Data.11 クロガネの衝撃

『……あ、えっと~、勝者シュウト! おめでとうございます! 二回戦進出です!』


「ふー、良かった! 全然アナウンスしてくれないから、もしかしたらルール違反でもしてたのかと思った」


 なにはともあれ、俺は勝った。

 観客たちは予想外の展開にかなりざわついているようだけど。


「ゲーム開始一か月でクロガネのメダルが入手できるはずがない!」

「チートだ! 規約違反してるぞ、そいつ!」

「優勝候補のレックスが一回戦で消えた……?」

「うちのギルドでスカウトしようとしてた奴に土をつけやがった!」

「俺の掛け金が……」


 なんか……ただ、勝負に勝っただけなのに恨まれているような気がする……。

 まっ、関係ないか。

 体が光に包まれ、コロシアムの控え室に戻される。


『シュウト! シュウト!』


「ん? なんだチャリン?」


『どうして切り札を一回戦で出しちゃったにょん!? 相手はゴールドのスキルを使ってきたけど、あれくらいなら同じゴールドで属性的には有利な【火炎旋風】でも良かったにょん!』


「勝つだけならそれでいいけど、優勝するには十分じゃない」


『どういうことだにょん?』


「このゲームの対人戦はメダルの効果がわからない以上、初見殺しが多い。小心者の俺はどこかで必ずコレクトソードを抜く。使わないまま負けたら絶対へこむからな!」


『その気持ちはわかるけど、それでも一回戦ぐらいは温存を……』


「いや、一回戦が一番効果的なんだ。俺の切り札はコレクトソードだけだと思うからな。実はまだプラチナのメダル二枚とゴールドを二枚持っているなんて誰も思わない。なんてったって、ゴールド一枚のレックスが優勝候補なんだから」


『つまり、コレクトソードを目くらましに他のメダルを温存すると』


「そういうことさ。だって、コレクトソードの存在を知ってる奴は俺たち以外にもいる。俺からメダルを奪った三人組さ」


『あ、そういえば……』


「俺がゲーム内で目立っていけば、いずれそいつらがコレクトソードの情報をばらまく。だから、必死になって隠す意味はそんなにない。それよりもまだ誰も知らないメダルを隠す努力をした方がいいかなって」


『なるほどねぇ~、よく考えてるにょん。疑って悪かったにょん』


「謝る必要はないって。この理由は後付けみたいなもので、本当はヤジ飛ばしてる奴らにクロガネのメダルを見せたらどうなるだろうなぁ~って魔が差しちゃっただけなんだ」


『……そんなことだろうと思ったにょん。でも、後付けでも正しいことは正しいにょん。特にレイドモンスターから手に入れたメダルは、見せびらかしすぎると最初にあのモンスターと戦って弱らせてた人にバレて恨まれそうだにょん』


「完全にハイエナだったもんなぁ……。まあ、システムが悪いってことで許してほしいけど」


 その後、試合はどんどん進んでいった。

 初心者だけのイベントなのに、参加人数は結構多いみたいだ。

 チャリンは悲観してるけどまだまだメダリオン・オンラインは人気だということを思い知らされたな。

 まあ、これが初めての対人戦でボコボコにされてやめる人もいるんだろうけど……。


 一回戦が終わると、そのまま二回戦に突入した。

 トーナメント制なので俺が二回戦でも第一試合を戦う。

 対戦相手は……完全にビビっていた。


「こ、攻撃したら跳ね返される……! ど、どうすればいいんだ!?」


「こうやって普通に斬りかかるのが有効だったりして!」


『勝者シュウト! おめでとうございます! 三回戦進出です!』


 二回戦はコレクトソードの切れ味を存分に味わってもらった。

 初心者が身に着けているアーマー程度なら簡単に切り裂ける。

 効果重視とはいえクロガネのウェポンなんだ。


「この調子でいこう!」


 三回戦ともなると、武器の扱いに慣れた感じのプレイヤーが増えてきた。

 リアルで武術とか習ってそうだ。

 しかし、残念ながらここはメダルが支配する世界。

 メダルの性能差で勝敗が変わる!


『でもでも、シュウトの動きもかなり良くなってるにょん! 武術みたいに洗礼された動きじゃないけど、勝つため生き残るための本能的バトルスタイルが身についているにょん!』


「あのデカブツとの戦いが良い経験になったのかもな」


 本能と直感、メダルと力を合わせて勝ち続けた俺はついに準決勝に駒を進めた。


「残ってるプレイヤーは流石にみんなゴールド持ちだなぁ」


『開始一か月でゴールドを持ってるのはなかなかすごいことだにょん! 有望なルーキーが多くて私も誇らしいにょん!』


「でも、この中で優勝できるのは一人なんだ」


 俺は今までこういうトーナメント戦で結果を残せたことがなかった。

 ベスト4どころか、ベスト8、ベスト16もあったかどうか。

 今回は運命が味方してくれてここまで残ったけど、それでも嬉しいものだ。


 観客の中にも俺を応援してくれる人が少し出てきた。

 賭けに負けてやけくそかもしれないけど、声援は頼もしく感じる。


「絶対優勝するぞ!」


『あたりまえだにょん!』


 ここまでが瞬殺なのもあったけど、準決勝は一番長い時間を戦った。

 剣戟をいくたびも繰り返したのち、俺が勝利した。


「くっそー! クロガネのメダルだけじゃなくて使い手もプレイングが上手いとは参ったな! 絶対勝てよ! 優勝者に負けたなら自分に言い訳ができるぜ!」


「ああ!」


 固く握手を交わす。

 ゲームでも熱い友情は育めるんだ……。


「なんだか新たな時代を感じるな」


『昔からゲームは友情を育むツールだにょん! 同時に壊すことも出来るにょん! 今回は対戦相手が良い人だったにょん! 基本的にオンライン対戦なんて負けたら煽り散らすにょん!』


「それはそれで新しい時代の象徴だな。さて、決勝戦の相手は……『ガラハド』さんか」


『ちょうど今から準決勝第二試合が始まるにょん!』


 百聞は一見に如かず。

 そのガラハドさんのプレイングを拝見させてもらおうか。

 まず公開されているメダルは……。


「えっ!? シルバーが一枚だけ!?」


『しかも、【銀の短剣】だにょん! シルバーの中では攻撃力が高く耐久に優れるかわりに、なんの特殊効果もないただの短剣だにょん!』


「そ、そんなので勝ち残ることが可能なのか……?」


 この疑問にガラハドさんはプレイングで答えてくれた。

 相手のスキルやウェポンの攻撃を読み、最低限の動きで避けて後ろに回り込む。

 そして、首を切り裂くだけ。

 このゲームでは、リアルの人体の急所がそのまま急所になっている。


「つまり女性のアバターより男性のアバターの方が不利なんだな」


『今の戦いを見て浮かんでくる感想がそれ!? まあ、その通りなんだけど……。でも、女性だって見栄はって胸を大きく設定すると動きにくくなるにょん!』


「貧乳の方が有利ということか」


『そうそう、このゲームは貧乳に優しいにょん。まあ、私はナイスバディなんだけど! って、そんなことよりどうするにょん!? スキルを使ってこないプレイング極振りスタイルだと……』


「コレクトソードの効果が腐る……!」


 まったく、面白いプレイヤーがいるもんだ。

 でも、負けることへの不安より、戦ってみたいとワクワクしている自分に驚く。


「目標は変わらない。優勝しかありえない!」

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