Data.26 混戦必至の三つ巴

 決戦は混迷を極めた。

 初動から多くのプレイヤーが消えてしまった以上、事前に決めていた作戦なんて成り立たない。

 残ったプレイヤーはそれぞれ自分の意思で動き出し、もはや決戦は個人の戦いへと変わっていた。

 まあ、変えたのは俺なんだけどね。


「くっ……キリがないな!」


 目立った奴はよく狙われる。

 五万人も消し飛ばしたんだし、そりゃ俺から潰そうとするよな。

 さっきからスキル&スキルの応酬だ。

 中にはウェポンメダルの特殊効果で攻撃してくる奴もいるから、ビームシールドもフル稼働。

 コレクトソードはスキルしか吸収できない。

 見極めが大事だ……。


「うおっ……!?」


 地震系のスキルか!?

 突然足場が崩れる。

 俺自身を狙わなければカウンターされることも防がれることもないってことか。

 よく考えてるな!


 バランスを崩しドサッと派手に転ぶ。

 まずい、敵がもうそこに……。


「誰かと思えば、いつぞやのクロガネの剣士か」


 俺と敵の間に誰かが割って入る。

 そして、その手に握られた短剣で次々と敵の首筋を切り裂いていく。

 派手なスキルが飛び交う戦場で、急所だけを的確に攻撃するそのスタイル……見覚えがある。


「ガラハドか?」


「ほう、よく覚えていたな。俺はお前の名前を忘れたぞ」


「シュウトだよ、シュウト! てか、コロシアムの時に俺の名前を呼んでたじゃないか。本当は忘れてないんだろ?」


「さあな」


 まったく、照れ隠しが下手な男だ。


「ガラハドもこの陣営だったんだな。開戦前は見かけなかったから、てっきり他陣営か参加してないかと」


「ふっ、こんなデカい祭りに参加しないわけないだろう」


「それはそうか。でも、チャリン陣営なのは意外だ。ファンなのか?」


「ふざけるな。ああいうやかましい女は趣味じゃない。ただ、最初から有利な陣営に所属するのはつまらんと思っただけだ」


「なるほど、お前らしいな」


「お前もな。さて、無駄話はこれまでだ。俺は俺の戦い方で勝利を狙う。最後に生き残るのは俺だ」


 ガラハドは白煙と共に消えた。

 まっ、協力して戦おうなんて期待してなかったけどさ。

 以前戦ったプレイヤーと同じ陣営で戦えるってだけで嬉しいものだ。


「なに戦場のど真ん中でにやにやしてんのさ」


「おっ、今度はドロシィか! 調子はどうだ?」


「良くないね。主に気分が」


「それはまたなぜ?」


「僕の見せ場が奪われたからだよ! せっかく高レアリティのスキルメダルと、この魔法属性のスキルの基礎攻撃力を十倍にする【大魔法使いの三角帽子】でみんな焼き尽くしてやろうと思ってたのに!」


「でも、暴走するんでしょ?」


「同陣営のプレイヤーには攻撃は通らないから大丈夫だよ。攻撃が通ったらスパイが出てきちゃうからねぇ」


「でも、地形には影響するんだろ? ここら辺が更地になって隠れるところがなくなったら、不利なのは数が少ない俺たちだ」


「……そうか。まっ、今回はシュウトに見せ場を譲ったってことにしておくよ」


 譲られてしまった。

 しかしながら、ドロシィがこの決戦に本気だというのは見ていればわかる。

 とんでもない高威力のスキルでどんどん敵を消し飛ばしていく。

 本当に彼女も上級プレイヤーの一人だったんだな。


「それより、戦局はどうなんだい? とりあえず目につく敵を倒しまくってるけど、僕たちの陣営はどんくらい生き残ってるの?」


「そんなの俺にもわからないさ。みんなに散り散りになっちゃってるから、チャリンが決着と言うまで戦うしかない」


「うへぇ、ハッキリとした目処が立たないままの戦いって一番疲弊するやつじゃん」


「あ、でも……グリフレットならわかるのかも。俺の攻撃でどれくらいのプレイヤーを倒せたか把握してたっぽいから」


「ならグリフレットを探すかな。実質あいつがこの陣営のリーダーみたいなもんだし、合流した方が動きやすそうだし」


 ドロシィの意見には俺も同意だ。

 混戦だからこそもう一度集まってチームで連携すれば、孤立してる敵をどんどん倒せる。

 そうと決まれば……。


「おーい……! そこの……お二人さん!」


「ん?」


 とっさに身構えたが、その声は敵ではなかった。

 大きなキャップと銃を持つ少年ハルトだ。

 ちょうど良い。

 グリフレットの付き人のような彼ならば当然グリフレットの場所も知って……。


「グ、グリフレットさんが……やられた!」


 ハルトの発した言葉に俺たちは耳を疑った。

 やつは当然生き残っているものと信じていたからだ。


「う、嘘だろ? あんな仮面までつけて強キャラ感演出してた上級プレイヤーが簡単に負けるのか?」


「信じたくないのは俺の方っすよ! でも、グリフレットさんは俺の目の前で光となって消えたっす! 負けたってことっす!」


「いったい誰にやられた?」


「派手な装備で身を固めた男っす! 他と雰囲気が違うから警戒してたっす! それに俺たちは強いプレイヤーの情報を集めて決戦に準備してたのに、その男は初めて見たんす!」


 情報にないプレイヤー……だと?

 このゲームはコロシアムの結果も公開されるし、大きなイベントは映像を生配信している。

 強くなるには自分を晒す必要があるし、当然良い結果を残したプレイヤーは目立つことになる。

 

 なのに情報がない?

 それでグリフレットより強いだと?


「グリフレットはそんなに弱ってたのか?」


「全然! 無傷に近かったっす! だから俺はそいつの相手をグリフレットさんに任せて周りの敵の相手をしてたっす! でも、ふと振り返るとグリフレットさんが……」


「それで逃げてきたのか?」


「グリフレットさんが逃げて伝えろって。出来るだけ多くのプレイヤーに……」


 なんだ……。

 ただゲームのイベントで有名プレイヤーが意外な負け方したってだけなのに、妙な胸騒ぎがする。

 これは気のせいか?

 それとも俺の本能がなにかを伝えようとしているのか?

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