 私は、黒インクのボールペンで書かれた文字をゆっくり読み始めた。



 この手紙を読んでいるという事は、私はもうこの世にいないでしょう。

 あ、でも、数十年後に老衰で死んだ後に読まれてる可能性もあるね。

 それならいいなぁ、なんて。

 さて、只今、人の心の奥の感情に敏感だ、っていう女のコに手紙を書いています。君

 で合っているかな?


 私が初めて見かけた君は、男子に暴力を振るわれていたね。人より感情が分かるってだけで、別に他の人に危害加えたりなんかしないのに。

 声をかけた時、とても戸惑っていたよね。君は感情を読み取れる代わりに気持ちが顔や行動に反映されやすいな。


 実はあの時、余命宣告させてたんだ。結局、私の死因になった病気のね。あと半年。当時はそう言われた。

 実際はそれより長く生きたんだから、私めっちゃ生命力あるよね!!


 どうせ残り少ない命、何か人の役に立ちたい。そして、今までにない程楽しい思い出を作りたい。そう思っていた時に君と出会ったんだ。一目惚れに近い感覚だった。

 偽善者だって思われるかもしれない、そう考えていたなぁ。

 ちょっとナルシみたいな事言うけど、私って根が優しいんだろうね。だから、君と仲良くなれたんだと思う。思い出も作れたんだと思う。


 初めて一緒にお弁当を食べた4月。

 カラオケで、君は歌が上手いって事を知った5月。

 突然降ってきた小雨で濡れた日、家に招待した6月。

 すいているフードコートで勉強した7月。

 2人で色々な所にお出かけした8月。

 体育祭の二人三脚の練習を頑張った9月。

 楽しみな文化祭の準備に追われた10月。

 毎日が幸せでした。



 気付いた時には便箋のすぐ手前の合板の上に大量の水があった。その量は現在進行形で増えていく。

 ふと時計を見ると、とても遅い時間になっていた。まだ続いているが、明日以降にとっておこう。


 涙を流しながら眠りについた。



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