春立ちぬ

「敵軍切迫!5方向からここを目指して急進中です!」


引きつった声が響く。


「防衛部隊は?」

「全力出撃中です。迎撃に当たれる戦力は…ここの直掩だけです」

「…そうか」


ため息をついて立ち上がる。


「行くぞ、司令部諸君。」


晩生内おそきないも、雨煙別うえんべつも、石原も。

司令部将校たちは残らず頷いた。


「最低限の連絡要員だけは残して出陣だ。」


乗る騎馬はいない。一切日光の差し込まないストレスに馬が耐えられないからだ。

司令部属も含めて全ての軍馬は、ルースキー島に設営した仮設厩に移送してある。

動物でさえ逃げ出す。耐えるのは人間だけ、とはよく言ったものだ。


地上へ出る。

そこかしこから銃声が響く。


「最前線も、ここまで後退したか。」


先々週は黒木と朝の炊き出しを共にした広場にも、今や怒号と爆音が飛び交う。

じりじりと押されていって、総長地下壕。いまや最後の砦も風前の灯火だ。


もはや市街地の9割が占領された。


「ここを失えば、あとはルースキー島に籠もって絶望的な飢餓と戦うか、降伏するかだ」


息を呑む雨煙別。


「反撃戦力を温存してきたのも、全部、無駄になる」


戦慄く、もしくは震える晩生内。


「勅令227号は発令中だ――…"死守せよ"。」


一言だけ。

もうそれだけで十分だ。




あぁ、春はまだなのか。




小隊規模にも満たない司令部は、直掩の重機関銃を載せたリヤカーを引きずって、黒煙に閉ざされた正面の通りに到着する。


「援護に到着しました、代行総司令の初冠です。そちらは?」

「第7旅団長の閑院かんいんだ」


給弾ベルトを機関銃へ差し込みながら、手短に答える将校。

その名前を聞いて息を呑む。


「これは失礼しました、閑院宮かんいんのみや親王」

「よせ。代行とはいえ、司令が隷下に敬語を使うな」

「流石にそうはいきませんよ、宮殿下」


閑院宮載仁ことひと親王。

史実では1931年から、無謀な大戦へと身を投げていく時代を通じて、1940年まで帝國陸軍の参謀総長を務め上げた皇族軍人。近代系の歴史改変モノにおけるテンプレのキーパーソン、だったか。


非常に優秀な指揮官であり、史実の日露戦争では本渓湖において旅団を敵の側背を強襲。親王のアイデアで機関銃に三脚架を付けて進軍するなど、機関銃を巧妙に活用した戦術でロシア軍を潰走させている。

その新時代の兵器への理解の速さは、この世界線でも変わっていない。


「あの制圧術を考えたのは宮様でしたね」


市街戦、敵兵の籠もる部屋の攻略手法。

扉の隙間から手榴弾を投げ込んで、爆発直後の粉塵の中へリヤカーごと重機関銃を突入。手当たり次第に乱射して制圧する――これはウラジオストク攻防戦初期に閑院宮が考え出したもので、今やマニュアル化されて、全部隊がこの制圧法を使っている。


付けられた名を『宮式制圧術』。

効果的なのもそうであるが、敵に甚大なストレスを継続して与えることができるため史実では軽機関銃に代えて、スターリングラードで考案されたのち、冷戦下で米ソ他各国の特殊部隊が採用することとなる現代市街戦の基礎。


「宮様の先見の明、畏れ入ります」

「それを司令が言うか。」


呆れがちに閑院宮は溜息づく。


「電探と飛行器械を組み合わせた、早期警戒システム…だったか?予にはまだ、理解が及ばん」


静かに首を振る。

それは史実知識だから、僕の発想なんかじゃない。


「いいえ。僕に言えるのは…戦場は確実に三次元化していく、くらいですよ」

「ああ。予も身をもって理解してるところだ。」


閑院宮は頷いた。


「上空、地上、地下。全ての空間座標が、余す所なく戦場になるのだとな」

「それはきっと、海でも変わりません。十年後、二十年後…もしくは、

「……かもな。予も、さるべくして為る予勘がする」


傾き続ける帝國の参謀総長となる宮様が、この時点で三次元戦争に――いいや、補給・制空権・陣地構築・装甲兵力・電探連携・整備力の全てが必要となるこの市街戦を、その概念を呑み込んでしまっている。

まだ30代の若さだ、吸収も早い。

これはチートに程近い人材育成だな、と僕は内心笑う。


史実、軍部の頂点に君臨して、旧時代の価値観のまま破滅へ身を投げた将校たちも、この日露戦争で大きく認識を変えるのだ。

塹壕戦から電撃戦、航空戦まで、ありとあらゆる二次大戦の戦術概念を、まだ若い彼らは最前線にて学ぶ。

そんな将校が育った暁には――史実の二次大戦の頃には、皇國陸軍は最高級の指揮層を手に入れるだろうから。



「敵軍肉薄!」



その声に顔を上げてみれば、粉塵の中から現れるロシア軍歩兵部隊。


「薙ぎ払うぞ」

「容赦ありませんね、宮様」

「当然だ。でなければこちらが死ぬ」


旅団、迎撃用意――そこまで閑院宮が言いかけたところで、慌てて僕は制止に走る。


「待ってください!」

「何を待つことがある」

「正面!正面に友軍の兵士です!」




「たっ、すけ…!」


瓦礫を越えて、向こう側から逃げてくる影が一つ。

ボロボロの士官服だが、辛うじて中尉章は読み取れる。


「あいづら、狂って、る…!」


必死で声を絞り出す人影には、見覚えがあった。


「東條……?」


足を引きずりながら独り。

機甲大隊の第一中隊を率いていたはずだが、装甲車らしき影も一輌すら見えない。


「中隊はどうした」

「指揮車ごと、失っ…た。」

「っ、中隊は全滅か!?」

「ちがっ…!ふ…不意を突かれて、本官の指揮車だけが!」


そこで、何か思い出したように東條は口を噤む。


「どうした東條?」

「そう……だ、あいつらは…自爆の巻き添えに、したんだ」


震える声で、たどたどしく言葉を継いでいく。


「自爆、だと?」

「あいつら…手榴弾を体に巻き付けて、車体に張り付いて…!」


その言葉に、はっとして、視線を前方へ向けた。


向こうから虚ろな表情で歩いてくるロシア歩兵の手に、銃はない。

もう彼らには、銃器も銃弾もない。――自爆しかないのだ。


「あいつら、人間じゃない!」


東條は叫ぶ。


「爆撃で焼き払っても、何度も、何度も機関銃で撃ち抜いても、自分ごと道連れに…!」


僕は、運良く降伏してくれたロシア軍の小隊を武装解除する時に、接収した一枚切れの電報を思い出す。


『この機関銃は貴様らを支援するためではない』


チェカの前線派遣隊からの通達だった。

内戦勃発に動揺するロシア軍を離反させまいと、そして、あくまで戦争には敗北するまいと。そんな中央政府の意思を託された"督戦隊"。


「奴ら、銃弾どころか、食べるものにすら事欠いているのに!」


東條から出たその言葉に、僕は少し押し黙る。

へぇ、


だから尋ね返してみる。


「逆の立場だったらどうする?」

「……は?」

「皇國陸軍が、眼前のロシア軍の立場にいたら」


キッ、と僕を睨めつけて東條は答える。


「有り得ない!神国が、あのような無様を晒すわけがありません!」

「戦争に絶対はない」

「ッ、無能にぴったりのはぐらかしですね。」


東條は嘲る。


「敗北主義者の売国奴にはわからないでしょうが――皇國の神性は絶対的なんです」

「神性?お前東條、この最前線を見てもまだそんな言葉が出るのか?」

「はッ、私のような若き真の愛国者にしか理解できないのですよ」


額を押さえて溜息をつく。


「……そうか」

「老いては子に従えです。あなたは齢24とて、中身は立派な老害。無能すぎて使い物になりません。」

「はぁ」

「さっさとそこをどいて、私に司令官の座を譲ってください。

 売国にやらせるより、若き憂国の士がやったほうがいいに決まってる」



刹那、銃弾が弾け飛んだ。

正面の閑院宮以下第7旅団が迎撃を開始したのだ。


「神々に愛された御国は、世界を敵に回しても滅ぶことはない。いくら人の国が束になろうと、神風が吹き、皇國は蛮夷共を粉微塵にする。それが確約された物語。」


戦闘開始からそれほど経たず、ばたばたとロシア兵が斃れていく様を見ながら、東條は笑う。


「魅せてあげますよ――、『戦争』を。」



・・・・・・



鈍重な火線が数本通る。


「ぐァっ!」


愚かにも2階から身を乗り出していた皇國歩兵は滅多に撃ち抜かれた。

一瞬で腹部より上が弾けたそのむくろは、内蔵を撒き散らしながら、直下の塹壕に隠れる東條へ降り注ぐ。


「あ……ぁ、あぁ…っ…!」


焼け焦げた鉄のような生臭い死の液にむせ返るのみならず、人体解剖の中身までもを引っ被った東條は、あまりの惨景を前に咽び嘔う。


「うっ、ごぼぉぉ…っ、げ、はぁ…っ!」


突如向こうの通りから響く雄叫び。

戦場を覆う粉塵の霧のうちから、みるみる現れたかと思えば、ぞろぞろと迫り来る敵歩兵。


「はぁー、っ、はぁー…っ!」


過呼吸気味に震える東條へ、僕は声を掛ける。


「おかしいな。皇國の神性が僕らを護ってくれるんじゃなかったのか?」


一拍遅れて、東條は僕を睨めつける。


「こんなの…、こんなのは、違う!」

「何が」

「間違っている!なんで、なんでわからない!?」


溜息をつく。そうだよな、お前は当然知らない。


「東條、お前が装甲車兵だからだ」


「それと、これとに…何の関係が!」


僕は笑う。

だって、対戦車兵器のない敵を相手にするとき、装甲車は絶対的な力になるから。つまるところ――勘違いしやすいのだ。


「貴官らが浮かれたのはわかる。初出征が裂号バルバロッサなら尚更だ。」


その力を、自分の強さだと思いこんでしまうから。


「だが、結局は、皇國陸軍とて神の使徒でもなんでもない。砲弾と物量の前には、ただの脆く、哀れな子羊だ。」


ギリギリギリ、東條は奥歯を噛みしめる。


「嘘だ!!!」


そう叫んで否定に走る。


「これは、有色人種の希望の、英雄譚だ!

 神々に愛された"希望"である私たちが子羊!?不敬もいい加減に――」

「おっと、敵接近」


農民の格好をした集団が、ボロボロの軍旗を掲げて――それでも着々と、憎悪を瞳に灯して群れをなし、こっちへ向かってくる。

軍服すら着ていなかった。ナイフや小石、棒きれや、鹵獲した皇國銃器など、落ちていたものを思い思いに手にするのみ。


「東條。撃て。」


「っ…!相手は、銃も持たない、丸腰の農民――」


「だから何だ?撃たなければ殺されるだけだ。」


「でも、…でも!あいつらは、最低限の武器、すら!」


「憎悪の連鎖は留まるところを知らない。ここで断たなければどこまでも連鎖して、やがて、東條、お前の首を絞める。」


首のうしろに手を回して絞首のジェスチャーをしてみせる。


「それが戦争だ。」

「こんなの、戦争なんかじゃ、ない…!」


あっははは!と僕は笑い飛ばす。


「――ようこそ、うるわしの戦争へ。

 神性とやらが守ってくれるんだろ?やってみろ。」


静かにこちらを伺う石原の視線を背に。

何ら躊躇することなく、東條の背中を、ドカ、と強く押す。


「え……」


瓦礫の裏から突き出された東條は、ドテ、ドテ、と二歩、三歩。バランスを崩したように前へと出た。

僕は最後の言葉をかける。


「魅せてくれよ、東條英機の言う『戦争モノガタリ』ってやつを。」


孤立したかのように瓦礫の先へ、敵兵たちの前へと佇む東條英機。

彼らの視線が一気に東條へ集中する。


ほどなくそれは、強烈な憎悪と、報復衝動とに置き換えられて、東條へと殺到する。


「ひぃっ!」


ろくにモノを口にしていないとわかる、痩せこけた病人も。

右腕がなく、左手にナイフを握りしめる負傷兵も。

まるでゾンビのように立ち上がって、東條のほうへと走り出す。


「うわぁ?!」


半狂乱で踵を返そうとする東條。

けれど、足が動かない。


そんな彼を射抜く複数の視線は、殺意から、食欲へとかわってゆく。

ロシア兵たちは極度の飢餓で、敵兵さえも肉にしか見えなくなっていたのだ。


「あ…、ぁ…!」


敵意を向けられたことは数多あれど、当然、食欲を向けられたことなんてない。純粋な食物連鎖、捕食者と被食者の関係を本能が察知する。

結果、生物学的な恐怖反応が、否応なく東條の全身を駆け巡る。


「構えろ」


後ろから飛んできた命令。脊髄反射で銃を構える。照門と照星を合わせて標的を捕捉した――銃口の先に、一人の痩せこけた少年兵が映る。


「ぅ、ぁあ…!」


石礫を掴んで迫りくる、年端も行かぬ少年。武器すら無いのだ。


一方的な武力で、丸腰の子供を殺すのか。

引き金に指を掛けながら、東條は固まってしまう。


「これも英雄譚になるんだろう?撃て。」


「ぅぐ…、あぁ!」


彼は、少年兵と眼が合う。その瞳は、底なき鈍重な赤黒い色をしていた。

そこに、彼の期待した理性なんてない。


「撃て、東條。」


「嫌…、だぁ…っ!」


そうだ。戦争も戦場も、原点に立ち戻れば、結局は感情だから。

数メートルまで少年兵が肉薄しながらも、東條の膝と指はガタガタ震えて止まらない。


「撃て!命令だ!」


涙を流しながら、東條は咆哮する。


「うわぁぁぁぁあッ!!」


顔をぐしゃぐしゃにして、人差し指を入れ込んで。


――ダァン!――


東條は撃った。




・・・・・・




なんとか凌ぎきった頃には、日も暮れていた。

もちろん陽は差し込まないので実感はないが。


「ひゅーっ…、ひゅーっ」


かすれた声が聞こえる。

そのほうへ、僕は声を投げた。


「精々反面教師にしろよ」


積み上がった敵の骸を指し示す。


「補給も食糧もなければこのザマだ。」


きっと彼は、35年後には、それなりの地位に就く陸軍軍人だから。


「皇國とて例外じゃない。大和魂で腹は満たされないし、弾は撃てない」


せめて、あの惨めで粗末な戦争を繰り返さないように。

たとえ勝てないとしても、史実の轍だけは踏まないように。


そう祈るからこそ、僕は敢えて、彼を極限へ追いやったのだから。



細い息で僕を見つめる東條の瞳には、もう反抗の覇気は残っていなかった。




「緊急報告!」


そこへ駆けつける軍靴の音。

振り返ってみると、汗だくの別海睦葉が肩で息をしている。


「どうした」

「ち、地下部隊が敗走を開始!」

「……もう、決壊したのか」

「一部はすでに総長地下壕に達しています」


そうか。

総長地下壕を空けたのが仇になったか。


「すぐ戻る。が、……覚悟はしておけ」


疲弊しきった部隊をなんとか立ち上がらせて、地下壕へ戻る。


司令室は生き残っていたが、総長地下壕へ繋がる各下水道はすでに制圧されている状態だった。


「間に合わないな」


わずかな防衛隊が宮式制圧術で抵抗しているが、長くは続くまい。


劣悪な状況の中で、ロシア軍の損害は皇國の15倍に迫っていた。

ロシア軍は降伏も後退もしない。できないのだ。

だから、機関銃に撃ち抜かれたところで、前の屍を盾代わりに進んでいくだけ。補給が来ずとも、餓死するまで歩み続け、殺し続ける。

理性や正気といったものは欠片もなく、そこにあるのは『皇帝命令第21号』のみ。

まるでゾンビだ。


敵の心を挫く策は、使えなさそうだ。


ここに至って僕は決断する。


「ごめん、みんな。」


「……司令官?」

「機材撤収。機密書類は焼却処分」

「それって」

「ごめんな。守りきれなかった。」


ひどく透明な笑いで、司令部の面々へ振り返った。


「総員、ルースキー島へ退――」



ドドドドドドドド!!



そこまで言いかけた瞬間。

地下壕全体が揺れる。


「なんだ!?」

「地震か?にしてはやたら音が…」


「しれいかぁん!!」


晩生内おそきないの高い声に振り返る。

壕内から、地下の巨大空間である大下水道を、斜め上から直接覗き込める地下壕のデッキ。その手すりに凭れながら、彼女は僕へ手招きする。


「こっち!こっち来てぇ!」


足早に駆け寄ると、その瞬間。


ザッパァァアア!!!


大きな水しぶきが上がる。

きゃぁっ、と屈む晩生内を横を駆け抜け、何事かと覗き込めば――。


「……濁流??」


轟々と音を立てながら、豪快に流れていく大下水道。

水位は通常時の3倍を超えているようで、このまま増水すればデッキから壕内に浸水するだろう勢いだ。


「どうしたんだ突然…?」

「わっ、わかんないよぉ…。でも、水しぶきの後に思い切り流れ込んできて…」


ドドドドド、と流れていくやけに生冷キレイな下水に、時折溺れた人間が混じる。


「ロシア兵が」

「流されて、いく」


濁流は、神風のごとく皇國陸軍の危機を押し流していく。


「…上流で、雨でも降ったんでしょうか?」

「まっさかー、それはないよ睦葉むつはちゃん。

 だってここの気候区分はDw、亜寒帯冬季少雨だよ?乾季の大陸で大雨なんて。」

「晩生内代行…でも、それ以外に増水の理由なんて」





石原莞爾の声が響いた。

僕は小銃を取り落とす。



「――そうだ、そうか。」



たった一言、凛と残して去っていった石原の後ろ姿に、僕は呟く。


「春が来た」


地下に沸き続けた敵歩兵ゾンビたちを根こそぎ洗い流しながら。

壕内中を揺るがす轟音が、いつまでも反響し続けていた。




―――――――――




電報・第275号

明治38年4月12日付

『転送:ミュンヘン共同宣言』

発 皇國枢密院 宛 東部防衛総隊


 日本皇國は、先年に大韓帝国と協約を交わしておきながら、大韓帝国の内政・外交の指導を怠り、大韓政府の暴発を招き、それに伴う多国間戦争の危機を世界へ波及させた。

 われら五大国は、列国としての責務たる「隷下後進国の都督」を怠った日本皇國に対して、共同して非難声明を採択し、皇國の大韓に対する曖昧な保護政策を糾弾、これに代わる断固とした管轄措置を要求する。


 なお、未だ封建制下で近代的国家機能を持たない大韓帝国政府の主権をわれらは懐疑し、同国による外交行動はわれら列国間の近代外交には何ら影響力を保たないことを確認し、従っていかなる同盟条約の参戦条項も適用外であることを宣言する。

 ゆえに、主権のない同地域の秩序の安定のために、われら五大国は連合軍を組織し、朝鮮半島へ派遣することを確認する。これにかかる費用は今次混乱を招いた日本皇國が負担するものとする。ただし派兵は皇國が戦時下にある間に限っての安全保障措置であり、戦争が終結し、皇國が派兵費用を返済次第、五カ国は朝鮮の占領地を皇國へ引き渡す。


 ドイツ帝国、フランス共和国、大英帝国、オーストリア=ハンガリー帝国、イタリア王国は、世界の安定に重大な危機を及ぼした今次の戦争を重く受け止め、日露両国の無併合・無賠償による事態の即時解決を、強く、強く、強硬に要求する。


 なおこれが実現されない限り、我らは日本皇國への実力行使も厭わない。

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