Data.12 翠風刃の男
「よろしく」
ルーキーコロシアム決勝戦。
俺は最後の相手であるプレイヤーネーム『ガラハド』さんと対峙する。
しかし、軽く挨拶してみたものの返事がない。
「あのー」
「ふん……。お前がうちのギルドのバカ三人組を打ち負かしたルーキーで間違いなさそうだな……」
「えっ、じゃあお前は……」
「勘違いするな。別にギルドのメンツにかけて復讐するなんてことはかけらも思っちゃいない。ただ、バカでも中堅プレイヤーではある三人組を負かすルーキーとメダルに興味があっただけだ」
「なんだ良かった! 正々堂々勝負ができるな!」
「ふっ、俺が勝った暁にはそのクロガネのメダルはいただくがな。この強奪の勲章で!」
「えっ!? でも、それはPKの際にしか発動しないはず……」
「コロシアムだろうとプレイヤーをキルすることに変わりはないだろ」
「た、確かに……!」
熱い友情だの、新時代を感じるだの、ぬるいことを言ってる場合じゃないな。
ガラハドさん……いや、ガラハドは間違いなく強敵。
しかも、明かしているメダルは二つだけ。
残り五つのスロットから何が飛び出してくるかわからない。
一瞬の油断が勝負を分ける……!
『それでは決勝戦! バトルスタート!!』
まずは様子見だ。
相手の動きをよく見て対応すれば、そうそう背後はとられない。
「
ガラハドの手から白い球が零れ落ちる。
それは地面に落ちると、もくもくと白い煙を吐き出し始めた。
「煙幕!? 忍者みたいなやつだ……!」
だが、これはおそらくスキルメダル。
コレクトソードで吸ってしまえばいい。
「メダルコレクト!」
煙がコレクトソードのスロットに吸い取られていく。
すぐに視界は晴れた。
でも、ガラハドがいない。
「後ろか!?」
とっさに温存していた【アルマジロアーマー】を装備し、背中を丸める。
これでジッとしてれば防御力は三倍だ。
ガギィン!!
首は斬れていない。
しかし、衝撃が首に貫通してきた……!
「ほう……いいアーマーを持っているじゃないか。そうでなくては面白くない」
「ちっ!」
コレクトソードを振り回し、ガラハドを遠ざける。
アーマーもそれなりにダメージを受けている……。
シルバーの武器ではこんなことあり得ない。
「プラチナのウェポンか……!」
「ご名答。流石にシルバーの凡メダルでお前に勝てると思うほどうぬぼれちゃいない。これが俺の切り札……
パッと見それは銀の短剣と似ている。
それだけシンプルな短剣だ。
大きく違うのはその刃を覆う緑色の光……いや、風か?
「気になるだろうが、あいにく敵に種明かしをする趣味はない。わからないまま死んでいけ」
今度は正面からガラハドが刃を振るう。
説明されなくたって、それなりにゲームを遊んでる人なら察しがつく。
風の力で切れ味を上げ、斬撃の届く範囲を伸ばしているんだ。
だが、コレクトソードはそもそも切れ味が良く、短剣に比べて刃が長い!
決して不利になっているわけではない。
「流石に俺の切り札もクロガネと打ち合うのは分が悪いか……」
ガラハドが翠風刃を収める。
「スキル勝負といこうか。
炎のつむじ風がコロシアムに吹き荒れる。
俺と同じスキルメダルだと!?
いや、そもそもガラハドと同じギルドのメンバーから俺が奪ったんだった!
「メダルコレクト……あっ、さっきの煙入れっぱなしだった! コレクトバースト!」
煙の斬撃を炎に放つ。
しかし、煙はあっけなく消滅した。
「もくもくしてるだけの煙に攻撃力なんてない。攻撃力を倍増させる効果があっても無意味だ」
「そりゃそうだ! でも、これで炎を吸収……」
「バカめ!
炎を吸収している上から大量の水が!
間に合わない!
「コレクトバー……!」
炎の斬撃が放たれた時には、俺は大量の水を浴びていた。
説明されていないが、このゲームにも属性ごとの相性があるようだ。
とりあえず……火は水に弱いな……。
覚えた……ぞ。
「体がダルかろう。普通ファンタジー世界だからと言って水をぶつけてダメージが入るかと誰もが疑問に思う。メダラミアの水属性攻撃は面白い解釈をしている。外傷こそ作らんが、生命力を奪うのだ。浴び続けると動けなくなって死ぬぞ」
「そりゃ面白い……! 流石はメダリオン・オンラインだ」
確かにだるい……。
二時間しか寝てない冬の朝くらいだるい……。
だが……。
「
「なにっ!?」
俺の体の近くに炎を放つ。
……よし、体が温まって目が覚めてきた!
「ふっ、機転が利くじゃないか。だが、俺のメダルのインターバルが終了した時がお前の最後だ。このスキルコンボをお前は破れない」
「それはどうかな……?」
このセリフ、言ってみたかったんだよね。
で、本当にどうするの……?
● ● ● ● ● ● ●
「それはどうかな……か。まだ策があると?」
「敵に種明かしをする趣味はない」
「くっ……! 減らず口を……!」
ガラハドが翠風刃による攻撃を再開する。
プラチナのウェポンメダルであるこの武器は、限られた時間だけ『風の刃』を展開することが出来る。
通常の刃より切れ味が良く、風なのに頑丈だ。
これを展開している間は、コレクトソードにも劣らぬ切れ味を維持できる。
そして、ガラハドは時間制限を『刃が何かに触れる瞬間だけ展開する』という方法でクリアしている。
物を切る時に刃が触れている時間というのは一秒にも満たない。
この一瞬のオンオフの繰り返しで、無限ともいえる制限時間を実現した。
(やはり、こいつは剣の素人! 打ち合いでは俺に分がある! しかし、あのスキル吸収能力には注意せねば……。これまでの試合を見る限り、吸収したスキルの威力を上げる効果もある。スロットの関係上、俺は強奪の勲章以外のアーマーをつけていない。直撃を受ければ死だ)
リアルの修行で手に入れたバトルセンス。
それを活用することで、ガラハドは短期間でプラチナメダルを手にするに至った。
ゆえに、彼はゲーム内においてもバトルに絶対の自信がある。
(そろそろ、火炎旋風のインターバルが済む。焦らず、冷静にコンボを決める。それで終わりだ)
「うおおおおおおおおお!!」
シュウトの攻撃が勢いを増す。
しかし、ガラハドはそれも予想済みだった。
「そうがっつくな。すぐに終わらせてやる。火炎旋風!」
「ならこっちも火炎旋風!」
そう、シュウトは自分の火炎旋風を間に合わせるための時間稼ぎをしていた。
炎を吸収すると水に対処できない。
だから、炎は炎で打ち消す。
「考えたな。ならお望み通り水をくれてやる!
打ち消しあう炎の上から水が降り注ぐ。
シュウトは剣を構える。
同時にガラハドは白煙玉で煙幕を生み出す。
メダルは別に名前を叫ばなくても発動できる。
静かに次なる一手【
(これは敵を捕らえる木の根のメダル! 水を受けると成長し、より太くなる! 脱出は不可能! さあ、水の斬撃波を撃ってこい!)
木の根がシュルシュルと動く。
そして、何かをガッチリと捉えた。
煙が晴れたそこには……。
「なっ!? 剣だけだと!?」
コレクトソードだけが根っこに絡まっていた。
シュウトの姿はない。
「どこに……ぐあああああああああああッ!?」
頭からザクザクザクと全身を通り抜けた斬撃によって、ガラハドは地面に倒れこむ。
これが致命傷だと彼は理解した。
「ふー、危ない危ない! 危うく触手に襲われるところだった! あ、これ木の根っこか。なーんだ良かった」
「な、なにをした……?」
シュウトは【シュレッダーブーメラン】と【破断粉砕撃】のメダルを見せる。
「このブーメランとスキルメダルであんたを攻撃した。どっちもプラチナだ。食らえばアーマーなしじゃ死ぬしかない」
「どうやって上から……」
「ハイジャンプ!」
「あ……そうだったな……。俺としたことが……相手のメダルを気にせずはしゃいでいただけのようだ……」
「あんた……ガラハドさんは間違いなく強かった。俺は戦ってる間ずっとビビってた。最後だって本能的に動いただけで……」
「いや、結果がすべてだ。俺の完敗だ。優勝おめでとうシュウト……」
ガラハドは光となって消えた。
もちろん、ロビーに戻っただけだ。
彼の冒険はこれからも続く。
『決着ぅー! 今回のルーキーコロシアムの優勝者はプレイヤーネーム『シュウト』さん! おめでとうございまーす!』
「うおおおおおおおおお!! 優勝できたぞーーーーーーッ!?」
『なんで疑問形なんだにょん!? でも、本当に最後の試合はカッコよかったにょん! 口を挟む暇がなかったにょん! おめでとうだにょん!』
「ありがとう!」
● ● ● ● ● ● ●
こうして、俺の初めてのイベントは幕を閉じた。
でも、まだ終わってはいない。
優勝賞品の【黒き進化のメダル】を受け取って、コレクトソードを新たな姿に進化させるぞ!
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