決戦地
遅くなりましたが☆200ありがとうございます!!!
本年度(3月末)までの目標を達成です…!
読者の皆様に支えられてここまで来れました…、作者は承認欲求の塊なので非常な執筆の燃料になります。感謝です。
というわけで、新たに今年の目標をセットしようと思ったところでして。
目指せ書籍化!!!
……嘘です流石に冗談です
ですが、結構高望みしてます。
目指せ☆500!
小説前半の改稿はあらかた終えましたし、あとは続きを書くのみ!それがどんな形であれ日露戦争を終わらせて、続く激動の20世紀を描き切り、遥か21世紀への道程を…、ただただ紡ぎ綴れ!!
読みにくい点、改善点など、忌憚なく容赦ない感想ください。
星くれ(病気)
占冠 愁
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沿海州総軍、最高統合戦略会議。
総軍司令から参謀長以下磯城含め4人の参謀と支援中隊の長、正真正銘総軍の中枢を成す総計10名が集う、文字通りの総軍最高会議。
一介の即応集団中佐が出席するには早すぎるそこに、僕は即日、弾劾されるように呼ばれていた。総軍司令の黒木大将がわなわなと震えながら、全権を掌握する僕の吐き出した司令文を指し示す。
「……この命令、一体どういう意味かわかっているのか…!」
「戦局を打開するのに、必須の部隊移動を命じたまでです。」
「指揮系統の逸脱、独断専行としか言う他ないだろう…!!」
「いえ。磯城参謀は全軍に時差無しで『立場交代要請』を行ったのですよ?陸軍軍法を恣意的に無視しない限り、本官は全権を譲渡されたことになります。」
「――ッ!」
悪びれることなどしない。大将を前に毅然と堂々と肩をすくめてみせる。
「もうすでに貴官の軍令に基づき移動が始まっている。その軍令が、貴官の作戦立案に基づく部隊配置というのなら、それは実質―――!」
「ええ。本官が軍令を布告してしまった以上、総軍はそれに従うしかないでしょう。ですから…――必然的に、総軍は本官立案の作戦に則ることになりますね。」
「その意味がわかっているのかと聞いておるのだッ!!」
ダァン、と黒木大将は机に拳を振り下ろす。
「たかが中佐が、それも誰とも合議せずただ一人の想定で練り上げた作戦など、信用なるか!!」
「……、たかが中佐、ですと?」
「佐官などまだまだ戦場のことなどわかっておらん!立場を弁えろ!!」
へぇ、と皮肉げに感嘆の吐息を漏らしながら、僕はゆっくりと磯城を指差す。
「そのたかが中佐が一人で練り上げた作戦に、手放しで喜び舞い上がり、光栄がって全指揮権をまるごと放り投げたのは――…貴方がた沿海州総軍ですけれど?」
「「「―――ッ!!」」」
磯城は顔を真赤にして震えながらこちらを睨みつける。
参謀長の藤井少将はそれを遮る、もしくは庇うように話し出した。
「磯城中佐は十分作戦立案の能力があるからこそ、ここに我ら参謀部の一人としているわけだ。貴官は参謀ではない以上、立案力など――」
「立案能力?磯城中佐がなんて仰っていたか思い出してくださいよ。『王道』『テンプレ』『俺の物語』…こんなのに立案力をお求めになるんですか?参謀長。」
「……ッ、誰がこんなのだァッ!!」
磯城が声を荒げた。僕は彼に視線をやって、今までの分を含めて挑発で返す。
「笑わせるなよ。"王道"だか、"お約束"だか、挙句の果てに『俺なんかやっちゃいました?』パターンだと?あぁ、本当によく…見事にやっちゃってくれたとも。」
敢えて、攻撃調で磯城へと語りかける。別に今更僕が何を言おうとも、磯城に自省する気がさらさらないので何の意味もないのだが、わざわざこうする理由は一つ。
口先こそ磯城を向いているが、その内容を聴かせる先は――むしろ、沿海州総軍の将校たち。
磯城にすべての業務を無責任にもぶん投げた大間抜け共に、まず、その責任を自覚させねばならない。
「『英雄ノ凱旋』により仙鎮は半壊。日清戦争の総戦死者数を一日で更新してくれた果てに、肝心の防衛は失敗だぁ?…――本当にやらかしてくれたなぁ。」」
磯城はガァン、と机を殴った。
「てめぇいい加減にしろよ!!俺は枢密院の人間なんだぞ!!」
「……その通りだ、初冠即応集団長。」
ふとそこへ、参謀次長の藤井少将が言葉をかぶせた。
「仮にも
「枢密院の人間は、全能であると?」
「…貴様、我々を維新に導き給うた英傑たちの実力を疑うつもりか??」
「ええ真っ向から疑わせていただきますとも。」
「ッ!この恩知らずがァッ!!」
俯きながら、僕は静かに自身の軍服の胸元へと手を伸ばす。
そこに鈍く輝くは、北洋の翠星。
永遠に忘れることのない、『英雄』どもに強いられた代償。
特殊勲章で知名度が低いとか、その存在を知っているほうが珍しいとか、そんなのは関係ない。北方戦役総戦死者102名。報われなかった、屈辱の怨塊だ。
「なら、この勲章はなんですかッ!」
さぁ、徽章を撃ち鳴らせ。
「なんだ、それは……??」
藤井少将の困惑をよそに、長年当たることのなかった光に照らされ、ようやく、燦燦と煌き出すその勲章こそ。
「北方戦役の忌まわしき遺産――、
「すい、ほく……?」
「な、なんだありゃ…!?」
「金鵄勲章とは違うのか…?」
「…どうせおもちゃだろう、下らん。」
司令部に困惑が走る。
ただ、一人だけ黒木大将だけは、驚愕に目を見開いていた。
「な―――!ど、どうして貴様がそれを持っている!!?」
「し、司令…?あの勲章についてなにか――」
「よく知っている!オレは死ぬほど憧れた!!」
動揺走る司令部に、彼は震えながらも語りだす。
「戦功勲章である金鵄は、戦時布告下での戦闘による功績による場合、としか定義できていなかった…。結果、想定外の宣戦布告ナシの交戦となった北方戦役での戦功褒章で、特例としてこの翠北章が生まれたんだ…!」
「え?げ…現在の褒章は非布告下でもできるはずでは…?」
「当時の話だ!だからこそ、この翠北章が受勲されたのは北方戦役が最初で最後。故に――これは、北方戦役で決死の活躍をした2人の烈士しか持たない筈の、『奇跡の勲章』なんだ!!」
2人、という言葉に手が止まる。
僕以外の受勲者がいたことを初めて知った。意外だった。
いいや、僕が傲慢だっただけか。居ても何らおかしくなかろうに。
黒木はその手を震わせて、僕の胸元を指差した。
「―――なぜ貴様が、それを持っている!?」
面と向かって、毅然と告げる。
「北方戦役は地獄でしたよ。遠くここの比じゃない。だからこそ――僕ら北鎮軍人を裏切り、どん底に突き落とした枢密院にだけは、絶対に屈さない……!」
圧巻に呑まれる司令部に、今再、北天の翠星を突きつけて。
「この『奇跡の勲章』は僕らが被った屈辱そのものであり、
枢密院への抵抗の灯火なんですよ。」
「「「………ッ!」」」
「それが土台に在りながら、今回のあの磯城の体たらく。『英傑』?そんなもの信じられますか。連中に身を任せるだなんて考えるだけでも吐き気がする。」
そう言っておきながらも、僕は溜息をつく。
ここまでしないと、人々に刷り込まれた『枢密院は英傑である』『それゆえ我々が頑張ろうが枢密院には届かない』『我々は枢密院に従ってさえいればいい』とかいう呪いを解くことができないのか。
「いいですか、皇國枢密院という組織は英傑でも天才でも人知を超えた雲上の存在でも何でもないんです。連中なんぞ皆さんが考えているそれより遥かに普通ですよ」
「……なにを根拠に。」
「『明二四年動乱』」
「ッ!」
黒木大将が俯いて震えながら言葉を紡ぐ。
「枢密院の作戦立案は、絶対じゃない、だと……。」
「当然でしょう。連中は神などではない。」
「っ――なら、我々は一体何に頼ればいいのだ…!!」
その言葉を聞いて僕は天を仰ぐ。
英雄という虚像は、将校たちの思考力までもを腐らせるのか。
「大将閣下は、また頼るおつもりなんですか?」
「………?」
「貴方がたの首より上は、何のためにあるんですかッ!」
思わず、そう嘆いてしまう。
皇國陸軍は、その本質は――14年前の山陽道戦争の時の鎮西軍司令部から何も進化を遂げていなかったのか。
だからこそ僕は、あの言葉を吐き捨てる。
「大将閣下は枢密の傀儡であせられますか?」
眼前の大将の姿は、そっくりそのまま、かつての大山巌であったから。
あの時の前線の様相と、全く同じであったから。
泣きたくなるくらい、なにも成長していなかったのだから。
「沿海州総軍は、自力で作戦立案もできないんでしょうか??」
「馬鹿にするなッ!!」
ガタンと音を立てて勢い良く藤井参謀次長が立ち上がる。
「中佐如きが知ったように作戦立案を――」
「なら参謀部は本官の立案した作戦に対する修正指摘など余裕と?」
「当然だ総軍参謀部を舐めるのもいい加減にしろッ!!」
その言葉をしっかり聞いたあと、僕は勢い良く机に書類をバァンと叩きつけた。
「ならご指摘賜りましょうかッ!!」
作戦立案書。
磯城が指揮する隣で書き上げた、事実上の代替案だ。
在ウラジオストク総戦力
◎第1軍【大阪鎮台 / 第十一師団】
◎第2軍【近衛師団 / 仙台鎮台】
◎増強即応集団【『桜花』/ 第1焼撃大隊 / 第3焼撃大隊】
制止されぬうちに、正方卓の上に広げられた地図のうえに並べられた駒へと、即座に手を伸ばす。
「さて。英傑とやらに全てを任した結果、このウラジオストクは咸鏡本線を寸断されて4個師団と1個集団が完全に孤立状態にあります」
「ッ、嘘を吐くな、『平成人』。なにも解ってねぇくせによ…。じゃぁあの海は、あの港はなんなんだよ?」
「日本海だな。水平線の向こうは本土だ」
「ほら見やがれ!何が包囲だ、補給線は通って――」
「コンテナを積み上げる設備がウラジオストクの何処にある?」
磯城の動きが止まる。
港があろうと、物資を揚陸できなきゃ意味がない。
「そもそも。皇國の国力は限界に達しているんだ。先月末の時点で砲弾枯渇まで60日だから――あれから一月が経つ今、タイムリミットは残り約30日。」
総軍司令部の壁に掛けられたカレンダーに、運命の日付を書き込む。
敗北必至の期限は、3月26日。
そう可視化して、ようやく司令部は現状認識がなったようだ。
「…っ!継戦限界は、ここまで早く――!?」
「開戦からかれこれ累計総数200万を敵に戦ってきたんです。とっくに限界ですよ。正直、残り一月では反攻どころか、敵攻勢を凌ぎ切ることすら難しいでしょう。」
「―――ッ!」
「ですから、リミットを延長させなければ非常に不味い。」
「は…?延長、だと?」
そんなことが出来るのかと疑念の声を上げる黒木。
「あるんですよ。皇國を延命させる
―――――――――
『日清戦争時の旧型銃と、猟銃。酷いものでは…、刀剣や竹槍まで。』
「……ッ」
時系列は一度、令嬢殿下との電話連絡まで巻き戻る。
殿下から聞かされた逼迫する内地の様相に、僕は先月の最前線の姿を重ねていた。
「この状態で、松花江のような大規模会戦をやった場合…」
『持ちませんわ、ええ。持ちませんとも』
強い口調で有栖川宮は否定する。
『迫撃砲弾や石油、火薬、6.6mmの銃弾ならともかく…。大口径砲弾をポンポン産み出せるほど皇國の製鋼は整っていませんもの。』
八幡、姫路、川崎、室蘭といった高名な鉄の都がフル稼働しても、その生産限界は年産38万トン。史実の年産たった3万トンよりかは遥かにマシだが、それでもロシアの年産220万トンには遠く及ばない。
火薬生産量で言えばハーバー・ボッシュ法を世界で唯一手にした皇國は、ロシアの400倍の生産量を叩き出しているが、残念ながら硝安みたく水と空気から鉄は、創り出すことが出来ないのだ。
『やはりこの場合…、限界は60日ですわ。』
「二ヶ月…。バルチック艦隊来る前に、陸上戦線が決壊ですか」
『重砲を使わないならば、多少は持ちこたえることが出来ますけれど…』
「重砲を、使わない…、ですか。」
『けれど、重砲を使わないで100万に達する敵軍を迎え撃つ、だなんて……』
その言葉に、ふと手が止まる。
重砲を使わないで済む戦場――?
脳裏をよぎる、『大戦』の分水嶺。
赤旗と鉤十字入り乱れる地獄の惨景に、可能性を。
近接戦闘。
明確に存在しない前線。
100万を同時相手しなくてよい正面幅。
ほぼ機能しない攻勢側の事前の作戦や兵站。
攻撃側の兵力逐次投入を誘発させる環境。
「ッ!?」
衝動的に机上の地図を覗き込んだ。
思考を研ぎ澄まして演算をフル加速させる。
『初冠中佐?』
「………」
殿下の言葉も耳に入らない。
五分、十分。いや、一時間は経っていたかも知れない。
気づけば電話はとっくに切れていて。
窓の外に高く上がっていた太陽は、気づけば茜色に西空を染めていた。
「蕗は…未だ死なず?」
目を見開いて、そんな言葉が漏れた。
暗雲が去っていく。
濃霧が開けていく。
思考回路が――急速にクリアになっていく。
「―――見つけた。」
見えたのだ。
果たしてそこに、たった一筋の光明を。
この敗北寸前の戦況をひっくり返す、起死回生の一撃が。
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