国交断絶。
令和2年2月22日【猛感謝】
旧作全盛期の星数並びにフォロワー数超えました!
本当にうれしいです、読者の皆様ありがとうございます…。
以降もどうぞ宜しくお願いします。
占冠 愁
―――――――――
「海軍はどうです?」
「十分だな。大増強計画八八艦隊は、すでに一昨年に英国で最後の建艦が満了し、敷島型戦艦『朝日』『初瀬』『三笠』、富士型『富士』『八島』、筑波型戦艦『筑波』『生駒』が就役、猛訓練の末編成完了だ」
「……例のアレはいかがで?」
「まだまだ艤装中だ。ドレッドノートの就役に合わせる。」
秋山は言葉を継ぐ。
「本計画の推進によって皇國の総合海軍力は従前の4倍以上に達する空前の大拡張を遂げ、明治35年度には連合王国、
大英建造の浅間型装巡『浅間』『常磐』、
「1万t級と現在の装巡としては大型で、主砲が8インチ4門、副砲6インチ14門の攻撃力は、戦艦主砲の12インチ4門を除いてそれと全く同じで、巡洋艦としては非常な重火力になる。」
「大英製とライヒのと、国産混成で戦闘は可能なんですか?」
「船形から兵装制式も共通だ。実際には3種の型は全て同型艦に近い。防御力は戦艦のとは極端な差がないハーヴェイ鋼鉄7インチだ。」
「戦艦とほぼ同じ程度の装甲ってことです?それじゃ…」
「速力削ってるな。20ノットで戦艦よりは速いが、英仏の装巡に劣る。」
「あー、まぁとりあえず旧式戦艦には対抗でき、新式戦艦に対しては退避できるってコンセプトですか。」
巡洋戦艦や高速戦艦と同じコンセプトになる。史実じゃ日露戦争の結果を見て連合王国は巡洋戦艦を産み、各国競って大型重装備の装巡を建造することになった。
「戦闘計画はどうなんです?」
「史実と方針は基本的に変わらない。ただ、ウラジオストク艦隊の通商破壊を防ぐため、潜水艦機雷敷設を旅順とウラジオで初陣からかます。」
「潜水艦機雷敷設…できるんですか?」
「史実のように閉塞作戦を何度も掛けて、戦艦二隻喪失するまで消耗したくない。第四艦隊の潜水戦隊総出で、開戦と同時に夜間敷設を敢行、一夜で封じ込める。」
確かに史実のウラジオストク艦隊の通商破壊は熾烈だった。というか、海軍がこの頃から通商護衛を軽視していたことにあるかもしれない。
陸軍輸送中に二隻撃沈一隻大破、第一師団1000名溺死。
ウラジオ艦隊に、翌月には帝都沖に出現される始末。
「これは帝国議会でも問題になった。『濃霧のため敵艦隊見失う』と打電したら、『濃霧、濃霧、逆さに読めば無能なり』と議員に野次られたレベルだぞ。」
「「「ブフォッ」」」
一同普通に吹き出した。面白すぎるだろ。
というか政治家からネタにされるまでやらかしておいて、その40年後であの体たらくとは…何故学べなかった海軍よ。
「太平洋・ウラジオ両艦隊の機雷封鎖を以て開戦とする。八八艦隊は完全に整備され、新設の第四海軍は演習を終了し、練度も相当だ。あとは史実通りに明治38年5月の列島近海到達を待つ。海軍からは以上だ。」
「わかりました。」
僕は頷いて立ち上がる。
「陸軍一般師団、海軍部隊の現状説明は終了ですね。なら――、装甲戦闘団『奔星』に話を移させていただきます。」
「よし……。」
見回して、全員が頷いたのを確認し、資料を配る。
・・・・・・
・・・・
・・
1904年2月1日 大英帝国
「号外!号外!日本がロシアと国交断絶!」
「一部いかが!動員進む!極東で戦争勃発か!?」
新聞屋の鐘の音はロンドンを鳴り響く。
「いくら?」
「ひとつおくれ!」
「おい、わしにも!」
人々は群がり、次々と売り飛ばされていく。
「なんだ…本当にあの連中はロシアと戦うつもりか…?」
「まさか。国力10倍以上の差が開く相手に…ハッタリだろ」
「いや…我らが大英帝国がかのナポレオン来の栄えある孤立を破り捨てて、手を差し出してやった国だ。…やるかもしれんぞ」
「……哀れだなぁ。そのナポレオンでさえ敵わなかった国に、か。」
王宮前で繰り広げられる人々の囁き合いを、窓から見下ろす者がいた。
他でもない、国王への報告帰りの大英帝国宰相・バルフォアその人である。
「ここまでお膳立てしてやったんだ。連中にはやってもらわないと困るさ。」
彼は民衆を眼下に捉えそう呟く。
「ロシアのチャイナ進出を一秒でも遅らせねば、長江北岸勢力圏の利益に影響が出る。そのために日本人を盾にしたんだ。せいぜいここで足踏みしててくれ。」
煙管を咥え、一服やってから彼は歩きだす。
「…まぁ、どっちにしろいつかはロシアが進出してはくるがな。それに対応する期間はもっと必要だ。日本人には、それまでの時間稼ぎさえしてくれりゃいい。」
貴賓室の扉を開け、彼は護衛の出迎えを受けながら下り、馬車に乗り込む。
「日本じゃ牛ばかりで、こんな馬車すらないと聞く…。その体たらくじゃ到底あの超大国にゃ及ばんだろう。だから…我々は同盟国とて、建艦くらいでしか手なんぞ貸しとらん。ロシアの消耗の足しになってくれることを祈るだけ、か……。」
・・・・・・
1904年2月2日
「はぁ?日本人共は本当に余の兄弟と事を構えるつもりか…??」
ロシア皇帝ニコライ2世と紛れもない血縁関係にある、第二帝国の
「ええ、陛下。本日未明、日本政府は対露国交断絶を宣言しました。」
「……未明、早いな――いや、向こうのほうが遥かに早く夜が明けるのか。本当に、文字通り日出ずる国だな。」
彼はそう一息ついて続ける。
「だが――それは即ち、何処よりも日の早く没するところという意味であるわけか。…余はあの文化を好むのだが…残念だ。こんなにも早く落日を迎えてしまう。」
「まぁ…勝てるわけありませんね。」
「当たり前だ。東洋人が――いや、有色人種が我らが覇者白人に勝ったことなど、有史一度たりともない。しかも相手はあのナポレオンを破った国と来た。一フースも勝ち筋が見えんだろう?」
カイザーは溜息をつく。
「流石にないとはいえまぁ、勝たれても困るんだがな。それを見て世界中の植民地が蜂起したら、それこそ目も当てられない。奴ら数だけは多い」
「仰せの通りです」
「日本軍とて、有色人種の軍隊。兵器から人員統制まで、我ら列強と比較して遥かに劣るのだろうな。ロシアに援助を寄越すまでもないか。」
「先を行くのは飛行船――空挺技術くらいですが、それへの対抗策は、降下した部隊を包囲するだけという極めて単調かつ、既存の兵器で対抗可能なものですものね。」
「ああ。まともな近代兵器のない東洋じゃ…きっと、カタナとコサックの槍で、血みどろの肉弾戦が繰り広げられるぞ。人的資源の多いほうが有利になる。そう考えるともはや、日本人に勝てる要素なんてあるのか?」
「ありませんね、現時点の情報では。」
「だろうな。勝てると思うほうがどうかしている。結局日本人も、無謀にも抵抗を決意する程度の思考力だったというわけか…、日清戦争で大きく番狂わせをしてみせたから、過度な警戒をしてしまったかもしれん。」
「ここで、退場となりますかね。」
「列強に挑んで勝った文明圏外の国家など存在しない。というか、有色人種の列強などという存在など誕生させちゃならん。どっちみち10年後は、あの列島の位置から
彼は杖をついて立ち上がる。
「とりあえず観戦武官くらいはロシアに送るとする。開戦には間に合わないとしても、満州での両軍会敵には間に合うはずだ。」
「はっ。仰せのままに」
・・・・・・
明治37(1904)年2月3日 根室支庁・中標津
「突破梯形ッ!」
無線相手にそう叫ぶ。号令と共に砂埃が起き立ち、車が一斉に動き出す。1分経たないうちに、装甲兵員輸送車と装甲車、総計918輌の展開が完了した。
「…どうです?練度は上々でしょう。」
「十分だな。」
振り向いて、伊地知から満足な回答を得る。
満州総軍独立装甲戦闘団
旅団『奔星』
・司令部 - 伊地知幸介少将(旅団長)
・本部騎兵中隊 - 初冠藜少佐(副旅団長兼任)
・兵站中隊
・通信中隊
・機甲連隊『回天』- 秋山好古少将
・連隊司令部
・野戦病院
・装甲大隊×3
・機械化歩兵連隊『震天』- 長岡外史少将
・連隊司令部
・野戦病院
・機械化歩兵大隊×3
内訳綱領
一個装甲大隊
・大隊司令部
装甲車×5輌、自走砲×2輌
・通信小隊
無線搭載自動車×4輌
・工兵小隊
50人×
・偵察騎兵小隊
60人×
・牽引砲兵中隊
自走砲×50輌
・装甲中隊(×3)
装甲車×70輌
一個機械化歩兵大隊
・大隊司令部
装甲車×5輌、自走砲×2輌
・通信小隊
無線搭載自動車×4輌
・工兵小隊
50人×
・偵察騎兵小隊
60人×
・牽引砲兵中隊
自走砲×50輌
・機械化歩兵中隊(×3)
装甲車×5輌、兵員輸送車32輌
兵器内訳
『三三式機銃装甲自動車』
最高速度 35km/h(不整地)
乗員4名(操縦員1名・機銃攻撃員2名・機銃補助兼通信員1名)
航続距離 120km
武装 三十式車載機関銃2機(正面・上部回転銃座)
『三十式車載機関銃』
銃身長 1020mm
銃弾 三八式実包6.5mm
装弾数 300発(布ベルト給弾式)
作動方式
全長1400mm
重量50kg
発射速度600発/分
有効射程640m
舗装最速65km/h
不整地最速42km/h
サイドバルブ1,200 cc
出力28馬力
フットクラッチ非油圧
『三十五年式牽引自動車』
発動機付近装甲 6mm
操縦席付近装甲 8mm
最高速度 50km(不整地)
牽引巡航速度 20km(不整地)
乗員 5名(操縦員1名・野砲員4名)
航続距離 150km
『三十四年式機動八八粍野戦砲』
重量 1,800kg(非機動時1520kg)
砲口径 88mm
有効射程 9000m
仰俯角 -10°~+25°
水平射角左右6°
発射速度: 18発/分
「……聞いて呆れるわ。こんなものをよく…、敵は未だ騎兵だってのに。」
「装甲車は陸軍に総計1680輌の納入を終了した。そのうち630輌はこの『回天』、残り約1000輌はすべて一般歩兵師団に配属し、塹壕突破にかかる。」
「これに――あの、対地支援爆撃と弾着観測が入るんでしょう?」
裲が指す先、空に浮かぶ飛行船6隻。
「降り注ぐのは100kg下瀬散乱弾。一隻搭載限界60発。下瀬火薬を覆うように塗られているのは
「…実質クラスター爆弾じゃないのよ……」
「いや、海軍が採用した貫通爆弾じゃないから、タングステン片は散らない。対騎兵歩兵用に圧倒的効果を望める焼夷炸裂弾だよ。」
「それに――迫撃砲と、『
「ごく初歩的なもんだよ。史実、帝国陸軍が自動二輪を導入したのが大正元年。たった8年だけ時代を進めただけ。最高速度も安全性も、現代のと比べ物にならない。」
「偵察力は段違いよ。本部騎兵中隊を残して、前線戦力は完全に機械化されたわね。もはや…装甲軍団よ、これ。」
僕は笑った。
「砲撃速射力9倍、直衛支援火力3倍、移動速力3倍。弾着観測と制空補正を掛けて兵站圧迫を引く。――…以上より導き出される塹壕突破力、81倍。」
「塹壕突破、81倍…だと…!?」
そう言って立ち上がったのは、伊地知だった。
「無論です。まぁ、まずは塹壕戦からですけどね。」
「その準備はとうにしてある。日清戦争、平壌の戦いで既に塹壕戦の威力は広く知られ……いや、皇國と清朝にしか、まだ知られてないのか。」
「アドバンテージが2段階もあるんです。目にもの見せてやりましょう――」
片頬吊り上げて、言ってみせる。
「――バルバロッサ。」
・・・・・・
・・・・
・・
1904年2月4日 サンクトペテルブルク
「
「一体何のことだ?」
皇帝ニコライ2世は、首を傾げて振り向いた。
「かねてより懸案となっていた満州朝鮮の勢力圏の衝突に端を発する、日露対立の平和的解決の道が閉ざされた、そういうことです!」
「……。どういうことだ?ラスプーチン。」
ツァーリへの報告を行った側近は唇を噛みしめる。
皇帝陛下はまた、この男――怪物、ラスプーチンに頼るのか、と。
「へへへっ、ツァーリ。簡単なことでさぁ。辺境の蛮族が、神聖なる我が大ロシアの威光を理解できず、跪かないどころか愚かにも戦争を仕掛けに来たということで」
「なんだ、このまえの中央アジアの時と同じことか。」
「へぇ。国力20倍差を思い知らせるしかないようでぇ。」
側近は、勇気を出してその会話に割入る。
「戦争ともなれば、我が国の国民は――」
「馬鹿馬鹿しい。戦争は軍だけの話だろう。」
ニコライ2世はそう言ってのけた。
「人なんぞいくらでもいるし、それに所詮蛮族征伐。戦争というほどでもない」
「全くその通りでさぁ、陛下。まぁとりあえずこれが地図でぇ。」
「…見たことがあるような……、いや?思い出せん…。気のせいか。」
かつて自身が皇太子であるときに訪れ、刺された地でさえも、宮廷の優雅な暮らしとウォッカに酔いしれきってしまったニコライ2世は、忘れ去ってしまった。もはや帝室は貴族と側近ラスプーチンの傀儡に成り果てたお飾り。
「ラスプーチン、ここはどこだ?」
「今問題となってる、極東…日本という国家がある地域で」
「……ぷっ、文明地域から程遠い…辺境じゃないか。」
この国の帝室の腐敗は、もはや戻れるところにはない。
それが1904年のロシアである。
「領土はどれだけあるんだ?シベリア何個分だ?」
「それが、なんと34分の1。」
「…もう一回言っておくれ?」
「34分の1。我が帝国の総面積の57分の1でさぁ。」
「…くっくくく…、ぬぁはははははぁっ!」
腹を抱えてツァーリは笑う。
「シベリア、あの余に逆らった愚かなる犯罪者しかいないような、あの流刑地よりも遥かに狭い!?信じられん!その分際で…逆らう!?」
「全く低能としか言いようがないもんでしてねぇ。」
「気にする必要すらない…、はるばるウラジオストクまで、そんな蛮族のために我が大ロシアは交渉団を行かせたのか?」
「ええ。外相のヴィッテたちはこんな、列強の名折れとしか言いようがない腰弱通告を突きつけてきたみたいで。」
ツァーリはそれに目を通し、読み進むごとに顔を強張らせていった。
「こんな、ふざけたものを?列強とあろうものが、猿へ宛てる内容じゃ到底ない!」
「…信じられまっせ?これでさえヤポンスキーは拒否したんで――」
「ふんッ!!」
バリバリと、かの対日21か条要求を破り捨てるツァーリ。
「拒否…拒否だと…??蛮族に、文明を与えにはるばる来てやるってのにか!?」
「おお、ツァーリよ、どうか怒りをお沈めなさってさ……」
「余に刃向かうだけでなく、このような傲慢な態度…。あまつさえこの譲歩さえ退ける…??許すまじ猿ども!余の怒りに触れたこと、1000年先まで後悔しろ!!」
ツァーリはそう憤慨し、極東の弧状列島が描かれたその地図に線を引き始める。
「こんな矮小な5つの島しかないのか!なら、北2つの大きい島は我が帝国の直轄植民地にしてやる。残りの3つは余の別荘だ!」
「へへぇ、仰せのままに。」
「降伏会議は…そうだな、連中の王は少なくとも処刑だ。毎年一定数の奴隷を献上させるのも当然か。外交権は剥奪するし、……日本の民の生存与奪の権限くらいは、忠実なる我が帝国臣民にくれてやろう。」
ニヤつくラスプーチンを背後に控え、くはははははは、とニコライ2世の高笑いは、サンクトペテルブルク宮殿の謁見の間に響き渡った。
「だがその前に報復だ。野蛮人どもに、列強に刃向かうとはどういうことか教育してやらなければ。――全サハリンの蛮族を、粛清しろ。」
その魔の手は、まず最初に、因縁の極北の島に迫ることとなる。
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