Data.27 イレギュラー

「くっ……なぜだ! なぜ翠風刃が通らない!? それどころか風の刃が発動しない!」


 何度も目の前の男に切りかかるガラハド。

 しかし、アーマーはもちろんこと生身のボディにも攻撃が通らない。


「無駄だ。こちらのメダルは完全に機能している。もはや通常のメダルの効果など受け付けない」


「通常のメダル……? まるで自分のメダルだけが特別みたいな物言いだな」


「その通り」


「一つ教えといてやる。このゲームには最強のメダルなど存在しない。最高レアリティのクロガネのメダルにも明確な弱点が用意されている。つまり、あんたのその余裕の面を張り倒す手段も存在している!」


「ない」


「強がりを!」


 ガラハドが【樹根捕縛ウードキャプチャー】を発動。

 木の根で男を捕縛しにかかる。


(正直、強がってるのは俺の方だ……! こいつのメダルは欠点がまるで見えん……。自分の主義を曲げることになるが、ここは時間を稼いで味方の合流に期待するのが得策……!)


 しかし、木の根は男に触れた途端、次々と消滅していく。


「なぜだ!? メダルの効果を無効化するメダルにしろ、一度に無効化できるメダルの数が多すぎる! 持続時間もまるで無限のように……」


「無数であり無限だ。私のロストメダル【天衣無縫】の前に通常のメダルは効果を発揮すること叶わず」


「ロスト……メダル?」


「無駄話が過ぎたな。私としたことがメダルを誇ってしまった。もう消えて構わん」


 男の手に成人男性の背丈を軽く超える大剣が出現する。

 金色に光る刃は見る者を威圧する。


「ゲーム―オーバーだ」


「くぅ……!」


 気おされ動くことが出来ないガラハド。

 金の大剣が容赦なく振り下ろされる。


 ガギィィィィィン!!


 金属がぶつかり合う音。

 立ちはだかる影。


「今度は俺が助けることになったな、ガラハド」


「シュウト……!」




 ● ● ● ● ● ● ●




 なんだこの状況は?

 なんだこの男は?


 勢いのまま剣を受け止めたのはいいが、ビームシールドはいとも簡単に三枚とも切り裂かれ、コレクトソードにもヒビが入っている。

 この悪趣味なキンピカソードはメダル破壊に特化した剣なのか?


「新手か。お前はそこの男より多少は骨がありそうだ」


「そりゃどーも……」


 なんだ……立ち振る舞いのせいか?

 攻めどころが全くわからない……。


「気をつけろシュウト! そいつはメダルの効果をすべて無効化する!」


「なにっ!?」


「俺の翠風刃も樹根捕縛ウードキャプチャーもまるで通用しなかった! 気をつけろ!」


 気をつけろって言われても、メダルがすべてのゲームですべてのメダルを無効化されたらどうしようもないだろ!?


「弱点はないのか!?」


「ない……俺が見たところでは。そいつのメダルは特別らしい……。ロストメダルと呼んでいた」


『ロストメダル!? そんなのありえないにょん!』


「うわっ!? 急に出た!」


 通常サイズのチャリンが俺の隣に現れる。


「仕事はいいのか?」


『これが仕事だにょん! 不正ツール利用者への対処だにょん!』


「不正ツール?」


「不正とは聞き捨てならん……」


 男が大剣を横に薙ぐ。

 受け止めていた俺も真横へ吹っ飛ぶ。


「ぐ……!」


「このプログラムは人間が作り出した電脳世界を人間の制御下に置いておくためのもの……。正しき人の力なのだ」


「チャリン! 俺は奴の言ってることがサッパリわからない!」


『最近ああいうのが多いにょん! かつてあるゲームの乗っ取りに使われたプログラムの劣化コピーを使ってゲームにイタズラするんだにょん! しかも、そいつらは人工知能を軽視した妙な思想を持ってるにょん!』


「なるほど、現代のカルトハッカーか。そんな奴がこのご時世にいるんだなぁ~。貴重なものを見た」


『私はもちろんのこと、運営スタッフは日夜不正アクセスと戦い続けてるにょん! クレームばかりのメダリオン・オンラインも、これまで不正アクセス関係で荒れたことはそんなにないにょん!』 


 そんなサイバーパンクみたいな戦いが裏では行われていたのか……。

 チャリンも大変だな。


「要するにあいつはチートを使ってるんだな?」


『そうだにょん! チートを使って実装が見送られたメダルである『ロストメダル』を勝手に使用してるんだにょん!』


「実装が見送られたメダル?」


『データは作ったけどバランスとか時期を考えてプレイヤーの手には渡らなかったメダルにょん! 通常のプレイでは決して手に入れることは出来ないはずなのに、あいつはチートで手に入れたにょん! 無敵のアーマー【天衣無縫】を!』


「なんでまた無敵のアーマーなんて作ったんだ? バランスを考えたらそんなの初めから作る必要ないじゃないか!」


『運営スタッフがゲーム内に入って何かするときに役に立ちそうだと思ったらしいにょん! スタッフとバレたら確実に攻撃を受けるからって! でも、実際に使われたことはないにょん!』


 運営スタッフ……結構嫌われてるらしいからな……。

 マップの確認とかでゲーム内に入ることはありそうだし、その時に身を守るためだったのか。


『メダロシティ決戦は中止にょん! この男は運営側で対処するにょん!』


「待てチャリン。その不正ツールってこの男をゲーム内で倒せば止められたりしないか?」


『確か……このプログラムのオリジナル版を作り、ゲームの乗っ取りを画策した男はそのゲーム内のプレイヤーに負けてプログラムを破壊されたってウワサがあるにょん。でも、そんなんでプログラムが破壊できるなんて思わないにょん! だって、プログラムというものは……』


「ここでメダロシティ決戦が中止になったら、やっぱり最初からやり直しか?」


『そりゃそうなるにょん! 不正プレイヤーに負けたプレイヤーが何人かいる以上仕方ないにょん!』


「それは困る。再戦になったら俺たちの陣営は絶対に勝てない。コレクトソードの奇襲はもう通用しない」


『残念だけど受け入れるしかないにょん……』


「なあ、俺があいつをルールに則って倒せれば……問題なくないか?」


『は!? 無敵のアーマーメダル相手にどうするっていうにょん!? メダルの効果は無効化されて、コレクトソードにはもうヒビが入ってるにょん! 勝てるはず……』


「思いついちまったんだよ、あいつを倒せる方法を。しかも、初心者でも出来る簡単な方法だ。きっとこの方法で勝てば全プレイヤーが納得する。俺たちの勝利をな」


 申し訳ないが再戦なんてごめんだ。

 俺たちは勝利に通じる道を踏み外さずに歩いてきた。

 たとえチートを使われようが、その道を譲る気はない!

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