1904年バルバロッサ作戦『裂号』
「伊地知中将…」
「早く行け。乃木大将から直々に命ぜられた大役だろう」
「旅団長は伊地知中将ですよ?」
「作戦はほぼ全て貴官の立案だろう」
「ですが…」
「ほれ、総軍司令官殿が壇上を空けたぞ。貴官の番だ」
伊地知に背中を押されて僕は壇に進む。
一気に集う視線。
直属の上部機関たる満州総軍。
総軍司令官、大山巌陸軍大将。
総軍参謀長、児玉源太郎陸軍中将。
第3軍司令官、乃木希典陸軍大将。
第4軍司令官、奥保鞏陸軍大将。
以下、高級将校多数が列席する。
(本当に
将官章の集う中で一人だけ目立つ少佐章。見窄らしいったらありゃしない。
ただ、一つだけ胸にかかる勲章だけは負けてない、と激励して前に進み出る。
「装甲戦闘団『奔星』、副団長の初冠少佐です。作戦概要をご説明します。」
黒板の前に立ち、チョークを取って大雑把に地図を書き記していく。
広島大本営、九州、朝鮮半島、旅順、遼東半島。その北の付け根の営口、それより20kmほど内陸にここ海城を示す。ここまでは皇國陸軍占領下。
続けて遼東半島から清鮮国境に沿って、高く険しい長白山脈をウラジオストクの手前まで伸ばし、営口と海城から、長白山脈の北に接して広がる、遠大な満州平原を描いていく。
::::::▲▲▲:▲
平:::::▲::◎
::::▲▲:▲
原::▲山▲▲
::▲▲脈▲
遼東▲:▲▲▲
旅順 朝鮮▲
https://26418.mitemin.net/i452603/
チョークを置いて、手についた粉をパンパンと払いつつ、将校たちへ向き直る。
「現下、皇國陸軍の戦線は、右翼が山脈、左翼が平原に接しております」
戦略図を指し示す。
「ここ海城を起点に東に鴨緑江まで、長白山脈を分断する戦線右翼ですが、地形が悪すぎて大規模な行軍は出来ません。沿海州総軍の第1軍が山岳部で膠着状態を維持、第2軍が北の麓の丘陵部を歩兵進攻、順次北を目指します」
まぁぶっちゃけ磯城の件を抜けば、沿海州総軍が管轄する『東域戦線』はそこまで重要ではない。大切なのは坑口たりえる『西域戦線』だ。
「我らの突破口は言わずもがな戦線左翼。ここの敵防衛線を木っ端微塵に粉砕し、平原へと急速に展開するのが戦略趣旨となります。」
海城より西に渤海まで、陸上を塹壕線が走る戦線左翼。コサック主体のロシア軍20万が、騎兵突撃を今にも待ち構えて集結する主戦場だ。
今時戦争で動く戦線は実質、海城以西のたった50kmだけと見ていいだろう。
「現在、敵軍は…いえ、世界さえも『皇國陸軍は攻勢限界点に達した』と目しています。敵軍は西域戦線の正面に騎兵を主軸とする大兵力を展開、攻勢準備を行っていると見て違いないでしょう」
そこで、将官の一人が手を挙げた。
「根拠は?」
「陸軍航空隊の偵察飛行船です。大規模な騎兵突撃陣が数万単位で戦線に出現しつつあるようで、次々と弾薬物資が前線に送り込まれているみたいです」
「……ほう、上空から見下ろすとな」
「航空偵察――敵軍は対処のしようがありません」
少なくともこの時代では。
「くくっ、空からは丸裸というわけか…」
「そういうわけです」
そう返すと、満足げに将校は頷いた。
僕は戦略図に視線を戻す。
「さて。西域戦線の正面に展開、騎兵突撃陣を敷く敵軍の戦力になりますが――敵の極東兵力総数の8割に達する、20万の大兵力です。」
「なぁ…っ」
「に…二十、万…!」
「皇國の総兵力さえ超えているではないか!」
将校たちは愕然とした。
現在皇國が満州に展開する兵力は18万であり、対するロシア軍は西域戦線だけで20万も存在するのだ。もはや戦力差は歴然である。
「どうするというのだ!敵は世界最強のコサックだぞ?」
「万規模の騎兵突撃、考えるだけでもゾッとする…。」
「突破口と言えど突破方法がないではないか!」
「ええ。ですから突破は致しません」
その抗議に僕は頷いてみせる。
「は、はぁ……?」
僕は黒板へとチョークを取る。
「敵の初動に合わせて展開は3パターンです。
『三号』。歩兵の進発から敵軍の攻撃が始まった場合。この場合は作戦本旨の騎兵殲滅というコンセプトに戻すため、空襲で執拗に進軍を妨害、敵に機動力による空襲回避を狙わせ、騎兵突撃を誘引します。
『二号』。7月に入っても敵の攻勢が行われない場合。これは仕方ないのでこちらから歩兵を陽動で出します。これで敵の騎兵進発を狙います。
そして――『一号』。敵砲兵の進発に始まり、続いて騎兵突撃が行われるロシア軍お得意の定石の反攻戦型が行われた場合。最大限理想的な作戦展開です。」
カタリ、とチョークを置いた。
「…どのパターンも『敵に先手を打たせる』、と?」
「ええ。向こうから先に動いてもらいませんと」
「わけがわからん。20万もの
乃木が説明を求めた。
「いいえ?敵には自滅して頂きます。」
将官たちがどういうことかと、にわかにざわめき出す。
それを尻目に、最前線を示す戦略図の上へと僕はチョーク粉を撒いた。
「まずアンホ爆弾、即ち硝安。これを20t、地面へと散布します。」
「な、なにを?」
「さらにここへ鉄条網を3重に設置しまして――」
展開する第3軍を示す磁石を、500mほど後退させる。
「次第、撤退。」
「「は、はぁ!?」」
「地上最強の騎士たるコサックの騎兵突撃に耐えれるわけないじゃないですか。敵の攻勢に音を上げて師団を後退させるんです」
「最初から勝利を諦めるのか!?」
「この敗北主義者め…!」
「いいえ?」
頭を振って否定する。
「ならどういうことだ。ただ爆弾を散布して後退するのか?」
「ただやみくもに散布するだけじゃありませんよ。鉄条網があるでしょう?」
「…話が見えん」
「敵に騎兵突撃はさせるが、浸透はさせない。」
「待て。…もしかして、狙いは敵の足止めか?」
その問いに頷き、敵20万の示す磁石をチョーク粉の上に置く。
「無数に散布した爆弾の爆発回路を鉄条網に組み込み、敵をその上に留める。」
「――き、貴官、まさか」
僕は笑う。
「お察しの通り、対騎兵地雷原です。」
「じ、らい、だと…!?」
手からパンパンとチョーク粉を払い、壇上に、ザッと両手をつく。
「後退し始める総軍を前に。ようやく俺のターンだ、という達成感と高揚感の中、コサックは――連中が最強たり得る『誇り』の突撃を我慢できましょうか?」
「……ッ!」
「地雷原。アンホ爆薬というあまりに安価で大量増産の出来る硝安あってこその、爆弾の人海戦術です。」
アンホ爆薬の技術を持たない諸外国には、高価な火薬など到底無駄にできない。
「皇國しか打てない一手、皇國だからこそ打てる一手。『
僕は勢い良く、敵騎兵団を示す磁石を指で跳ね飛ばした。
「さて、これでまるまる左翼が吹き飛びます。ここまで第一段階。」
敵の戦線には取り返しのつかない大穴が開く。
もはや此処に至って、ロシア軍に打てる手はない。
「ここから、我ら『奔星』戦闘団が一気浸透します。」
ガタリ、と音を立てて一人の将官が立ち上がった。
輝く総軍司令章。大山巌大将だ。
「ま、待て!装甲車とはいえ所詮は器械だろう?」
「ですね」
「陸戦千年の王者たる騎兵になど、そんな簡単に適うはずがない!」
その意外な発言に、僕は周囲を見回した。
それに頷く者、同意を示す者、結構多い。
はは、そうか。
器械への信頼が未だそこまで高くない、か。
そういう時代か。
「戦場は変わります。」
僕は深く笑う。
「皇國砲兵旅団。主力兵装『三十四年式機動八八粍野戦砲』。砲口径88mm、有効射程9000m。駐退機接続による発射速度、毎分18発。連射力、敵重砲の9倍。」
そのまま右手だけを上に突き上げ、空を指す。
「『制空権確保』。硝安爆弾並びに焼夷弾、場合によっては地中貫通爆弾による猛烈な爆撃。敵重砲を仰角射程外から一方的に粉砕、無効化。続けて敵補給路を、後方司令部を、兵站を、敵戦力を空襲、破潰。」
ダン、と右手を振り下ろす。
「『弾着観測射撃』。上空より極めて正確な弾着位置を導き解析、従来とは飛躍的な精度で継続的な斉射が可能。これを前述の砲兵旅団と連携、共鳴。正面から敵歩兵を連撃で叩く。」
ピリピリと部屋の空気が張り詰める。
「『機械化攻勢』。三三式機銃装甲自動車、最高速度35km/h。
主力兵装『三十式車載機関銃』、三八式実包6.5mm。布ベルト給弾及び
場の戦慄を肌で感じる。
そうだ。これが『機械』の実力だ。
「装甲旅団から放たれる機銃掃射、猛進する弾幕。上空から、射程外から、正面から、猛烈に降り注ぐ火力の雨。戦場三次元展開。敗残の騎兵など、鎧袖一触。」
大山巌は、愕然として固まる。
乃木希典は、ふっと口元を緩めた。
「砲撃速射力9倍、直衛支援火力3倍、移動速力3倍。弾着観測と制空補正を掛けて兵站圧迫を引く。――…以上より導き出される敵陣突破力、81倍。」
「八十、一倍……!!」
児玉源太郎が手を震わせて復唱する。
「この優勢火力ドクトリンを前に、騎兵などもはや前時代の遺産です。」
皇國陸軍を前にして、列強最強の騎兵団が何になる。
粉砕された敵騎兵を火力の嵐で蹴散らし突破。
補給線を粉砕、陣地転換を不能に。
司令部を制圧、指揮機能を不全に。
軍隊の体を成さなくなった敵に、追い越し殲滅と強襲包囲を敢行。
「さぁ、『電撃戦』の開戦です。」
ダァン、と黒板を平手打つ。
「『裂号作戦』第二段階、電撃戦。
敵部隊の地雷粉砕後、本官以下、総軍直属戦闘団『奔星』は、装甲戦力の総力を以て正面に展開するロシア軍シベリア騎兵団10万を撃滅。追随を許さず全速前進、四平街を抜け、電撃的にロシア満州軍総司令部の所在する奉天を占領します。
ここで、消滅した正面戦線から第3軍の歩兵師団を増援投入、その支援と共に第4軍は、敵がいない上流で渾河を渡河します。ここよりトラックで電撃南進、西域戦線の左翼に取り残された敵軍10万の退路を断ち、包囲殲滅。」
これによりロシア軍は極東に展開する20万もの戦力を、ほぼ全滅の形で喪失。満州平原の戦線が決壊するのだ。
「て、敵司令部を、占領……。」
「ただでさえ脆いロシア軍の指揮系統、全滅…!」
発動機を全力稼働させ、史実では1年と20万の死傷者を出して進んだ奉天までの道程を強襲制圧。ここまで10日。
「この時点でほぼ趨勢は決します。あとは敗走するロシア兵への掃討戦を実行すれば良いだけ。…ですが。」
敢えて言葉を切って、笑いかける。
「――それで、『勝利』になりますかね?」
不意を突かれたかのように、将校たちは呆然とした表情をする。
「ふむ」
乃木は自身の髭を撫でつつ頷いた。
「奉天で短期決戦の終結、と。…戦場は満州に始まり、満州に終わるな?」
彼は突然振り返って、児玉源太郎に問う。
「あ、あぁ。…つまり、結局ロシア国外で全て完結することになる、と?」
彼は途中で気づいたかのように、僕へ問う。
それに頷いて言葉を継ぐ。
「あの列強の筆頭、ロシア帝国ですよ?『敗北』を認めると思います?」
「「「………」」」
多くの将校が悟った。
列強が極東の辺境国に負けることなど面子が許さない。史実のように、半端な講和条約を結ばされて戦争を終えるか、最悪は戦争継続だってあり得る。
「そう。奉天で戦火を留めては、折角の好機を溝に捨てることになります。」
「ふむ…理屈は通る。」
児玉はそう頷いた。
それを確認して、僕は続ける。
「奉天から北上し長春を占領。第4軍は長春より放射状に西部満州へ浸透。長春から第3軍はハルビンへ向かいます。可能なら落としてもいいんですが、司令部さえ置かれなければ、戦略価値はそこそこなので出来なければそれでもいい。
…なにより、目的はできるだけ敵残存戦力を北に追いやることでして。
――それによって、東に大穴が開く。」
長春から東に伸びる高原を示した。
瞬間、大山が手で僕を制する。
「待て、早まるな。そこは鉄道が走っておらんぞ?」
「鉄道?」
「鉄道線沿いに戦線を展開するのは戦術の基本も基――」
「我々は機械化旅団ですけれど」
大山は絶句した。
「そう、か……!」
旅団戦闘団は自動車なのだ。
鉄道に乗らずとも、同格の速度で進攻できる。
「『鉄道線を基軸に展開される戦場』は、機械化軍団の前には無意味の概念です。」
チョークで進路を描く。
鉄道線のない高原。普通はそんなところを行軍したりはしない。
だからこそ、敵が予想もし得ない攻撃進路となる。
「長春より戦闘団は、防衛計画が破綻し展開もままならない敵軍を掃討しつつ、ほぼ無血で東進。吉林、敦化と順次陥落せしめます。」
「な……っ」
長春からここまでで既に150km。並行する鉄道線なし。
脱落者は出るし野営もする歩兵行軍では5日の距離。
ただし巡航速度30km/hで猛進する機械化旅団なら、5時間。
この世界の誰もが想定不可能の進撃だ。
「牡丹江、鶏西、下亮子…」
黒板の戦略図の都市に、次々とバツ印を付けていく。
更に奥へと、進撃線を記していく。
「向陽、二人班。かくて満露国境のハンカ湖へ到達――「待て」」
そこまで来て、乃木が言葉を遮った。
「何処まで行くつもりだ??」
周囲を見渡してみると、多くの困惑の表情があった。
ふむ。
もうそろそろ最終目標に気づいてもいい頃だとは思うのだが。
僕は乃木へ不敵に笑いかける。
「――そのままロシア領内へ侵入。」
「な…ッ」
敢えて答えを返さない。
ハンカ湖から南に広がる平原。その先は、日本海。
「ハンカ湖西を猛進、ウスリースクを制圧。シベリア鉄道を分断。」
「は――!」
「ろ、ロシア本土…?」
「なら、まさか…まさか貴官の目指すのは…!」
ここに来て漸く将校たちは理解した。
『奔星』は壮大な戦争を遂行しようとしているのだと。
頬が緩むのを抑えられず、僕は声帯を震わせる。
「くく……、心躍るじゃないですか。かの蒙古より13世紀ぶり。有色人種が、文明の覇者・白人の、それも、列強最大の帝国の本土を踏み躙る、『叛逆』。」
僕は片頬吊り上げて、軍刀をカァンと床に打ち付けて響かせる。
「作戦最終目標―――帝国沿海州・ウラジオストク!!!」
本土、強襲。
「な…ん、だと…ッ!?」
大山が杖を取り落とす。
わななきと緊張が激震のごとく場に走った。
「目標到達のタイムリミットは本年10月、すなわち残り3ヶ月。」
1941年7月、ドイツ軍はバルバロッサ作戦を発動。たった3ヶ月で1000kmを電撃的に前進し制圧、ソ連の首都モスクワに迫った。モスクワこそ陥とせなかったが、一連の戦闘は、史上類を見ない戦術的圧勝であり完封であった。
1904年7月は史実、日本陸軍第3軍が旅順攻撃を開始する月で、幾度も閉塞作戦や総攻撃をかけては挫け、半年もかけて6万という膨大な死傷者を出し漸く辛勝した。
これを同年同月、刻下。機械化軍団を以て、この海城より満州全土で電撃戦を展開、人馬で戦線を支えるロシア軍を、装甲と機関銃、圧倒火力の下に殲滅する。
「海城からたった3ヶ月で801kmを前進。極東ロシアの首都を制圧します。」
伊地知がクスリと笑い零した。
そうだ。この流れは、
「――以上、 "裂号作戦"、秘匿呼称『1904年バルバロッサ作戦』全容。」
「バル、バロッサ…!」
児玉が机上に置いた手を
この名の由来を理解できる人間は、この場にはいるまい。
くつくつと、にわかにそんな笑い声が聞こえた。
乃木だ。
「はぁ――っ…。戦争は、変わったな。」
口角を緩めつつ、しかし僕は頭を振る。
「いいえ。我々が変えたんです。」
「くくくっ……そう言うか。」
「…受動的じゃ駄目なんです。全ての軍人が、能動的にこの変化を捉えなきゃならない。そうでなければ、必ず過去の戦場を引きずる者が現れる。」
それは、かの世界線の『大日本帝国陸軍』であり、日露戦争という過去の栄光に、その精神論にすがりついた幾人もの将校であって。
「時代でも運命でも枢密院でも、他の誰でもなく、我ら『皇國陸軍軍人』が戦場を変える。我らが、普通を、常識を、――世界秩序を覆す。」
東洋人が機械を以て、『白き騎士』を制する。
これはそういう戦争だ。
「くく…、くはははははッ!」
抑えきれなくなったように、乃木は大声で笑う。
「おもしろい」
瞳を爛々と輝かし、乃木希典は身にまとう雰囲気をガラリと変えた。
威厳の第3軍司令から、獰猛なる皇國軍人へ。
「実におもしろい…!」
赫灼の帥と言うべきか。
これが歴史に語らるる陸軍大将『乃木希典』の姿か。
「ほ、報告!陸軍航空隊より報告!」
突然扉が開き、伝令が転がり込んできた。
「航空偵察隊によれば本正午、戦線後方に布陣していた敵軍砲兵部隊が前進を開始、続く騎兵隊も進発準備に入ったとのことです!」
「来たかッ!」
僕は歓喜半分、覚悟半分でそう叫ぶ。
にわかにざわつく総軍本部。
「裂号作戦、戦場想定『一号』の条件に適合!」
通る声で、凛と告ぐ。
児玉が、乃木が、大山が、将校たちが振り向く。
予想的中、最理想的展開。
「大山総軍司令、敵の攻勢開始まで残り7日です!『裂一号作戦』、発令準備を進言します!」
「…ふぅ」
大山は、此処に至ってようやく、軍人らしい笑いを見せた。
「本当に貴官は、異質だ。」
「――とっくのとうにわかってますよ。」
当然と返す。
そんなのは当たり前だ。
この胸元の勲章が、それを示している。
あの屈辱を呑み、ここに立つのだ。
かくて僕は、戦場へと赴くのだと自覚した。
「ふっ…。」
大山は、腕時計に目を落として小さく溜息をつく。
場にいる全将校の注目が集まる。
続いて、すっ、と息を吸い込んで――
「明治37年7月1日21時37分、現刻を以て『裂一号作戦』、発令準備!」
ああ、戦争が始まる。
「全軍は前線へ鉄条網を展開、硝安を散布し爆発回路を敷設、指定の塹壕まで下がって待機、発破と続く反攻突撃に備え! 総員展開!!」
「「「はッ!」」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます