明治版異世界農家 in オホーツク

『青森ぃ〜、青森ぃ〜。長らくのご乗車、お疲れさまでした。函館方面へおいでのお客様はホームをそのまま進み、乗船口のほうまで――…』


夜が明け、早朝。

6時丁度に汽車は青森駅の桟橋ホームに滑り込んだ。


僕は荷物をまとめて列車を降り、腕時計へと目を落とす。


「定刻通りということは…、連絡船の出発まであと30分はあるか。」


僕は急いで青森駅の構内の公衆電話へと駆けた。

受話器をとって、電話交換手に帝都の秋山真之邸へ繋いでもらう。


『―^-―^…はいこちら秋山』

「秋山大佐!?」

『っ、その声は初冠か!今どうしてる?』

「いま青森桟橋です、これから函館へ航路で」

『本当か!ならこちらでも、おい!?やめ―^^―-^…^』


電話線の向こうからドッタンバッタン雑音が響く。

なんだなんだ、襲撃か?


『―^…-^――っ、無事でいらして!?』

「…殿下??」

『ええ、今しがた秋山邸で秋山と伊地知大佐とで対策会議を行っている途中でして』

「3人集まって大丈夫なんですか?一斉に検挙に来たら…」

『大丈夫ですわ。松方蔵相曰く、枢密院は、妥協アウスグライヒを陸軍の人間しか参加していない、と認識したらしくってよ。』

「どういうことです?」

『北方戦役OBの陸軍士官で構成され、参謀本部と伊地知大佐を隠れ蓑として運営されている戦術・戦略評議組織――彼らはこう結論づけた、ということでして』

「なるほど、それで海軍士官の秋山邸を緊急避難場所に」

『次回からは、更に万全を期してわたくしの皇室御用地で開きますわ。』


しかし、そういえば松方蔵相は枢密院議員だったな。

どうにかツテを使えないだろうか。


「松方蔵相を通じて枢密院に働きかけるというのは…」

『…どうかしら』


令嬢殿下は難しげな声を出す。


『松方蔵相は根っからの枢密院議員ですわ』

「……どういうことです?我々に一度手を貸したのに?」

師匠様松方蔵相は枢密院を愛し、枢密院の行く末を誰よりも案じていますの。』


殿下は息を継ぐ。


『そのために…、史実妄信へ傾きかけている枢密院の意識改革を望んで居られるだけで、ゆえに、いい改革起爆剤として妥協アウスグライヒに手を差し伸べていらしているだけですもの』

「なるほど…?」

『ですから、妥協アウスグライヒが邪魔になれば…師匠様は容赦なくわたくしたちを切って捨てますわ。』


息を呑む。

そうだな、その危険性がある。


『けれども今、師匠様にとって、わたくしたちは間違いなく枢密の意識を変革する力を秘めた組織となっていましてよ。そう簡単にはお見捨てにはならないと思いますけれど…、過度な期待は厳禁ですわね』


とすると、彼にはあの15番ホームでの「証人」の役割以上のことは求めないほうが良かろう。


『枢密院の方向性としては、枢密院がこの組織の首班と考えている初冠大尉が追放されたことによって、組織は瓦解するだろう…という見解になっていまして、これ以上徹底して追求することはなさそうですわ』

「ということは、大蔵省の隠れ蓑をまだ使えるということですか??」

『前日松方蔵相と確認を取りましたわ。大蔵省は、当分は妥協アウスグライヒの存在を隠匿するという方向で一致しましたの』

「……ありがたいです」

『ですから、機甲戦闘団から航空隊まで、次期戦争への準備は大蔵省を通じて実行し続けますわ。妥協アウスグライヒは死んでいませんもの、今までやってきたことが水泡に帰すなんてことはにはなりませんわ。』


ひとまず安堵する。

その分なら、次期戦争への計画に滞りは生まれなさそうだ。


枢密院によるこれ以上の追求はなし。

妥協アウスグライヒの生存はほぼ確定で、大蔵省という鉄壁の隠れ蓑のおかげで先日まで討議してきた軍備や経済計画の遂行が厳しくなることもない。


「…なら、あとは僕が開拓を成功させるだけですか」


あのほぼ不可能な条件をどうこうどうにかして、入植先の原野を大都市に変貌させればよいというわけである。

無理じゃね?


「あの…。日露戦の始まる明治37年の頭には帝都に戻ってなきゃだめです?」

『当然ですわ。代わりに誰が満州に行きますの?』

「えっ、つまり…1900年、01年、02年、03年の4カ年で原野を大都に?」

『そうなりますわね。その間には妥協アウスグライヒの立て直しを済ませておきますわ。頑張ってくださいまし』

「??????」


リアル4カ年計画じゃねぇか。

クソゲーじゃん。


『…というのもいささか無謀すぎますわね。安心なさいませ、プランはありますわ。わたくしたちとて無為無策というわけにもいきませんもの。』

「マジすか」

『少し前倒しで実行する形にはなりますけれど…――これから妥協アウスグライヒでお話させていただこうとしていた政策を、貴方の入植地で貴方に試験して頂こうと』

「それは…どういう?」

『"機械化大農法"』


その言葉に、僕は固まる。


「…機械、化??」

『日露戦争前にいくらか進めておこうと思っていました"農業革命"でしてよ。

 どうせならこの機会を活かして、初冠大尉に現地試行をお頼み申し上――』

「ま、待ってください!そもそも農業革命についてご説明を…」


突然言われてもわかんねぇぞそんなこと。

食糧管理制度で安定したんじゃなかったのか?


説明を求めると令嬢殿下は、んっんん、とひとしきり咳払う。


『…皇國の人口は、江戸時代の中期から後期まで3000万人前後と長く抑制されてきたのですけれど、文明開化で西洋的法整備が進められた結果、間引きが厳しく罰せられることで4-7人兄弟の家族が普通になったのですわ』

「はぁ」

『さらに、公衆衛生発達や近代医療導入で子供の生存率が向上、さらに日清戦後の食糧管理法の導入で出生率が激増、人口は今や5800万と幕末の2倍にまで膨れ上がっていますの。けけど肝心の農地面積が、史実知識で開拓を支援しても、幕末比1.3倍しかありませんのでして。』

「……それは、結構深刻ですね。」


たしかに対清輸出の経済成長期に入ってから、人口過剰は重大社会問題だってよく聞くようになった。


『特に…都市人口の増大は逼迫していますわ。』


中核都市、炭鉱都市、造船都市。どんな産業が中心であろうとも、そこに都市があれば人口が流入するという事態がここ10年続いている。1850年、1875年と江戸から東京に名前は変われど人口78万を25年間続けてきた東京市は、1月に発表された明治33(1900)年国勢調査によれば、人口221万人。たった25年で3倍の伸びだ。


『経済はこれからが成長期ですし、まだまだ出生率は伸びますわ。この人口増加が続いたままじゃ、20世紀末には人口が2億5000万になりますの。…これは、史実と同じ予測値ですわ。」


史実のこの頃にも、同じく「20世紀末人口予測2億5000万」は出ていた。

だが産児制限運動は反発が猛烈で、結果、人口過剰の解決を名目に北米、中南米や満州への移民政策や、対外拡張政策を推進した。


「史実じゃ、大戦敗北で領土膨張と移民を封じられたから、GHQは対策として人工妊娠中絶を普及させて、出生率が急激に低下。人口は安定したんでしたっけ」

『無理ですわ。GHQみたいな絶対的な機関がありませんもの、自由民権運動が実を結んだ今じゃ人権重視の風潮で人口抑制政策なんて誰も受け入れませんわよ』


合衆国や中華のように移民で国力を稼ぐには、彼らと競合できる数の移民がいるわけでもないし無理だ。国力を伸ばすには食糧増産で内国発展しかない。


それに収穫効率がクソゴミのままでは、これから始まる第二次産業革命の発展を大きく阻害する結果になってしまう。労働力の大半を第一次産業に取られたままでは、二次・三次産業への労働力の移動も夢物語だ。


『というわけで、まずは大農法の導入なのですわ。』

「なるほどです」

『今の皇國の農業がどういう形態かはご存知で?』

「"集約農業"でしたっけ?小作農に代表されるような人海戦術で育苗、田植え、鎌で収穫。狭い土地にたくさんのカネを注ぐ感じでしょうか」

『ええ、ええ。対して大農法は大型機械と航空機で大々的に食料を増産する方法ですわ。少人数で巨大な農地を運営するから食料の値段が安くなりますの。」

「質は落ちますけどね」

『安いに越したこたねぇだろ』

「殿下…、語尾……。」


安定の守銭奴である。


『結局は量が全てを制すのですわ。合衆国をご覧なさい、量より質なんてのは覇者になれなかった連中の負け惜しみですことよ』


現状皇國は技術的にイタリアにすら及ばない。量も質もないのだ。だから、とりあえずは量に努めるしかない。


『その一環としての大農法でしてよ。食料を徹底的に増産しますの』

「なるほど…。つまり、僕は向こうで大農法による農業革命を達成すればいいわけですね」

『ですわ。皇國緑の革命の根拠地となれば、嫌でも人は集まりますもの。農業革命に成功した地域を未開指定し続ける度胸なんて道庁にはありませんわ』


とんでもない言い方をするが、確かにそのとおりだ。


「理解しました。…必要になりそうな物資がいくらかあるんですけど、取り寄せって出来ます?」

『物資…?え、ええ。大蔵省としても、農業改革は支援の方向ですもの、必要物資がおありなら都合をつけて送付致しますわ』

「なら――…。

 苅田工廠フォード製自動車、超高圧炉、ディーゼルエンジンの3セットをまず頼みます」


殿下は一瞬言葉を失った。


『……なにをなさるおつもりでして?』


「言ったでしょう?農業革命ですよ」




・・・・・・

・・・・

・・




明治33(1900)年3月 紋別

元紋別入植地




「ぐぉぉお…ぉ、やっぱむりだぁ…」


頭を抱える。

10年前から身体も大きくなってるし、クワ一本でどこまでいけるかと思ったが、やはり不可能なものは不可能であった。


「まだ使われてんのかよ備中鍬くんさぁ…。」


江戸時代から農業の主役が交代していない件。

もういい加減お役御免にしてあげない?E電じゃないんだから何百年も酷使し続ける必要ないでしょう。


「江戸農法に従ってクワを振り回す単純労働ってお前…、文明開化からもう30年経ってますよね?なんで基幹産業が江戸時代のままなんですか???」


で、旧開拓使はこの農法そのままで北海道を合衆国式に開拓しようとしたわけだ。

うん、そりゃ開拓遅れるわ。

数ヘクタール分も田植踊りなんてやってられっか。


「はぁ……。」


鬱蒼と溜息をつく。

令嬢殿下に求めた資材は、組織の再建もあるため超高圧炉に代表される高度技術の大部品は、その配給が来年にずれこむとのことであった。

そういうわけで、今明治33年中にできることはとりあえず江戸農法からの脱却、ついで明治農法の導入になりそうである。


薄青色の大洋がどこまでも広がるオホーツク。

そこに濁流のように注いでゆく雪解け水。


ここに飛ばされてから2ヶ月、厳寒をどうにか越して3月。


ようやくこの氷雪の世界の冬が去ろうとしていた。


「再び戻ってきた…、か…。」


旭川の士官学校に10歳で入って以来、実に9年ぶり。

本来なら華の19歳を謳歌しているはずの僕は、再び極北の大地に戻ってきた。


「てか僕まだ誕生日迎えてないから18歳かよ…。」


やった!選挙権がもらえるね!と思ったが、この時代の選挙は直接国税10圓以上を納めるブルジョワ上級国民しか参加できないモノだったな。

てかまだ北海道が台湾沖縄と同列で植民地なので国税納めても選挙権ないじゃん。


「というわけで、僕の青春の締めくくりはどうやら極寒地での耐寒サバイバルらしいですよ!おつかれ!」


鬱だがやるほかない。

中途半端に農業改革をやるもそのまま放り出す羽目になった僕の農地は、現役の時と比べれば随分荒れ果てたようであったが、それでも原型は保っていた。


10年前の僕が、最初は農業改革をやるつもりで整備した耕作地だ。

明治農法への移行と遂行を考慮した設計にしてある。

であるから、取り掛かるにあたって設備の不足は心配しなくてもいい。



 ┌→排水路→

家↑田↑田↑田

→→用水路→→

田↓田↓田↓田

 └→排水路→



「しっかし…、乾田ってのは凄いよなぁ」


従来の湿田だと水量調節が出来ない。耕起や収穫のときに腰まで水に浸かって作業する羽目になる。不衛生だし労働意欲がゴリゴリ削られるのだ。

水量調節が出来る乾田というのは、そんな非効率を刷新する発想であるわけだ。


「水路の復帰作業は冬の間に終えた…。これで注水から排水までの水量管理が、用水路の仕切板一枚でどうにかなるわけだ」


さぁ、使えるものは有効活用しようじゃないか。


「お馬さんいたよな、こういうときこそ役に立ってくれんと困居こまりおる


入植兵標準装備の馬の存在を確認しつつ、馬小屋裏に回る。

そこには10年前、試作品として作り置いた馬鍬が――残っているわけだ。


「今度こそクワとはおさらばだ!」


それを馬と接続した。

さらば、クワで土をぶん殴る江戸時代の近世農法よ。

時代は明治農法――乾田馬耕・・・・である。

削り出して釘で打ち付けあわせ、馬の一引きで6列耕せるようにした「馬鍬」を、僕は作り上げたのだった。


「あアあアあアあアあアあア」


馬鍬を地面に押さえつけつつ、馬に引かせた振動に任せ声を適当に震わせる。扇風機を前にした小学生だ。


(いやほんとうマジ楽…感動だわ……。)


脳内で涙を吐きつつ馬耕。

馬に鍬を引かせるだけなど誰でもできることなのに、これだけでも十分農業革命だという事実に感涙だ。


『乾田馬耕』

近世農法では湿地に田んぼを開いていたのだが、それを乾燥させて馬が田に入れるようにし、馬に耕耘器を牽かせて一列一気に耕す明治末期に確立された従来の人海戦術を一掃する、革命的手段だった。


「なんでこれ今まで思いつかなかったんだろ日本人は。戦国時代じゃ馬なんてそこらじゅうにいたのに」


発想なくして千年以上ずっとクワを振り回し続けてたその非効率を嘆き、延々と乾田を往復し続ける。あー楽ちんすぎらぁ。


ゆっくり端から端まで往復。


(…?)


おもむろに、少し視線を感じた。

一体誰だ、こんな電車廃人覗いたって面白くないし逆に気分悪くするまである。


咲来かと思ってちらっと目をやると、碧色がかったセミロングの少女が向こうの木の枝に腰掛けて、木陰からこちらの作業をじっと見下ろしていた。


「…まぁ別にいちゃいけないというわけじゃないし」


陽キャ特有面識もない人間へ声を掛ける意欲が有るわけでもなく(あったら鉄オタなんてやってない)、淡々と6列深耕馬鍬を牽かせ続けることかれこれ2時間近く。


「やー、楽だが…。」


1面をようやく終わらせた。18歳児でさえも面白くない作業、例の少女はもう消えているだろうと思った。


が、なおもそこにいた。

なにか僕に用があるのだろうか、まさか苦情じゃないだろうなとは思いつつ、僕は少女の乗る樹の下へと重い腰(筋肉痛)を上げた。


「こんなの見てて楽しいか?」

「……っ!」


上の枝がビクッと震え、葉がガサガサいったかと思えば続けて少女が落ちてきた。

少女は咄嗟に枝を掴み姿勢を整えて着地、僕を前に少し後ずさった。


「大丈夫か…?」


少女はむぅ、と唸る。


「…気づいてた。」

「隠れてるつもりだったんすか…」


不満そうな表情を浮かべつつ、少女はこちらを警戒しながら名乗る。


「…私は浦幌うらほろ かえで。北の紋別村の者。あなたは?」

「あ、あぁ。初冠 藜。26連隊の入植者だ」


少女はなおも訝しげに僕を見上げて訊く。


「何歳?」

「18」

「私より、5つ上…?」


更に当惑したように首を傾げられた。しかし、すぐに少女は視線の矛先を馬鍬に向け、そちらのほうへと素早く駆け寄った。

馬鍬の端に手を触れつつ急ぎ問おうとして、少女の口が止まる。ゆっくりとこちらを指差して尋ねる。


「…これは?」


興味に、その紫がかった瞳を輝かせてそう訊いてきた。


「馬耕用の馬鍬だ」

「馬に引かせるだけで、耕起できる…!」

「一引き横6列。革新的な代物だろ?」

「凄い。鍬、要らない。」

「鍬?冗談じゃねぇあんなの振り回したら数分も持たん」


少女は延々耕起され尽くした大地を呆然と見つめた。


「これを…、一人で……?」

「半日でな」

「…わけがわからない」

「ははっ」


少し笑いが漏れてしまう。


「むしろ、そりゃ僕の台詞かな。」

「…?」

「文明開化とか宣っておいてこんなの近世農法続けたいか?生憎僕は勤勉じゃない。」


ただでさえ悠大な北海道の原野。その広さ故に多くの人々が酷悪な労働を強いられては倒れてきた。それが眼前で、革命的農法の下に従来の幾百倍の速さで耕されていく。この光景は圧巻であったに違いない。


「……ッ!」


少女は我慢ならないといった風に土壌を持ち上げる。


「…人力でやるよりも深くまで」

「それだけじゃない。こんな極寒の中数日も外立って鍬ブン回さなくていいんだよ」

「誰も凍えない、…倒れない。」


肩をわなつかせて少女は呟く。


「これが…、本当に…稲作?」

「?」

「信じられない」

「ふっ」


この広大な耕地を仰いで、一息ついた。


「――…僕は仕事が大嫌いだ・・・・・・・・・。」


枢密から交付された現行の近世農法を読んだ日は、ひっくりかえったもんだ。

稲作は備中クワ片手に人海戦術をで湿地を耕起から始まり、肥料は肥溜め一本、田植え収穫は腰折り曲げて地獄を数週。水門による流量管理なんて夢のまた夢。

悪いがそこまでの労働意欲はない。


「……怠惰」

「いやいや、『産めよ増やせよ』は大好きな言葉だぞ」

「?…どういうこと?」


少女からしたら謎が深まる一方だろう。働かざるのに成果は望む。正気を疑われておかしくない。


「説明してほしい。」

「――働かないための労働を僕は惜しまない。」


人海戦術鍬鎌素手、そんな稲作はもうたくさんだ。ならどうするか。

答えは簡単、もっと楽な手段を求めればいい。


「働かないために、働く?」

「楽を追求するのは善だ。それが広くに共有されれば社会全体の生産力が向上するし、身の回りは更に豊かになる。そんな好循環だよ。」

「そんなこと…、」

「手間を省きつつ生産力を上げるための試行錯誤に…。屯田兵、開拓者、この広大な原野はぴったりだと思わないか?」


逆行前の道民生活、ずっと北海道の機械化された大農法を見てきた僕にとって目を覆いたくなるほどのゴミ・オブ・ザ・非効率が溢れかえる近世農法。


「怠惰を求めて怠ける奴はただのクズだが、

 怠惰を求めて執着するのは賢者である。」


紋別より南西に数km、周辺集落から孤立したここ元紋別。

そこが、追放された僕に割り振られた開拓用地であった。


住まいの小屋、馬小屋に馬1頭、周囲に付属耕地が6区画。連隊からの食糧配給があるとはいえ、18歳一人に鍬一本で任せるには広大過ぎる土地。少なくとも磯城あたりはは、僕一人じゃ用地の1割も耕作出来ないと思っているだろう。

半ば嫌がらせだ。


だが。


(そんな初期状態なんざ、明治農法と西洋農学と21世紀式機械大農法ぶち込んで躊躇なく、列島の穀物庫に魔改造してやんよ…。)


到底誰かの役に立とうだとか大層なもんじゃない。

開拓RPGだろうが都市開発ゲーだろうが上等、目指すは脱出だ。

追放先を原型留めないほど開発し尽くして、目に物見せてくれる。


「歴史改変とかより先に、農業革命の時間だ。」


深々と誓うほどには、あの面影が恋しかったのかもしれない。

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