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うおおおおおおカクヨムコン中間選考突破ァ!

まさか突破できるとは思いませんでした(マジで)……いや本当にありがとうございましゅ

更新遅くなっている中で読者様にこういう事頼むのも申し訳ないんですが…これからもどうか応援よろしくおねがいします!とりあえずはこの戦争を終わらせるぞッ!!

占冠 愁


以下本文補足:連隊=聯隊(旧字体なだけです)

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「陣地造成急げッ!」


指定された建物を重機がピンポイントで崩して、ウラジオストクの市街地に戦闘計画通りの袋小路を形成していく。

周囲には瓦礫を使ったトーチカも設営され、ベルト給弾に現地改造された三四式が十字砲火での殲滅を虎視眈々と狙う。


「ここは…大丈夫だな、と?」


ふと上を見上げてみれば巨大な影が通り過ぎていく。友軍の爆撃船だ。湾内に浮かぶルースキー島に建設された飛行場から来たらしい。

ぽつりと別海大尉が横で呟いた。


「表通りに面した建物は大半を戦車壕に改造、悠々と突撃してきた敵歩兵を正面から装甲車が轢き潰す…。よく出来た算段ですね」

「だろ?自信作なんだ」


道路幅が制限される以上、敵は重厚な進撃陣形を余儀なくされる。ダブって後ろに回った敵兵は建物の屋上から狙撃銃で片付けるか爆撃船で粉砕すればいいだけだ。


「市街地の大半は舗装されてる。装甲車が標準でゴム装輪式の我軍にはもってこいの環境だ」


舗装された市街地では、履帯付きの車輌よりタイヤ式の機動戦闘車のほうが役に立つのは平成世界にて陸自が配備している16式機動戦闘車の総数を見ればわかる。


「即応集団は装輪の機動力を生かし、市街地全体の舗装道路を駆使して機動防御に当たる。袋小路のほうは瓦礫で崩されてるから基本は歩兵と焼撃兵で、あとは数少ない履帯改造の装甲車――『戦車』で賄う」


松花江の戦いで初陣を飾った履帯改造の三三式装甲車は1月に派生型として陸軍から正式に承認され、「零號軽戦車 ケイ」の名を賜った。戦車砲など載せていないので厳密には戦車ではないのかもしれないが、履帯で瓦礫だろうと塹壕だろうと難なく乗り越えることができる。イタリアの例の機銃戦車みたいな感じだ。


「反面、速力は落ちる。装輪では最速35km/hを誇った装甲車だが、履帯装着になると最速でも5km/h出せたらいいほうになる。もしかしたら歩いたほうが速いかも」


第一次大戦時の英軍戦車として名高いマーク1よりも装甲は薄く、脚もひとまわり鈍い。ただその分馬力は強く砲弾で抉れた地面など容易く乗り越える。電撃戦をやるわけではない今回にはもってこいだ。


「即応集団の保有する100輌の装甲車は機動防御重視だから、もちろん装輪のまま。冬の間に履帯装備の改造を施したのは、正面から白兵戦をやることが予想される歩兵直掩の車輌だけ」

「歩兵直掩、といいますと?」

「説明すると長くなるな…。沿海州総軍も隷下の第1軍も第2軍もいまや有名無実だし、仙鎮は半壊しちゃったし…ちょっと再整理を兼ねつつ現状を振り返ろう」


と、ここで把握のために資料を広げる。


「仙鎮はナホトカでの交戦で聯隊一つがまるまる吹き飛ぶ大損害を喰らったから、17聯隊れんたいの生き残りを16聯隊れんたいの残存に統合することでどうにか間に合わせてる」


◎在ウラジオストク稼働戦力

大阪鎮台 :第8聯隊・第9聯隊・第10聯隊・第20聯隊

仙台鎮台 :第4聯隊・第5聯隊・第16聯隊

第十一師団:第12聯隊・第22聯隊・第43聯隊・第44聯隊

近衛師団 :近1聯隊・近2聯隊・近3聯隊・近4聯隊

増強集団 :中央即応集団『桜花』・第1焼撃大隊・第3焼撃大隊


「で、これがいまの鎮台と師団の編成」


師団/鎮台 (共通) 一個定員:15000名

◎4個歩兵聯隊

◎司令部

┣ 野戦病院

┣ 工兵中隊 運土車ダンプカー4輌 排土車ブルドーザー2輌

┣ 偵察中隊 馬65頭

┣ 兵站中隊 輸送車20輌

┗ 砲兵聯隊

 └第一大隊 牽引車12輌+105mm機動砲12門

 └第二大隊 88mm野砲12門

 └第三大隊 88mm野砲12門


「開戦時には、確か一個師団あたり200門近く野戦砲を配備してましたよね…?」

「今や36門だ。……それだけ、松花江の戦いは厳しかったってことだよ」


気づけば充足はボロボロで、師団定員を見直すしかなかったのだ。


「1個歩兵聯隊の隷下には3個歩兵大隊と1個戦車小隊がつく。つまり1個聯隊につき8輌の戦車だな」

「確かウラジオストクにはいま15個の歩兵聯隊がありますから…、120輌も用意したんですか?履帯付きを」

「厳密には『現在揚陸中』だな。」


僕は背後で桟橋で艀を使ってやっとこさ物資を揚陸し、代わりに市民を詰め込んでいる船団を指し示す。


「"ダンケルク"は順調に進行してる。往路は兵器兵員を詰め込んで、復路は市民を護送して、って感じにな。」


コンテナはないし港湾設備もご覧の有様で、積み上げにけっこう時間が掛かってはいるが許容範囲内。計画ではあと48時間ほど揚陸積載に余裕をもたせている。


「ほら、あれだよ」

「あ、ほんとですね。履帯が揚げられてる…、え!?履帯だけですか!?」

「ああそうだよ?ここの総軍整備隊で装甲車の車輪を履帯に付け替える。皇國に完成品を送る余裕なんてないさ」


おそらく本土では、5年前から導入が始まったばかりのトラクターを履帯型限定とはいえど片っ端から徴発して、履帯を外し、この数を用意したのだろう。

涙ぐましい努力だが、この程度しか皇國の余力はない。


「今日は2月26日。これから3日で付替えを行う。」

「たった3日で、120輌もですか!?」

「あー安心しろ、冬の間に6割以上は現地のこっちで改装を終えてる。残りの40輌弱に履帯を履かせるだけさ」

「40輌って……えぇ、それでも結構な数ですよ」

「やるしかないだろ大和魂で」


えぇ、と肩を落とす大尉。ふとそこへ近づく足音に気づく。

おもむろに肩を叩かれて振り返ると、そこには石原が立っていた。


「総長、緊急召集」

「ッ、わかった。別海大尉!緊急召集!」

「…!了解ですっ」


三人して走り出す。


「石原、出撃要請か?」

「アルチョームで戦線左翼の第11師団に熾烈な突撃が繰り返され、じりじりと後退を余儀なくされていると」

「なるほどそこで僕らか。」

「ちょっ、ちょっと待ってください!?」


別海大尉がそのくせ毛をぴんと立てながら動揺の声を上げた。


「我々がここにいるってことは別の人間がアルチョームでの防衛戦を指揮しているということですよね…?」

「そうだが?」

「え!一連の騒動で総長が沿海州方面の指揮全権を掌握したんじゃぁなかったんですか!?」

「掌握はしたけどアレは自称英雄を引きずり下ろすための宣伝みたいなものだ。一種のプロパガンダだよ、僕だって本気で軍団を指揮できるなんてうぬぼれてちゃいないさ」

「なら誰が…」

黒木為楨くろきためもと旧司令」


一拍置いたあと、彼女はおそるおそるこう尋ねる。


「旧司令って…、だ、大丈夫なんですか…?」

「阪鎮から近衛までの4個歩兵師団を任せてる。ここ丸4日防衛戦を指揮してるよ」

「でも、あの『英雄』とつるんで…」

「あー磯城のほうは港湾防衛隊の旗手…つまり戦闘詳報の記録係に回しておいたから今は閑職だしへーきへーき」


それに、と続きをぽつり。


「黒木大将ってさ、もとは名将なんだよ。」


その言葉に石原までもが僕を見る。


「明二四年動乱で叛乱軍が一度京都まで制圧したのを覚えてるか?」

「…ええ、覚えてますよ。あの屈辱のすぐ後の出来事でしたから」


別海大尉は頷く。中国九州で枢密院体制に反旗を翻した叛乱軍は、神戸の歩兵連隊と連携しつつ京を陥落せしめたのは、もう14年も昔の話か。


「あのとき、鎮西軍は京都を攻略するのに二の足を踏んだんだ。なんたって金閣や銀閣から御所まで重要建築物の陳列都市だから。戦火に巻き込めば応仁の二の舞だ」

「でしたね」

「けれど、それをひっくり返す一手を、黒木為楨…当時旅団長が放った。」


そのとき、大隊本部の湧別の屯田兵診療所の病床から僕はその一報を聞いたけれど、鳥肌が立つほどそれは鮮やかな手だった。


「垂れ幕を気球に括り付けて飛ばしたんだ――『勅命下る軍旗に手向かふな』ってな。」

「っ……ぁ、私それ、知ってます。」


そうだ。これは陸軍内に留まらず国内にも広く知られる非常に有名な話だ。


「鳥羽伏見の錦の御旗を再現しようとしたんだよ、黒木旅団長は。それも気球という妙手を使って」

「ええ。その結果、京都を占領した神戸の歩兵連隊は戦意喪失――」

「そう思うじゃん?けど、それは広く大衆に流布している『武勇伝』。実際の戦闘はもう一段階挟んでる。……いいや、黒木旅団長が挟んだんだ。」


少し哀しげに溜息をついた。


「あの垂れ幕の標的は叛乱軍じゃなく、京都市民だった。」

「……は?」


大尉より早く石原が反応する。


「一体どういう」

「簡単な話さ。"皇室千年のお膝元である京は朝敵に成り下がるのか?"って問いかけたんだよ、誇り高き京人ミヤコビトにな。」

「は」

「まだまだ京都は日の本の帝城だと考えている彼らが、そんな屈辱を受け入れるはずもない。一夜にして京都にはレジスタンスが跋扈するようになった。叛乱軍は京都での支持を全面喪失したんだよ。」


中国方面の蹶起に呼応しただけの神戸聯隊歩兵第10聯隊は、守るべき民に攻撃を受けてはやってられねぇよと京都を撤退、高槻付近で鎮西軍に投降した。


「黒木旅団長は熟知してたんだ、大衆の持つ力を。」


大尉はまだ納得行かない、という顔をする。


「……けど、だとすればおかしいじゃないですか。どうして私たちの知る『勅命下る軍旗に手向ふな』の武勇伝には、黒木将軍の名が出てこないんですか?」

「枢密院が消した」

「消し…?」

「内戦という大失態を起こした枢密院が求心力を回復させるには、わかりやすいプロパガンダが手っ取り早い。だから黒木旅団長の名前を消して、主人公を枢密院以下政府軍に仕立てた『武勇伝』を創った」


ゆえに黒木旅団長――今の黒木大将の名は、あの武勇伝の中では語られない。


「でも、それではますます謎が深まる。」


石原は続ける。


「そこまでの名将が、戦果を盗まれるような仕打ちを受けて…枢密院に反感を抱かないどころか。我々の見た沿海州総軍司令としてのあの男は、まるで『枢密院英雄』の金魚のフンだった。たった14年で普通あそこまで退化するか?」

「いいや、しない。少なくとも腕は落ちちゃいない。現に磯城と引き離して黒木大将にはアルチョームの防衛戦をやって貰ってるけど、僕よりも遥かに指揮は上手い。」

「っ、ならなぜ」

「そう……そこが僕もわからない」


彼のその言葉に強く同意を示す。


「どうしてあれほどの人が、自称"英雄"に感化されてしまったのか。」


いいや、それだけじゃないなと言葉を継ぐ。

僕らからしてみれば腐り果てているようにしか見えない枢密院体制が、どうしてここまで支持されるのか。"英雄機関"として臣民6000万から崇められているのか。


「そもそも"維新の英傑"たちを、磯城と一緒くたに『枢密院おろかもの』として括れるとは思えないんだ。連中は絶対に一枚岩じゃない。」


下手したら、僕らは磯城という虚像に踊らされて、その裏にある皇國重鎮の動きに、致命的なものを見落としているかもわからない。


「この攻防戦を通じて――…見えなかったものが見えてくるはずだ。」

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