Data.24 グリフレットの切り札
「コレクト……ランスだと?」
「そうだ。まさか、コレクトと名のつくメダルは自分だけの物だと思っていたか?」
ああ、思っていた!
確かにソードがあるならランスがあってもおかしくはない。
だが、それをよりによってグリフレットが持っているなんて!
しかも、『タウラス』ということは何らかの全力進化もしていると考えていい。
「容赦はせん。お前を殺すつもりで俺はいく」
「くっ……!」
グリフレットが槍を構えて突進してくる!
スキルで対応……は出来ない!
やつもまたコレクト系のメダルの持ち主なんだ。
「ふっ……俺のコレクトランスはお前のコレクトソードと少し違った進化をしているぞ……。効果発動ッ! アルデバラン!」
槍がひとりでに激しく燃え上がる。
スキルを吸収させた覚えはないぞ!?
「シールド!」
燃え盛る槍をビームシールドを三枚重ねて防ぐ。
しかし、すべて貫かれてしまう。
かくなる上は、コレクトソードで受ける!
ガギィィィィィィン!
金属のぶつかり合う音……。
コレクトソードの刃がこぼれる……!
「コレクトランス・タウラスの特殊効果『アルデバラン』。事前にセットしておいた手持ちのスキルメダルの効果に対応して槍が変化するのだ。スキルメダルを利用しているが、効果はあくまでもウェポンのもの。お前のコレクトソードで吸収することはできん」
「…………」
「だから受け身の戦い方はいかん。私に一撃も加えぬまま切り札の剣の刃を傷つけるとは……。勝負あったな」
「それはどうかな?」
「なに?」
「結局、それが可能な状況ならば後出しこそ最強なんじゃないか? 現に俺はあんたの手の内を明かして生き残っているし、反撃も出来る」
ビームシールドは完全に破壊されていない。
槍の貫通力がすごいのか、盾の形を保ったまま穴だけ開いている。
その穴に槍の刃が釣り針のかえしのように引っかかり、簡単には抜けなくなっている。
「破断粉砕撃!」
「ぐぬうぅ……ッ!」
グリフレットの腹に回転斬りを叩き込む。
たまらずグリフレットは槍を手放し、後ろへと逃れる。
「これが……お前の答えか」
「そうだ! 本当の強者は座して動かない! 過酷なサバンナに悠然と横たわる獅子のように! これが俺のスタイルだ!」
「なるほど……獅子の構えというわけか」
「そ、そうだ!」
そんなカッコいいネーミングまでは考えてなかったな……。
ただ、守りに特化したメダルと出会い続けるなら、それが俺の運命だと受け入れただけだ。
獅子の構え……いいね。
今度から使わせてもらおう。
「私はお前のことを侮っていたようだ。敵の攻撃を受け止められるならば、受けてから反撃するというのが最も理想的な戦い方だ」
「でも、先手をうつのが正しいって主張も俺は間違ってないと思う。RPGっていうのは煮詰まってくると受けを許さない攻撃がどんどん出てくるし、早く敵を倒せばそれだけ受けるダメージも減る。攻撃は最大の防御ってね」
「だが、お前は受けるスタイルを選んだ」
「ま、運命ってことで」
「フ……
「願い……?」
「シュウト、俺たちの陣営のプレイヤーとしてメダロシティ決戦を戦ってくれ」
● ● ● ● ● ● ●
メダロシティ決戦。
それはその名の通りメダロシティを戦場として行われる戦争である。
陣営は三つ。三つ巴の戦いだ。
入る陣営はギルドやらプレイ時間やらメダルの具合などに関係なく好きに選べる。
しかし、それならば何を基準に入る陣営を選ぶか迷うのでは……?
結論から言うと、そう迷うことはない。
三つの陣営の違いは、その陣営が勝利した時の特典の違いだ。
赤い旗を掲げる第一陣営、通称『エイトレッド』の勝利特典は『8つ目のメダルスロットの実装』である。
7つしかメダルをセットできないというのが、メダリオン・オンラインの共通のルールだっただけに、たった一つでもスロットが増えることは環境に大きな変化を生む。
それだけこの陣営は人気がある。
ちなみに、この陣営に所属しないと8つ目のスロットが永遠に手に入らないというわけではない。
あくまでもこの戦いは何をゲームに実装するのかを決める戦いで、陣営に所属した者には先行して8つ目のメダルスロットが実装されるが、そのうちすべてのプレイヤーのスロットが増設される。
青い旗を掲げる第二陣営、通称『オーバーブルー』の勝利特典は『新レアリティのメダルの実装』である。
現在ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、クロガネの5つのレアリティが存在するが、そこに新たなレアリティを加えようというのだ。
クロガネの上に入るのか、それとも特別なメダル扱いなのかはわからない。
陣営に所属する利点もいまいちハッキリしていない。
勝ったからといって、陣営の全プレイヤーに新レアリティのメダルを配るわけにもいかないだろう。
8つ目のスロットはある意味わかりやすいが、こっちには未知のワクワク感がある。
しかし、こういう特典がハッキリしないことから第一陣営との人気の差はさほどない。
拮抗していると言える。
そして、黄色の旗を掲げる第三陣営、通称『チャリンイエロー』の勝利特典は……『マスコットAIチャリンのプレイヤー化』である。
今のところゲームに干渉することが許されず、メニュー画面はいじれてもプレイヤーに触れることすら出来ないチャリンがプレイヤー扱いでメダラミアに降り立つ。
プレイヤー化することで一緒に冒険を楽しめるし、実体が与えられるのでおさわりも出来る。
ファンにとってはたまらない特典だ。
陣営に所属する利点はチャリンが優先的に絡んでくれること。
きっと決戦を頑張ったご褒美に頭ぐらいは撫でてくれる……ぞ……。
「こんなの第三陣営選ぶプレイヤーいないっしょ……」
『あー!! 酷いにょん!! 私もそう思ってるけど人に言われると傷つくにょん!』
「チャリンがどうこうってより、相手が悪すぎる! そりゃこのゲームのプレイヤーなら第八のスロットとか新たなメダルに興味を示すって! ぶっちゃけチャリンがプレイヤーになってもほとんどのプレイヤーに得はないもん!」
『きっと、陣営が二つだけだとつまらないと思った運営が三つ目を急遽考えたけど、特典までは思いつかなかったんだにょん……。とりあえず、ネタ路線でいこうって魂胆が透けて見えるにょん……』
「チャリンはこのイベント知らなかったの?」
『実はイベントがあること自体は知ってて黙ってたにょん。ネタバレ過ぎるかなって。でも、私の陣営を勝手に作られてるのは知らなかったにょん!』
毎度毎度不憫な子だ……。
さて、グリフレットには決戦に参加するかを少し考えさせてくれと言って一時的に離れてもらっているが、こうなってくると他人の願い関係なく俺はチャリンの陣営に入ることになる。
俺はチャリンがプレイヤー化したら得があるからな。
今度から本当の意味で一緒に冒険できるようになるし。
そうなると、グリフレットはなぜこの陣営に参加するんだろうか?
彼もチャリンに助けられたことがあるのだろうか?
そうでないならば、見た目が好みとか熱狂的ファンとか?
どちらもあの仮面から察することは出来ない。
チャリンが俺と一緒にいることを伝えた方がいいのか……?
戦力が少なく不利な陣営に所属してまでチャリンのプレイヤー化を望む人に、本人から応援メッセージを送ればそれはそれは喜んでくれるだろう。
……いや、やめておこう。
実際に会ってしまったら、そこで気持ちがゴールしてしまうかもしれない。
最後までチャリンに会えることを夢見て戦ってくれないと困るからな。
「戦うからには勝ちに行く。それで他のプレイヤーに恨まれてもな」
『でもでも、戦力的には厳しいなんてもんじゃないにょん。こっちはせいぜい三百人、相手は各陣営三万人はいるにょん』
「一人当たり百人キルすれば勝てるな」
『そんなすごいプレイヤーはいないにょん! 大半がおふざけでこの陣営に入ったにょん!』
「なら俺一人で一万人くらい倒すさ。ワクワクするなぁ……。期待されてない状況からのジャイアントキリング! まあ、実現できればの話だけど」
『私は……私は少しだけ期待してもいい……にょん?』
「もちろん。チャリンはうっかり俺がみんな倒してしまった時に送られてくるクレームへの対応でも考えといてくれ。あいつはチート使ってるとか殺到するぜ?」
『その時は使ってないってキッパリ言うにょん! だって、ずっと見てきたから!』
「そりゃ頼もしい」
初めての大型イベント……街一つを戦場にした戦い……圧倒的劣勢……。
不安はまったくない。
期待で体がうずうずする……!
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