沿海州総軍

明治38(1905)年1月28日


「…沿海州総軍、か。」


あまり好きな響きではない。

なにせ、例の件が尾を引きに引いてここに至るのだから。


「装甲車は?」

「全車順調よ。この緯度まで下がっちゃえば氷点下20度なんてそうそう行かないし、ゴムまわり含めて不具合はないわ」

「…よし」


氷雪の松花江よりかは寒さも幾分和らぐ沿海州、全快した装甲車列がウラジオストクへと到着したのだった。


「で、これからどうするのよ」

「山積みの仕事を片っ端からこなしてく」

「なにやるわけ?」

「いろいろ」


裲は不満げにはぁ?、と言うが、本当に多種多様の課題が鬱積しているのだ。


「手始めは撤退を沿海州総軍に呑ませることからだな」

「…待って、まだ話通してないの?」

「満州総軍と沿海州総軍は別々の軍集団だぞ?二軍に命令できるのは参謀本部と大元帥陛下だけで、僕ら満州総軍の決定を通すには沿海州軍の合意を得なきゃいけない」


事特に、今次回送は沿海州総軍を解体・併合するようなものだからな。


「参謀本部使えばよかったじゃない」

「あのなぁ…。僕が参謀本部にコネがあるとでも?」

「ありそうでしょ」

「あるわけないだろ」


何を根拠にそう無垢に首を傾げられる?


「それに参謀本部や軍令部を隷下に入れる大本営には枢密院戦争指導部がひっついてんだ。下手に話を持ってって枢密による戦争への直接介入を招いても困る」

「ふーん」


それに、と言いかけたところで、向こうの壇上から声が届く。



「諸君――ようこそ、英雄のお膝元へ。」


中央即応集団『桜花』のほか第1・第3焼撃大隊を含めた、満州戦線からはるばる到着した全軍。沿海州総軍の代表として歓迎の演説をする磯城は意気揚々だ。

兵士たちの反応は2つに別れる。一つは枢密の英傑として熱狂的に士気を上げる者と、もう一つはしきりな『英雄』意識に嫌気を差す者。前者が大半ではあるが。


「目立ちたがりが露になってるぞ…」

「あんた聞かれるわよ、黙っときなさい」


裲に注意された瞬間、磯城がこちらを指差して咆哮する。


「おい初冠少佐!!無垢な女性にちょっかいを出すな!醜いぞ!!」


突如、全軍の前でそう糾弾された。


「軍規により猥褻行為は禁止だ!!俺が止めるしかないようだな…ッ」


磯城はそう言って朝礼台を降りる。

裲がすかさず呟く。


「えっ…なに?あたしなんかやっ……」

「おい裲黙れ…!なんかあいつ歩いて来てる――」


大股でこちらに迫り、僕の襟首を掴んで吊るし上げた。


「俺のハーレムでも見て嫉妬したのか?けれどな、嫌がる女性に話しかけるのは頂けないな…。現実を教えてやる、てめーみたいな奴に懐く女性がいるわけねぇだろ。」

「はぁ…、」

「勘違いすんな気持ちわりぃ…、てめーは俺にはなれねぇっつってんだろが」

「はよ朝礼台に戻れ。予定が遅れてる」


淡々とそう告げると、磯城は舌打ちする。


「誰のせいだと思って…、……っ!」


彼は裲を捉えた瞬間、僕への非難を打ち切った。


「怪我はないかい?こんな穢らわしい奴に付きまとわれて、さぞ嫌だったろうね」


思わず二度見する。


「はぁ…。」

「でも大丈夫だ。軍参謀として、君の叫びを見過ごすことはないさ。俺がいつでも、守ってやる」


困惑の声を漏らす裲に磯城はそう続けた。


「何かあったら、俺に話してくれ。絶対力になってやる。それが俺だ」

「は、はい…」


彼はそう言って裲の首筋に手をあてる。暫くしてからおもむろに踵を返すふりをして、軽く裲を振り返って言葉をかける。


「何もなくても、俺に話したい時は――気軽に話しかけていいからな。」


そう言って、ゆっくりと朝礼台に戻っていった。

その後、磯城は激励を幾つかまくし立てた後、別の参謀が歓迎の式辞を述べ、その長い挨拶はようやく終わる。




「な、に…?」

「…まぁお前目立つもんな」


靡く銀髪、端正な顔には翠色がかった銅の瞳が輝く。

スラヴとアイヌの2つの血を引いたその容姿は、否応なく周囲の目を惹くのだ。

僕も北湧別の山中で出会った時は、最初、精霊かなにかが舞い降りたのかと勘違いしたものだ。異世界召喚特有のファンタジー来たかと期待したんだけどな。


「今の…、」

「枢密院英雄、逆行者だよ。沿海州総軍の参謀長をやってる。陸軍中佐だ」

「…待って。なんて?」

「陸軍中佐だ」

「は?」


そう、階級は中佐。

総軍参謀長にして中佐なのだ。


「児玉総軍参謀長って…」

「陸軍中将だったはず。」

「なんで沿海州総軍ここじゃそんな人事が通るのよ」

「通したんだよ、皇國枢密院が。」


枢密院の認識としては、バルバロッサの最終段階で沿海州を主戦場に熾烈な攻城戦が繰り広げられるはずだった。そうして電撃戦を完遂、ウラジオストク陥落により戦争終結――という当初の戦争展望に従って、沿海州総軍に枢密院直属である逆行者を"総軍参謀長"として送り込んだのだ。


「まぁ、前年の戦争計画の名残みたいなもんだ。」

「なんでそれが今も残ってんのよ」

「さぁな。もしかしたら…戦場認識が違うのかもしれないしな」


前線を飛び回った僕らには、満州総軍がロシア軍の猛反攻の矢面に立たされているように見える。しかし、ロシア軍の最終目的がウラジオストク奪還である以上、沿海州が最後の決戦地になるようにも見える。

枢密院がウラジオストクでの決戦を考えていた場合――磯城が沿海州総軍に残っていても、おかしくはないのだ。


「……そうでないことを、祈りたいけれど。」


なにせ僕らの仕事は、沿海州を放棄させることだから。



「英雄閣下が来てくださってるんだ、負けることはないべ」

「だな。敵軍が可哀相だ」

「俺らは勝ち馬ってか、枢密院英雄さまさまだぜ…!」


ガス燈並ぶ石造りの街道を行き交う沿海州総軍の兵士たちから漏れ聞こえる、そんな言葉の数々。僕はその様を振り返りつつ、呟いた。


「なにせ、ここは…僕らにとっちゃアウェーな空間らしいしな。」




・・・・・・

・・・・

・・




ポクロフスキー大聖堂。

紺碧のドームを双璧にして、中央に聳え立つ黄金の大尖塔は、2年前に落成したばかりの紛うことなきウラジオストクの象徴であり、誇りであった。

――その先端に、皇國旗が翻るまでは。


今や傾く尖塔に棚引く十六条旭日は、その写真が今や世界各国のニュースの一面を飾るほどには皇國の勝利を強烈に印象づける光景であった。


ここに、皇國陸軍沿海州総軍の総司令部が置かれている。


「ずいぶんと贅沢な御部屋だな」


電話器並ぶ大理石製の優雅な机の向こうには、金銀煌めく装飾の施された大司教座に磯城がふんぞり返っていた。


「だろうな。お前みたいな一介の部隊長と『総軍参謀長』じゃ、格が違う。」

「なら、そんな『英雄様』に頼むことにするか、満州戦線を。」

「…なんだって?」

「満州だよ。こんな後方で遊び回ってるより前線に出て戦果を立てたいだろ?」


それを聞いた磯城は、はぁとため息をつく。


「くくっ、情けねぇな。こうして結局…、俺に縋り付いてきたってわけだ」

「縋り付く?」

「要するにお前、逃げてきたんだろ?」


彼はくつくつと肩を震わせた。


「自分は本気を出したら"主人公"になれると勘違いして、自信満々に出撃。で、本物の砲弾飛び交う戦場を前に怯えて、震えが止まらなくなって――敵前逃亡。」

「……は、ぁ?」

「挙げ句のこのこと逃げ帰って来て、"自分が突き放した"はずの本物の英雄に跪いて命乞う…。恥ずかしくないのか?」


ため息をつく。

もういい、この際どうだっていいのだ。


「もうそれでいいよ。で、やってくれるのか?」

「まずは俺の前で、床に額を打ち付けて許しを乞えよ。」


聞こえないように舌打ちをしつつ、前へと進み出る。


「三跪九叩頭って言ってな。朝鮮人の王が二千年間中国人にやらされ続けた隷属の儀礼だ。特亜同士の野蛮な貶し合い、見ててこれほど面白いことはない。

 …――お前にぴったりだ。」


特亜だかなんだか知らんがお前のほうが遥かに野蛮だよ、と言い掛けて口を噤む。戦局が掛かっているのだ、僕の三跪でどうにかなるならこれ以上のことはない。


とはいっても抵抗感はあるものだ。

ゆっくりと膝を折り曲げ、地に手をつく。


「ちゃんと叩きつけるんだぞ?俺の前に、屈服と謝罪の印として。」


一発目。

額に鈍痛が走る。


「…ッ、」


磯城が口を開く。


「"私、初冠藜は今までの全ての過ちを認め、ここに赦しを乞います。あぁ皇國英雄様、どうか大いなる愚か者に御手を差し伸べ下さい" ――さぁ言え。」


「ってめ…」

「復唱!!」


パァン、と両掌の音が大きくドームに反響する。


「"今までの全ての私の過ちを認め、ここに許しを請います。…あぁ皇國英雄よ、どうか大いなる愚か者に御手を――」


「やるわけがないだろ」


磯城は一蹴した。


「…はぁ?」

「俺は二度とお前なんぞに助けをやらねぇよ。開戦前の皇國枢密院で、お前は俺が与えてやった最後のチャンスを破り捨てたんだからな」

「あの屈辱をやらせておいて、…これだと?」

「泣きわめいても遅いぜ。全てはお前の過去の行動の結果だ」


拳を握りしめて震わせる。


「連中の最終目的地はここなんだ。満州総軍の強固な防衛線を満身創痍で突破して、はるばる此処へたどり着いた敵を、華麗に介錯してやるのが英雄ラスボスの役目だ。」


拳を作り、低く唸る。


「ッ…、ゲームじゃねぇんだぞ。これは」

「ゲームだよ。壮大な英雄譚の、な。

 その最終決戦の地こそがここ――ウラジオストク。」


彼は誇らしげに地図を指し示す。


「枢密院から直接指定を受けた、勅令決戦場だ。」



◎ハルビン

____________

大興  平原 老爺嶺

安嶺▲::::▲▲▲:▲

▲▲▲:◎:▲▲:湖:▲

▲▲\__▲:⑤▲::▲

▲::::::▲▲:⑥

▲::④:▲▲▲▲

▲:::▲長▲▲  日

::③▲▲白▲   本

 :▲▲:▲▲▲  海

 ②  :①▲▲▲

      大 韓

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

皇國陸軍 戦略要衝

①平壌 ②大連 ③奉天

④長春 ⑤鶏西 ⑥ウラジオストク



「前線から遥かに西へ突出。政治的プロパガンダのためだけに占領した、どう考えても防衛に不向きなウラジオストクを死守する、と?」

「何が突出だよ、ウラジオストクはむしろ皇國に近いだろうが」


磯城は呆れたような息を吐く。


「地図も理解できないのか、平成人は。日本海を隔てた向こう側はすぐウラジオストク、そこから老爺嶺と長白山脈を越えると満州平原だ。距離的にどっちのが守りやすいかは明白だろうがよ」

「現在満州戦線はズルズルと後退してるんだよ。松花江ラインを抜かれた場合、鶏西回廊を失い、ロシア軍は満州平原から鶏西回廊を通ってハンカ湖湖畔、沿海州へと出ることが出来る」

「だからなんだってんだ?」

「ハバロフスク方面の北から来るのと、鶏西回廊を通って西の湖畔から来るのを同時に相手するんだ。多正面作戦になるんだよ。」


僕は足を鳴らす。


「ウラジオストクは南下政策の拠点だ。南に対する防備は固かろうとも、北――本土側に対する防衛など、考慮されてすらいない。…とんでもない防衛不利なんだよ」

「防衛不利?…くくっ、所詮は都市設計の話だ。既存の地形を活用すれば可能性は無限大なんだ。俺の実力にかなえば、一月経たずにロシア軍60万人を撃滅することが出来る!」

「たった4個師団、6万人でか?」

「お前がどんな口上で俺の足を引っ張ろうともムダ。ウラジオストクはロシア本土より皇國本土のが近いという地理条件は揺るぎはしない。」


その言葉に一つ息吹き。

バッ、と懐から路線図を取り出す。


「戦争は鉄道線の上に維持されるんだ。」



路線図____

   長春

   ┃

  奉天

 / ┃ ウラジオ

大連━┫  |

  新義州 |

    \ |

     漢城

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



「いくら直線上でここが帝都に近かろうと、補給が繋がってなきゃ意味がない。コンテナ取扱の出来る大規模港湾は大連と新義州だけで、長春以下満州戦線が複線の重軌条で支えられているのに対して、ウラジオストクは…もう、わかるだろ?」


漢城でスイッチバックまで挟む、長く脆い単線がウラジオストクを辿々しく維持しているのみ。


「新義州ウラジオストク間、営業キロは漢城経由で1000km以上。大連長春間の600km強の2倍弱。ウラジオストクで決戦を行う場合、この突出した長大な鉄道線を全線守り続ける必要がある。ただでさえ広大な満州戦線を抱えている皇國陸軍に、それへ割けるほどの戦力はない。」


「ふっ…。なら、どうするんだ?」


半笑いを浮かべた磯城のその問に、僕は溜飲を呑む。

磯城に退けをとったわけじゃない。

これは、決意を口にするための覚悟の時間だ。


少し間が空いた後に。

僕は、静かにその結論を吐く。


「――ウラジオストクを放棄する。」






「ウラジオストクを、捨てる、だと?」


磯城の顔から笑みが消える。


「ああ」


一切引くこと無くそう頷く。

磯城はやれやれと首を振った。


「お前には…、その結論を自ら出さざるを得ないほどまでに、戦況を悪化させた自覚というものがないのか?」

「……っ、それはお互い様だろう」


奉天で敵司令部の逃走を許したのは、確かに僕にも責任の一端はある。

しかし。ハルビンへの司令部追撃を拒絶したのは、どこの誰だと言うのだ。


「くくくっ…。"お互い様"という語を使って責任の所在を有耶無耶にするつもりか?ちげぇよ、全ては満州戦線に出ていたてめーのせいだ。」


トントンと机を指叩き、彼は続ける。


「どうも『平成人』の仕事は楽すぎる…、傍から見ててもバレバレだった。」


僕と磯城以外に誰も居ない大聖堂のドーム内に、その声が響く。


「俺のような改変者は、遙か未来50年後のことまで戦略を積んで、戦後を考えて、歴史の流れをシュミレートして、…ここまで大変なのに、お前は目の前の戦場しか考えなくていい。」


ふと、気配を感じる。

僕ら以外誰も居ない空間のハズなのに。


「お前は、さっきみたいに女性軍人にセクハラでもしながら『今』をどうにかすることだけを考えていればいいんだもんな、楽に違いない。 …なのにこの有様。」


それも複数、小隊規模の気配。

身辺警護のつもりにしては、多すぎではなかろうか。


「変だとは思ってたんだよ。どうもおかしい。――そう思ってたら、コレだ。」


磯城はニヤつきながら迫る大量のロシア軍の駒を親指で指す。


「お前、サボったんだよ。大事な大事な前線指揮で手を抜いた。だからどこかで狂って――ウラジオストクで終えれたはずの戦争が、続いてるんだよ。」


パチン、と彼は指を鳴らす。


ガタンと音が響き、壁が裏返ってたちまち小隊が現れる。隠し扉だと?

そう驚愕する暇もなく、瞬く間に小隊はドームの内屋両側と後ろの扉へ展開。

僕一人に対する抑止にしては些か過剰ではなかろうか。


「はっはぁ、つくづく失望させられる。『今』を相手にするだけなのにこのザマか。時空という次元まで加えても完璧な所業をこなしてみせる『枢密の英傑』の俺と比べて、余りにも見窄らしく低能だ…。」


嘆かわしげに大仰な溜息をついてみせる磯城。


「ウラジオストクは『英雄の陥落せしめた皇國勝利の崇像』。ここを落とされることは、『英雄の敗北』を意味するに他ならない。すると、忠誠なる愛しい皇國臣民はどう思う? …総軍司令。」


磯城に突如呼ばれた総軍司令。

展開した小隊の間から進み出て、彼はその姿を露わにする。


「はッ!継戦意欲は一気に削られ、厭戦気分が速やかに蔓延り…。皇國の戦争継続はほぼ不能になるでしょうな。」


その態度に目を見開く。

沿海州総軍の司令といえば、黒木陸軍大将だったはず。

彼が――襟元に大将章を提げた将官が、枢密院議員とはいえ一介の中佐に対して頭を下げているのだ。


意味がわからない。

どうなっているんだ、ここの指揮系統は。


「そう。そのとおりだ。」


混乱する僕を横目に、磯城は平然と言葉を述べる。


「皇國民族の精神的支柱たる、英傑が負けを晒すわけには行かない――」




「ッ、」


少し強く啖呵を切る。


「その場合、満州戦線を全線で放棄することとなる。大連旅順の失陥は避けられないばかりか、新義州までもを危険に晒し、物量攻勢で鴨緑江を逆突破された場合朝鮮北部の喪失までも免れない。補給線の根本を絶たれたら、残すは死あるのみだ!」

「ウラジオストクは敵軍の最終目標地だ。それをみすみす譲り渡す大愚か者がどこの世界にあるってんだ?教えてくれよ、なぁ?」

「だから、その維持が可能な余力を皇國は残していないんだよ…!」

「余力がないなら工夫をすればいい。なにせ最もそれに長ける存在――知性の牙城、皇國英雄がここにいるんだからな。」

「工夫、だと?」

「俺は――…満州も、ウラジオストクも、どちらも守り抜く。」


僕は、声も出なかった。


「どっちか見捨てるなんてことは、英雄のやることじゃない。」


「…流石は、我らが大英雄。」


黒木大将の呟きに、磯城は目を細める。


「二つ選択肢があります。愚かな方を取るのはただの痴呆で、賢明な方を取るのは凡人です。そして―――のが、英雄だ。」


奥歯を噛みしめる。

戦場をなんだと思っているんだ。


「そんなのは理想論だ。補給を絶たれた軍隊がどうなるかなんて、ガダルカナルやインパールが最も残酷な形で証明している」

「だから言ってるだろ?どちらも守ると。正念場で、こうして到底選び難い二択を迫られるのは主人公のテンプレだ。そうして…両方を掴み取るのも『主人公』なんだ」

「土壇場なら何でも出来るとでも?んなわけないだろ…!」


極北の大地で、その土壇場で、僕ら北海鎮台は全てを失ったのだ。


「俺は、枢密院議員・皇國英雄――"全てを導き給う者"。」



「流石枢密の英傑だ…」

「言うことが違う…!」

「これが…皇國英雄!」


小隊から、…いいや、おそらくこの沿海州総軍の総軍司令部の将校たちから、次々と陶酔の混じった感嘆が漏れ聞こえる。

舐めていた。これが英雄バイアスか。

この沿海州総軍は、あまりにも満州総軍と違いすぎた。


「さて…。この期に及んで、ウラジオストク放棄を叫ぶか?」


磯城は、沸き立つ司令部将校の中で僕に問う。


一切の躊躇もなく、僕は答える。


「当たり前だ。軍人の義務として不可能は不可能と言わねばならない。

 本官は、ウラジオストクからの全軍撤退を―――進言する。」


「…そうか。」


そう答えたのは磯城ではなく、黒木総軍司令だった。


「非常に残念でやまない」


黒木大将の言葉に、後座で腰掛ける磯城が深く笑う。


「明治38年1月28日、午後1時42分。

 敵前逃亡と敗北主義による利敵行為の容疑で、貴様を逮捕する。」




「は???」


困惑する間さえなく、僕の周りを将校たちが包囲する。

その腕には「憲兵」の腕章がちらほら。


「無能の役替りとなって、皆のために自己を犠牲にするのも『英雄』の役目。

 ……仕方ない。俺が直接前線を率いてやる。」


オォぉッと沸く沿海州総軍。


その中央にて、僕は手錠を掛けられた。


「ッ、こんなことが許されるとでも思ったか!?僕は満州総軍直属だぞ、指揮系統を超えた越権行為だ!断固抗議する!!」


「勝手にほざいてろ、犯罪者が。

 これより俺が――ウラジオストク攻防戦の指揮を執る!!」


万歳三唱、拍手喝采。

英雄の戦場降臨に、歓迎の意を全身で示す沿海州総軍。


「あ…、あぁ……。」


僕は、言葉にならない声を漏らすしかできなくて。

ここに――破滅への行進が始まった。




始まってしまったのだ。




―――――――――

カクヨムコンの上位に今からでも滑り込みたい!

確か今はジャンル別で45位なんですけど、どうにかして20位以内入りたいんです!

拙作ですが、どうか…作者の執筆意欲のためにも…星(レビュー)を下さい……!

乞食みたいで本当申し訳ないんですけれども、どうか皆様の力を貸して下さい!


読者の皆様には普段から支えて頂き、感謝の念に堪えません。

頑張って日露戦争編を終結へ執筆していきますので、これからもどうか拙作を宜しくおねがいします。

占冠 愁

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