Data.28 これが俺のバトルスタイル

「おい、あんた。これからぶっ倒すし、最後に名前くらいは聞いといてやるぜ」


「ラグナロア……この偽りの世界に終焉をもたらす者だ。無論、お前にも」


「それは無理な話だ。あんたは俺には勝てない」


 強がりじゃない。

 こいつには明確な弱点がある。


「いくぞッ!」


「愚かな」


 ラグナロアが金の大剣を振るう。

 しかし、遅い!

 明らかに剣を振ることに慣れていない!


 ギリギリのところでかわして懐に潜り込む。

 そして間髪入れずに剣を持つ手をぶん殴る!


「ぐ……っ!」


「あんた……このゲームが好きじゃないだろ?」


 今度は手首に蹴りを加える。

 ゴトンッと鈍い音を立てて大剣が地面に落ちる。


「経験も浅いし、戦闘に慣れていない」


 顔面に拳をぶち込む。


「カハァ……ッ!」


「あんた程度のプレイヤーならメダルなんて使う必要もない。この俺の拳だけで十分だ!」


 殴る蹴るの雨をラグナロアに打ち込む。

 ロストメダルのアーマー【天衣無縫】は布製の着物のような見た目だ。

 基礎防御力もどうやら見た目通り!

 しょせんは実装を見送られた未調整のメダル。

 ぶっちゃけ大して強くない!

 それもこんなゲームをなめ腐ったプレイヤーが使ってたらなおさらだ!


「うおらあああああああああああああ!!!」


 渾身のストレートを腹にぶち込む!

 ……やはりダメージはあまり高くないな。

 俺も格闘術のプロではないので完全な素人ケンカ殺法だ。

 まあ、メダルで戦うのが基本のゲームで体術にダメージがあるだけありがたいのだが。


「調子に……乗るなッ!」


 ラグナロアも無抵抗じゃない。

 隙をついてスキルを放ってくる。

 当たれば大ダメージの高レアリティスキルだ。

 まったくチートでこんなメダル手に入れて楽しいかね?


 俺も豪運でメダルを手に入れてるけど、運は実力のうちだ。

 チートはルール違反。

 スポーツでドーピングが実力じゃないのと一緒だ。


 しかし、こいつにそんな道徳を教えても意味はないだろう。

 ここでものを言うのは暴力のみ。

 なにかラグナロアを倒せる決定的な暴力は……。


「あっ……! みんな! ボーっと突っ立ってないで一緒に戦ってくれ!」


 素手で敵を殴りだした俺にあっけを取られていた仲間たちはみんな棒立ちだった。

 今こそ仲間の力を合わせる時!


「とにかくこのチート野郎を殴ってくれ! 正義のリンチだ!」


 言い方は悪いけど、ヒーローだって数で攻めるだろ?

 チートはゲームにおいて絶対悪だ。

 道徳的にも倒して問題なし!


「ふんっ、今日のところは協力してやるか……」

「調子乗ってる奴をボコボコにするって、正直気持ちいよねぇ」

「グリフレットさんの仇っす!」


 四人で囲んでラグナロアを殴る蹴る。

 流石に四方から攻撃を加えられれば体勢を立てなおす隙すらない!

 次第に立っていることも出来なくなり、地面にうずくまる。

 ここで罪悪感を覚えて攻撃の手を緩めれば負ける!

 ドロシィが特に容赦なくラグナロアを踏みつけ続け、やがて……。


「も、もう……やめ……」


 泣き言と共にラグナロアは光となって消えた。


「俺たちの……完全勝利だ!」


 勝利の雄たけびを上げる。

 手段は残酷だが、正義をなした。

 これでメダロシティ決戦も続行……。


『はっ……! け、決着ゥゥゥーーーーーーッ!! ただいまをもってメダロシティ決戦は終戦だにょん!』


 チャリンの姿が再び消え、上空に巨大チャリンが現れる。


『勝利したのは……第三陣営チャリンイエローだにょん! おめでとうございます……だにょん!』


 ラグナロアで最後だったのか、それとも他の場所で生き残りの味方が最後の敵を倒してくれたのか……。

 どちらにせよ、俺たちの陣営の勝利だ!


『でも……プレイヤーの皆さんに伝えないといけないことがあるにょん……。実は今のイベントに不正ツールを使用したプレイヤーがいたにょん。その不正プレイヤーに倒されてしまったプレイヤーの方がいる以上、運営としては問題への対応後、イベントのやりなおしを行わなければいけないにょん……』


「チャリン……」


 これが彼女の仕事なんだ。

 否定することは出来ない。

 まあ一回勝てたのだから、もしかしたら二回目も勝てるかも……。


「プレイヤーに聞いてみなよ。やり直す必要があるかってさ」


 ドロシィが三角帽子をクイっと上げてチャリンに話しかける。


「確かに不正した奴がいたならやりなおしも間違ってないさ。でも、チート野郎は今回勝利した陣営じゃなくて敵対する陣営にいたんだ。それなのに勝利を奪われるってのも不公平じゃないかな?」


『でも、このイベントは三つ巴だにょん。勝利した陣営じゃない負けた陣営の一つにも迷惑がかかってるんだにょん。確かに不正がなければ勝敗が変わってたのかはわからないけど、運営としては……』


「そこをプレイヤーに聞いてみろって話さ。勝利陣営には五万人を吹っ飛ばしてチート野郎も正しいルールの中で倒した男がいるんだよ? これでやりなおしってのは理屈的には正しくても、感情的には納得できないねぇ」


『むぅ……じゃあ、聞いてみるにょん! 結局最後は遊んだプレイヤーの声を尊重するのが一番だにょん! みんな、メニュー画面を開いてアンケートにご協力くださいにょん!』


 俺もメニュー画面を開く。

 アンケートのタブが追加されていたのでタッチ。

 そこには『このままで』と『やりなおし』の二つの選択肢があった。

 俺はもちろん『このままで』!

 だって、かなり頑張ったもん!


『……あっ、集計結果が出たにょん! 画面を表示するにょん!』


 空中にデカデカと映し出されたアンケート結果。

 そこには『このままで:100%』『やりなおし:0%』と表示されていた。


「嘘だろ……? アンケートで完全に100%なんてあり得るのか? しかも、これはオンラインゲーム内でのアンケートだ。全員が真剣なわけじゃないし、ネタとか逆張りとかで……」


「いいじゃんいいじゃん。今回は奇跡が起こったってことでさ。僕たち……いや、シュウトの戦いっぷりをみんなが認めてくれたんだよ」


「ドロシィ……そう、なのかな?」


「そうそう! なんでも都合の良い方に考えなよ。やりなおしに入れたらリンチされるんじゃないかって思われてる……なんてことはないよ」


 俺を認めてくれたのか。

 六万を超えるプレイヤーたちが……。

 実感はわかないけど、きっとそれはとっても嬉しいことなんだ。


「よっしゃああああああああああああ!!! 大勝利ッ!!!」


 素直に喜ぼう!

 俺たちの勝利をな!

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