Data.23 約束の地へ

 仮面の男グリフレットが示した場所メダロシティ。

 俺たちがいる大陸の中央に存在する大都市だ。


 各地方へのアクセス、無数のダンジョン、品ぞろえ豊富なショップ。

 そして、トッププレイヤーたちが集まるメダリオン・オンラインの中心だ。


 グリフレットは一か月後までにメダロシティに来いと言っていたが、ギリギリに行く必要はまったくない。

 むしろ、多くの新要素が揃ったメダロシティでさらにメダルを強化する方が良いだろう。


 ということで、俺たちはメダロシティへの道を突き進んでいた。


「ま、プラチナ以上のメダルでスロットが埋まりだしたプレイヤーが、メダロシティを目指してはいけないってことはないさ。むしろ遅いぐらいだね」


 旅にはドロシィも同行している。

 メダロシティに向かう旨をメッセージで伝えたら、「僕も行く」と返事が返ってきた。


「ドロシィはそれなりにこのゲームを遊んでるっぽいけど、メダロシティには行ったことあるの?」


「もちろん! 活動の拠点さ」


「じゃあ、ファストトラベルで行くことも出来るんじゃない?」


 このゲームは一度行ったことがある街から街にはワープすることが出来る。


「出来るよ。でも、一度も行ったことがないプレイヤーを連れて行くことは出来ないからね。わざわざ一緒に移動してあげてるのさ。感謝しなよ」


 ま、こういう返事が返ってくるだろうなとは思っていたけど。


「ちなみにメカロポリスから歩きでメダロシティを目指すと結構時間がかかるから覚悟しときなよ」


「時間は問題ないさ。現代人はだいたい暇人……だろ?」


「あと、意外と強いモンスターに出くわすことも多い。近い道を選ぶとネームドモンスターもうろついてるから、そのつもりでね」


「むしろ望むところだ」




 ● ● ● ● ● ● ●




「思ったよりキツかったな……」


 メダラミアの世界広すぎ問題。

 街から街へ移動するのに何時間もかかるのはいかがなものかと。

 メダロシティに着くまでリアルに何日かかかったし、いくつもの街を経由した。

 初期村から初期街パーラ、そこからメカロポリスあたりまではサクッと着いたのにこの差だよ。


 モンスターも強かった。

 このゲームに逃げるコマンドなんてないから、本当にヤバイ時はダッシュで逃げるしかない。

 実際に体験してわかる『にげる』の偉大さ。

 自分より強い敵から逃げるって立ち向かうより難しいぞ。


 でも、こんなスリリングな体験なかなか出来ないし、広すぎるフィールドも殺風景ではなくどんどん景色を変えるので飽きない。

 ゲーム内の体は歩くぐらいじゃ疲れないし、ゆったり旅をするのも意外と悪くないな。


「ま、実は街から街へは乗合馬車が出てたりするんだけどね。無人の」


「え」


「でも僕としては初心者の君にフィールドを歩く楽しさと大変さを味わって欲しかったんだ。だって、僕がフィールドをうろうろしてた時には馬車は実装されていなかったからねぇ」


 要するに自分が苦労したからお前もしろってことか!?

 まあ、歩き旅も悪くなかったんだが……こう言われると騙された気分になる。


「ドロシィはまだしも、チャリンはなんで教えてくれなかったんだ?」


『乗合馬車はたしかに便利だけど、モンスター強襲イベントが起こることがあるにょん』


「面白そうじゃないか」


『でも、その時に偶然乗り合わせていた他プレイヤーと協力することが前提の難易度だにょん。もちろん負けたら出発地点に逆戻りだにょん』


「他プレイヤーとの協力要素はストレスになり得るが、負けたら逆戻りは徒歩も変わらなくないか?」


『その通りだにょん! でもでも、運営側の人間としては細部まで作り込んだマップを徒歩のスピードでじっくり見て欲しいにょん!』


「ま、気持ちはわかるけどさ」


 メダロシティには無事たどり着けたし、もはや細かいことは気にしない。

 それよりもこれから期限までどうやって戦力を強化するか……。


「悩む前にまずは街の中に入るか」


 メダロシティの外観は、一言で言うと昔の人が思い描いてた未来都市という感じだ。

 無駄に高いタワーとか、無駄にキラキラしてる歩道とか、透明なチューブの中を謎の乗り物が走っていたりする。

 実際の未来都市は無駄を省いたシンプルなつくりなんだけど、昔の人は未来に夢を抱いていたのだろう。

 まあ、現代人が見ても結構ワクワクするけどね。この非現実感。


「やはり痺れを切らして早々にやって来たか……シュウト」


 もはやテーマパークの入場ゲートのような街への入り口にまったく馴染めていない仮面の男が佇んでいた。


「グリフレット! なぜここに?」


「来るような気がしていた」


「嘘っすよ。毎日決まった時間にあんたが来てないかチェックしてたっす」


 ハルトももちろんいる。

 毎日張り込んでいたとはご苦労なことだ。


「あれが仮面のグリフレットか。実物を見るのは初めてだねぇ」


「ドロシィ、知っているのか?」


「大きなギルドに所属していない上級プレイヤーってのは珍しいからね。まあ、僕もその一人なんだけど」


 ほう、あいつも煩わしい人間関係を嫌うタイプか。

 ちょっと親近感がわくな。


「ここに来たということは、新たなバトルスタイルを物にしたということだな?」


「ああ、そう思ってくれて構わない」


「では、試させてもらおう」


 グリフレットの手に武器が現れる。

 長い棒の先端に白銀の刃、そして刃と棒の接続部分に円形のガラス……。

 俺はこのデザインを知っている。

 見慣れている……!


「お前の新たなバトルスタイルが、俺の切り札コレクトランス・タウラスにどこまで通用するか」

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